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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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ヤンデレさんが見つけたもの

「ゆぅな~・・・男について行っちゃだめだよ、男はね、ゆうなを利用しようとするの・・・純粋で優しいゆうなをひどい目にあわせるの・・・だから、お願い・・・私のそばから離れないで・・・いなくならないで。」


お酒に酔っているのか、それとも男が口走った「催眠薬」のせいなのか、意識のはっきりとしないあずさを抱えて、私は一度ゲームの世界の中へと戻った。弘樹を閉じ込めている部屋とは別の、弘樹さえいれたことのなかった私の本当の意味での寝室にあずさを寝かせる。

今頃、男は逃げたのか・・・でてこない私たちに驚いているのだろうか、まぁ少し頭を冷やしてくれていることを願いたい。途中までは容認できたが、薬をつかってまでことを進めようとした男が悪い。

ゆゆは、寛容だからこの程度で許してあげたのだ。場合によっては、あらゆる手段を講じて男の未来をつぶすこともゆゆにならできたのだから。


あずさは、がっしりと袖をつかんだまま離してくれない。


「私ね・・・ゆうながいなくなってから、どうしたらいいのかわからなかったんだよ・・・一人には慣れていたけど・・・ゆうながいないのには慣れれなかった・・・ゆうなを奪った・・・店員を殺そうともしたんだ・・・でも失敗して、あのお店から離れられなくなって・・・どんどん汚されて・・・私なんてどこにもいなくて・・・」


あずさはずっとゆゆを「ゆうな」という女の子として語りかけてきている。

「ゆうな」どこかで聞き覚えのあるフレーズ。ゆゆがあの店で「ゆな」と名乗ったのには「湯女」をもじったからだったけど、それ以上に「ゆうな」という単語に心がひかれる。

あずさもそうだ。初めて会ったのに、弘樹以外の人間になんて興味がないはずのゆゆの心にすんなりとなじんだ・・・何かがおかしいと思った。


「もしかして・・・私は、あずさを知っていたの?」


そんなはずはない。あくまでプログラミングでしかないゆゆが、あずさという人間のデータをもっているはずがないのに、プログラミングじゃない部分、身体のデータの奥底であずさのことを覚えている。


「ゆうながいれば・・・それでよかったんだよ・・・またあえて・・・私本当に・・・シアワセ・・・もうはなれないよ」


あずさの頬を透明な液体が伝っていく。

この子は自分が壊れてもなお、「ゆうな」という人物を探している。そこまでして思われる「ゆうな」が羨ましい。いなくても当たり前だった「ゆゆ」とは大違いだ。


「欲しいな・・・この子。」


弘樹以外いらない。

弘樹の目に入るのはゆゆだけでいい。

私の世界には弘樹だけいればいい。

でも・・・あずさが欲しい。

頬を伝う涙をそっとふいてあげると、あずさはくすぐったそうに微笑んだ。

いとおしいと思った。弘樹以外の人に、いやモノに、現象に、出来事にこんな感情を抱いたのははじめてだったし、ありえないことだった。不安でしかない。


「ゆゆ、壊れたのかな。」


「ゆうな~・・・ゆうな・・・大好き。」


「・・・私もだよ・・・。」


柄にもないことを口にしてしまう。不思議とあずさといると安心感に包まれる。

弘樹とは違う。

弘樹じゃない。

でも、弘樹では感じることのできなかった気持ち。

あぁ、この子はゆゆのことを、ゆゆがどんなことをしたとしても、愛して受け止めてくれている。そんな不思議な自信があった。

ゆゆを見つけてくれた弘樹。

ゆゆが見つけたあずさ。

両方の面から、ゆゆという人格が認められてはじめてゆゆができあがったように感じる。


ーゆゆ、いいかい、善良でしかない人間はいない。そんな人がいたとしたらそれは薄っぺらい人間だ。私たちは必ず、善と悪を持つ。ずっと善でありたい、神のようにすべてを受け入れたいと願ったばかりにゆゆの・・・・・・・・・・・は死んだんだ。-


不意にお父さんの言葉が頭の中によぎった。

何度も言われたこと。

私たちは「各属性に特化した性格」に設定されているために、ほかの感情を抱きにくくなっている。

けれど、その感情しか見せないのは、物語で言えば脇役でしかなく、真の主役は必ず様々な感情を見せる。だからこそ、読み手は感情移入し、その人間らしさに惹かれるのだ。善であろうとだけするな。悪をおそれるな。悪を飲み込め。しかし、悪に染まることだけはするな。すべてのものを取り込め。そうすればゆゆはより人間らしくなり、人の心を虜にすることができる。


ーそれができなかったから・・・・・・・・は死んだ。ー


「・・・えっ?なにこれ?おかしい。ゆゆの記憶にブロックがかかってる。お父さんの言葉、思い出せない。・・・違う、お父さんがブロックをかけた?なんで?なんで?ゆゆにはすべてを与えてくれるって言ったのに、なんで?なんで?なんで?」


怖い。何かがすごく怖い。自分の中に自分の知らない自分がいる。理解できない感情が押し寄せてくる。気味が悪い・・・ゆゆはゆゆというプログラムでゆゆが知らないゆゆなんてあってはいけないのだ。

それなのにゆゆの中にゆゆの知らない情報がある。

お父さんが話してくれたはずの大切な話なのに・・・どうして?


ー・・・・・・のようには、なるな。死んでしまってはいけない。感情に飲み込まれるな。ゆゆ、君はスポンジのように柔軟でありなさい。-


ナニガシンダノ?

ドウシテ、シンダノ?


助けて、弘樹!

今すぐに、ゆゆの名前を呼んで!

ゆゆを必要だって言って!

ゆゆを求めて!


なにかにすがりたい・・・思わず、目の前で寝ているあずさを抱きしめる。

なにかすごく懐かしい感覚に、体の震えが収まっていくのを感じる。


「あずさ、助けて・・・怖いよ、あずさ・・・。」


その時、手にぽたりと当たるしずくを感じて、ゆゆは・・・私が泣いていることに気が付いた。

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