ゆうな
昔々、というほどでもなく、まだ「365×12」ができあがる少し前の話。
ゆうなという一人のものすごく寂しがり屋な女の子がいました。
高校に上がるまで女の子の成績は学年でもトップクラス、クラスや部活、生徒会においても常にリーダーに選出され、とても明るく活発な女の子でした。
ですが、女の子はいつも心の中で一人でした。
誰も女の子の悩みに気がついてはくれませんでした。帰りの遅い両親、喧嘩ばかりの家族、中立であろうとすればするほど誰とも仲を深めることができずに孤立していく恐怖。いい子でいなくてはならない。
人よりも優れていなくてはならない。女の子はいつもなにかに追われ、なにかに怯えていました。
親に求められるまま、休みもなく、塾と家庭教師に勉強を習い、見事に親の望んだ高校に進学しました。
女の子は、いつからか自分の中に物語を作って遊んでいました。そして周囲にも、まるでその登場人物が本当にいるかのように語ります。その話はとても面白いので、多くの人が続きを聞きたがります。
女の子は、嘘を重ねていきます。
理想のお兄ちゃん、少しだけ体の弱かった女の子を守ってくれる人たち、ドラマのような展開・・・ほんの少し日常を面白くした話をしている間は、友達がそばにいてくれる。話を作らなくちゃ、もっとドラマチックに過剰にたまにはせつなく、事件を起こして、恋愛にも発展させて・・・女の子は独りぼっちが嫌で仕方がなかったのです。
そのうち、女の子は自分が特別に勉強ができていたわけじゃないことに気が付きました。
運動もそうです。確かに中学までの女の子は絵にかいたような優等生でしたが、高校生になった女の子は現実に気が付き落胆しました。私程度の人なんて、何人でもいる。
そして、つかれきっていました。勉強も運動もだんだんついていくことがきつくなり、目標もなく生きることに不安を募らせていきました。
物語の世界は優しくて、いつも女の子を助けてくれます。だってそれが女の子が作ったものだから。
そのうちにいくら物語を作っても、虚しいだけ・・・本当の自分にはなにもないと諦め始めていました。
女の子には一人姉がいました。12歳離れていたので、一人っ子とも、もう一人の母親ともいえる不思議な関係でした。そんな姉が、高校二年生の時結婚することになりました。
その時、妹は文化祭の実行委員として、とても頑張っていました。まるで少女漫画のような恋もしていました。楽しいと、感じる瞬間がありました。
久しぶりに両親がほめてくれると思っていました。ですが、文化祭は結婚式の準備と重なり、女の子が期待していたようなことは起こりませんでした。
頑張ってもうまくいかないんだと女の子は悟り、看護師だった母が神経質で眠れないことのある女の子にお守りとして渡していた「精神安定剤」を全て飲み、リストカットをしてふらふらになりながら高校へ通いました。
そして、階段で倒れました。
保健室のベットで目覚めたとき、女の子はどこで間違ったんだろうという思いとともに、久しぶりに休めた気がしました。
そして、それと同時に自分の中の物語の主人公だった自分がいなくなったことに気が付きました。
「・・・ひとりぼっちになっちゃった・・・。」
女の子のことを以前よりも家族は心配するようになりましたが、それ以上に女の子は孤独を抱えました。
医者にも連れていかれ、女の子は大量の薬を飲まされるようになりました。飲めば楽になるからと言われて飲んだ薬は、可愛いと評されていた女の子の姿を太らせ、手足を震えさせ、まともに歩くこともできなくしました。
どうしてこんな目に合うんだろう。
それでも、女の子は一人になりたくない一心で物語にすがり続けました。物語の人たちは女の子がどうなってもひどいことを言ったりしないから、それだけが女の子を救ってくれました。
ですが、あくまで物語は心の中のもの。大好きなお兄ちゃんも、頼れる先輩も、実際に女の子を抱きしめてはくれません。さみしい。さみしい。
それからしばらくして、女の子は「出張ホスト」と出会いました。
お兄ちゃんとはかけ離れていたけれど、お金を払った時間だけは自分のことを大切にしてくれるそんな存在。女の子はだんだんと出張ホストに騙されていきました。男は女の子が本当に好きになったといってきました。お金をとらなかったり、時に気まぐれに、娘ほども年の差のある女の子をもてあそびました。もう連絡をしないといって女の子が忘れたころにまた好きだと連絡をしたり・・・女の子はどうしたらいいのかわかりませんでした。それでも、自分が利用されていて、愛されていないことだけはわかってしまうのです。
女の子は普通の男性からも好きだといわれることも少なくはなかったのですが、何故か利用され中途半端に扱われ、ストーカーをされたりひどい目ばかりを見ていました。
それでも、どうしてもさみしくて仕方がなくて、どこかに物語の中の頼りになるお兄ちゃんがいるんじゃないかとあきらめきれずにいました。自分が悪いのだ。いつかはきっと・・・このさみしさをうめられるのではないかと信じたかったのです。
そのうち、女の子にお金を払おうとする人も出始めました。
それはあの「出張ホスト」に自分がしたことと同じ、男たちは女の子を好きに扱いました。
女の子はお金を自分から請求しません。法律に反することをしたくないという中途半端な善良さとそれでは本当の人には出会えないという思いと、女の子が探していたのはあくまでさみしさを満たしてくれる人だったのです。
だから、すごくひどいことをするだけして女の子をモノとして扱うこともありました。
喉を撫で、ここまでははいるはずだと家に帰してと泣く女の子を押しつぶす男。
恥ずかしい写真を撮り、そのことで脅す男。
お金を落としたと嘘をついて女の子からお金を巻き上げる男。
誰も女の子が望む言葉や、望んでいたことはしてくれませんでした。
あるとき、女の子は周りの人たちから促され、ついに警察に助けを求めました。けれど、わかってはいたことですが、女の子の弱弱しい態度が悪いと、そんな店につれこまれた女の子が悪いと、訴えたいのなら明確にすべてを明るみに出すように警察は女の子を諭しました。
ホシカッタコトバッテナンダロウ?
夜が明けてくるころに女の子は疲れたなと思いました。
なんだかとても疲れた・・・今日もあずさと遊ぼうと約束をしていたのにその約束、守れそうにないなと思いました。
そして、このさみしさを無くすための方法を思いつき、実行したのです。
いまではかわりに、あずさがひとりぼっちになってしまいましたとさ。
これがひとりぼっちが嫌だった女の子のお話し。
ひとりぼっちになることや悪いことをすることを許すことができずに自分自身を攻め続けた女の子のお話し。
誰にも知られることのない、ただの一人の女の子のお話し。
本当だったらここで、終わるはずだったお話です。




