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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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愛玩

「借金もあるしさ、内臓売ってみようかと思ったんだ・・・でもできなくてさ、それで『お金で買える愛もある』ってことに気が付いて「出張ホスト」に登録したんだよ。・・・意外と需要あると思うんだよね。女性にだって性欲はあるわけだし、でも力で男性にはかなわないから危険なこと、面倒なことには巻き込まれたくないだろ?だからこそ、短時間のお付き合い、なるべく理想に沿ったサービスを提供するっていうのが重要なんだよ。」


ある日、旧来の友人と久しぶりに会った際に、彼は饒舌に自分が「出張ホスト」なるものに登録して稼いでいるという話をし始めた。自分のことを棚に上げるわけではないが、彼は私以上に人間づきあいの下手な奴だったから、正直気を疑った。

彼には妻も今年成人式を迎えた娘もいた。仕事だってしている。妻に愛想をつかされてひとり身となった私から見ればそこまで経済的に困っているようにはみえなかったからこそ、彼の「金」と「女」への執着であろうと考えた。私だって、得られるのであればほしい。だが、話を聞いていて自分のような親父が「金をもらって女を抱く」ということを正当化できる理由が見つからなかった。レンタル彼女や添い寝屋などと同じように世の中にはいろいろな仕事があるもんだと思っておくくらいが精いっぱいだった。


しかし、彼の話はここからが本題だった。


「・・・この間さ、すごく若い女の子、学生さんがたまたま俺に当たったんだよ。あ、もちろん年齢確認はしていて18歳以上ではあったんだけどさ、その子のことが気になって仕方がないんだ・・・愛とか恋というよりは、捨てられた動物を見つけたような感覚で・・・哀れみっていうんだろうかとにかくほおっておけなくて。」


「ちょっと待て、いろいろまずくないかそれ、まず18歳の学生って高校生の可能性ないのか?そんな子と寝たとしたらおまえ、それは犯罪だぞ!」


「・・・黙っててくれよ、ここでこうやって客のこと話しているのだって本当ならルール違反なんだからさ。」


愕然としてしまった。そんな年齢の女の子を客として扱ったこの男に対してかける言葉がなかった。

そして、この男を買った女の子にもなんという感情を抱いたらいいのかわからない。

娘よりも年下じゃないか・・・そして、哀れみなんてまるで本当にペット扱いしている。

いくらなんでもそれはないだろう。


「その子さ、精神的に弱ってて・・・一人でおいておくなんてことをしてはいけないって感じたんだ。だから会社に内緒で連絡とったり、金額おとして会いに行ったりしているんだけど・・・」


「・・・しっかり金はとってるんじゃないか・・・」


「そこをしなかったら、ただのボランティアだ。」


それは、その会社にも中途半端に甘やかしている女の子にもどちらにとっても裏切り行為というんじゃないだろうか。行動と理念が全く伴っていないとあきれ果ててしまった。だが、彼を咎めるだけの権利が自分にあるかと言われれば、それもないので深くは問い詰めないことにした。


「可愛い子なんだよ、こんな世界とは関わり合いになってほしくないような純粋な女の子。だからこそ、愛着がわいてきて・・・今じゃ世界で二番目に愛しているくらいなんだよ・・・動物だって拾って飼ったら愛情わくだろ?」


「・・・そう思っているんなら、まずその動物扱いをやめてやれよ、比喩とはいえ愛しているとは思い難い言い方だぞ。」


「わかってもらえなくても、愛してるんだ。その子のことを自慢したい話したいって思うんだけど、そんなこと話せるわけもない・・・」


「つまりはお気に入りのおもちゃができたから自慢したいわけか。」


「すごく懐こくて、ネコみたいなんだ。帰り際なんて可愛くおねだりしてなかなか帰してくれなくってさ・・・本当他の奴に当たらなくて、俺でよかったよ。他のホストだったらひどい目にあわされてたに決まっている!」


皮肉交じりに言った言葉にも動じずに、その子について話せることに喜びをかみしめている旧友をなんともいえない気分で見つめていた。

そんな時、はたと気になったことがある。その女の子は一体何を求めて「出張ホスト」を呼んだのだろうと。可愛いというのなら、特別自分から男を買わなくても、自分を売った方が金銭的にも得だったのではないのだろうか?金銭を払ってまで安全を選んだ?男が嫌いだった?どうも旧友の話を聞くかぎりではどれもあてはまりそうにない。


「そのこはさ、愛情に飢えてるんだよ。それも普通の愛では満たされない。自分だけが特別で自分だけを抱きしめてくれる人を探してるんだよ・・・でも、そこには応えられないのが俺の仕事だから困っているんだ。」


ーあなたの愛は異常よ!もう付き合いきれない・・・お願いします、私を解放してください。-


旧友の言葉に、別れた妻が言った言葉がかぶった。

普通の愛ではたりない。底知れない寂しさ、自分だけを見てほしい欲求。それが止まらない、止められない辛さ。認められない。どんな手を使ってでもいいから、飢えを癒したい。

会ったこともないその女の子に、親近感を覚えた。そして興味を抱いてしまった。それは愛や恋ではなくもう一人の自分を見つけたような気持だった。


「・・・なぁ、その子とのこともっと教えてくれないか?」


「なんだよ?興味沸いてもお前にあげる気はないからな!」


「そういうんじゃないから、純粋な・・・興味だ。」


愛じゃない、恋じゃない、純粋な興味、異常なほどの愛を求める女の子を他人とは思えなかった。

その女の子を知ることで、自分を知ることができるかもしれない。

そうして、私はその女の子のことを旧友から定期的に相談という形で聞くようになった。


この出会いが、「柊 ゆゆ」という私の愛おしい娘を作り上げることになるのだが、彼女が出来上がるまでの話はそれはもっと先の話だ。


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