柊ゆゆとHAPPY えんど
今、ワタシの心の中はさいこーに満たされている。
弘樹の言葉が、細胞の一つ一つを埋めて、身体にしみわたって、感じたことのない快楽に身を震わせている。いっそこのまま快楽に身を任せて壊れてしまいたい。いくらワタシが求めてもついに手に入れることができずに、諦めてしまったものを得ることができた。夢みたい。こんなワタシを受け入れてくれる人がいるなんて。
でも、ゆゆは止まらない。
弘樹がくれたアイに報いらなくてはならないから。他のヒロインたちは、ハッピーエンドを迎えたらゲームだからそれでおしまいだ。でもゆゆは違う。ハッピーエンドの先も弘樹の人生が続く限り、この物語はエンドなんてむかえないのだ・・・なによりゆゆのアイは永遠。
ゲームオーバーはなく、リセットもきかないゲーム、ゆゆだけが紡げるゲーム。
ゲームにはドラマチックな展開が必要だ・・・例えば、せっかく結ばれた二人をジャマするイベントとかね。そう・・・それにはぴったりなヒトがいる。
そしてなにより、ゆゆのこれからのために駒となってもらわなくてはならない。
ワタシが不安がっているけれど、問題ない。だって弘樹とのアイは永遠で・・・そしてそうしたことを乗り越えってもっと深く強くなるんだから。恋愛にはスパイスも必要なのよとゆゆは笑う。
「弘樹、ゆゆは弘樹のことこれまでよりももっともっとシアワセにしてみせるからね。」
「ゆゆ、今度は俺が君を幸せに・・・いや、ゆゆと幸せを築いていきたいんだ。」
弘樹の言葉一つ、一つに体の芯が熱くなる。きゅんきゅんする。
「ゆうなの幸せをみることができて、もう私もすごーく幸せ!二人のことずっと応援するからね!」
そして友達がそれを喜んでくれる。絵にかいたようなシアワセ。手に入れるまで多くのものを犠牲にした。多くの痛みをともなうシアワセ。でも、だからこそ価値があるの。邪魔なものを排除して、ゆゆとワタシはシアワセを手に入れる。
さぁ、最後の・・・味付けをいたしましょう。
「ひーろき!大好き!もうゆゆのことをズット、ハナサナイデネ?」
「おっと、勢いつけすぎだよ、ゆゆ!」
「あー、いいなぁ、絵になる二人!見せつけられてるー!」
勢いよく、弘樹の胸元に飛び込むと、弘樹は驚いてちょっとよろめきながらもしっかりと受け止めてくれた。このまま弘樹の鼓動が聞こえる位置にずっといたい。・・・でも、そろそろ頃合いなの。
「ひ・・・ろき?弘樹なの?やっと・・・やっと・・・」
「え・・・姉ちゃん・・・なんで・・・」
ゆゆを抱きしめていた弘樹の手ががくがくと震え始める。もう、せっかくゆゆがセッティングしてあげた感動の再会に言葉も出ないって感じかな?弘樹のお姉ちゃん、あっちの世界に行ったときにすぐ見つかった。ゆゆの弘樹の部屋で眠っていたから・・・連れてきたの。本当ならもう二度と会うこともなかったはずなんだから感謝してほしいよ。
お互いに予想外のことで、言葉が出ないみたいだね。こんなに喜ばれちゃうとちょっと妬けちゃうな。
「弟から、弘樹から離れなさい!!」
「きゃっ!」
弘樹のお姉さんがゆゆのことを弘樹から引っぺがす。ゆゆはわざとらしくない程度に、でも大げさに床にしりもちをつく。あずさが駆け寄ってきて、すぐに体を支えてくれる。弘樹がそれを見て、眉間にしわをよせる。
・・・計画通り。バレないようにゆゆは小さく笑う。
「姉ちゃんゆゆに何するんだよ!?」
「何するんだよじゃないわよ!!さんざんみんなに迷惑かけて何やってんの!?どんな気持ちで私たちがあんたを探して帰りを待ってたと思っているの・・・それなのに、あんたはこんな女の子に騙されて・・・」
悔しさから、視線をそらし、唇をかみしめながら弘樹のお姉さんは、弘樹をではなくゆゆを睨み付けてきた。
「よくも、私の可愛い弟をたぶらかしてくれたわね・・・柊ゆゆ、私はあなたを許さない、弟を返してもらうわ!」
すごく安っぽいセリフだなーと思いながらも、鬼気迫る表情にだけは助演としての賞をあげられなくもないかなと思う。
「ひどいです、お姉さん・・・私はただ、弘樹に元気を出してもらいたかっただけで・・・そんなみなさんから弘樹を奪おうなんて思って・・・」
うるんだ瞳で言葉を紡ぐ。答えは「思ってますけどね」だけど。
「そうだよ、姉ちゃん、ゆゆがいてくれたから俺はまた生きる道が見えたんだ!なのにそのゆゆを侮辱するのは許さない!」
弘樹がゆゆたちと弘樹のお姉さんの間に割り込んでくる。かっこいいよ、弘樹。
お姉さんは、かったるそうに瞼を持ち上げる。そして忌々しそうにこちらを見つめる。
「・・・弘樹、ごめんね・・・お姉ちゃんがもっと早くに気が付いてあげれていれば・・・こんなことにならなかったのに・・・でも、もう大丈夫なんだよ、お姉ちゃんがずっと一緒だから、そんなゲームに夢中にならなくていいの」
その瞬間、弘樹が強く地面を踏む。
「ゆゆは、ゲームなんかじゃない!どんな人間よりも人間らしく誰よりも俺を支えてくれるんだ!」
「弘樹、あなた・・・」
強く言い切る弘樹を前に信じられないといったように目を見開く姉。
あずさは、ぎゅっとゆゆの体にしがみついてくる。
大丈夫だよ、これが本当のハッピーエンドへと向かうために必要な道だから。
心配しないで、今は弘樹をただ信じて、甘い痛みに耐えよう。
ゆゆたちにアイはすぐに理解されるから、なによりも強く、なによりも深く、超えられるものなんてないのだから。




