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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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出会い喫茶

「それで、どうするゆなちゃん?このまま本当に一緒にかいものとかに行く?それとも、もう一度中に戻る?」


「・・・私、まだタノシイを教えてもらえなかった。だから戻りたい、いい?あずさ?」


中途半端にしてこのままあずさと遊んでみるのも良いことだとは思ったけれど、男の欲望にあふれたあの場所でもしかしたら弘樹の中の「男」としての部分を満たすことのできるなにかを得られるかもしれないと思うと・・・このままでは、データが足りなかった。


「いいよ、でも店員とかうまいこというだけの男性には本当に気を付けて、何かあったら私を呼んで・・・そうだ、ゆなちゃん、二人で外出させてもらおうか!」


あずさが良いこと思いついたと目をきらめかせて、そのまま店に戻って何か話をして、私に満面の笑みで微笑みかけてきた。


「OKもらったから、二人で同じ席に座ろ!」


「え・・・うん?」


あずさが適当にジュースを持ってテーブルに並べる。同じように適当にお菓子もとってきて並べるので、なんだか軽くパーティのような空間が私たち二人の席にだけ出来上がっていた。

小さな声で話すで話すなら、友達同士で来てもかまわないらしい。ただし、二人一緒に外出できるとは限らず、男性側がどちらかだけを指名することもあるらしい。二人同時に外出に連れ出す男性というものがどれだけいるのか・・・ちょっと不思議だった。

でも、一人で座っていた時よりもずっと気持ちが明るくなった。

たまにあずさは出会ったばかりにしては、過剰ともいえるスキンシップをとろうとする。私はそれにこたえることができないので、軽くスルーするのだけど、女友達ってこんな感じなんだろうか?


「男の人たちにはね、ただこうして女の子同士ではしゃいでいる姿が見たいって言う人もいるからこれもサービスなんだよ。」


「そうなんだ、弘樹もそういうの・・・」


「どうしたの?ゆなちゃん?」


「なんでもない。」


・・・弘樹もそういうのが好きだったとしたら、ちょっとゆゆには受け入れがたい。弘樹が喜ぶとしても、ゆゆ以外の女の子を目に入れるなんて許せないから。たとえゆゆのことを引き立ててくれるとしたって、弘樹が笑顔を向ける先にいるのはゆゆだけでいいの。もし、弘樹が求むとしたら・・・隣にいる女の子をめちゃくちゃにして、二度とそんなこと思えないようにしてあげたいくらい。


「ねぇ、あずさは男の人の気持ちよくわかるの?」


「よくわかる・・・って言ったらうそになるかな。わかんないことの方が多いもん、でもここにくる男の人のことなら・・・私たちをそういう目で見る人たちのことならちょっとはわかるかな。」


「そういう目?」


「・・・良くて恋愛感情、たいていの人は性欲処理のための物体かな。でも、割り切ってお金くれてるんだからしかたないよね。こっちだって同じようなもんだし。」


あずさがため息をついた。あまりいい気分がするわけではないらしい・・・あたりまえか。品定めをされるっていうのは、されている方からすればたまったものじゃない。ゆゆも、ほかのヒロインたちが選ばれていく中で、その選出にも関わることができないのはすごく悔しかったし、ほかのヒロインが誰かと仲良くやっているのをみると焦りにも似た感情を・・・感情?いや、きっと感情なんだろうを覚えていた。

弘樹はゆゆをどんな目で見ていてくれるのだろう?

恋愛感情ならそれに勝るものはない。絶対的な束縛の元、ゆゆがシアワセをあげられるから。でもたとえ性欲処理のための物体だったとしても・・・ゆゆはかまわない。弘樹が求めてくれるのならば全力でそれに応えるし、ゆゆなしでは生きていけない体にする自信だってある。


「ゆなちゃん、あずさちゃん、二人と話したい人が来たから頼むよ。」


「はぁーい、行こうゆなちゃん。」


三人でトークルームに座るのは、少し狭い・・・バレないようになんとか身体が触れないラインを演出する。弘樹といたときは感じなかったけど、人間同士の距離感ってめんどくさい。近すぎても遠すぎてもなにかしらの不信感を与えることになるから。


「こんにちは、二人とも可愛いね。さっきは一人でいたけど、お友達だったんだ。」


「ありがとうございますー!あずさとゆなちゃんはね、親友なんですよ、ね。」


距離感って難しい。友達なんかいないし、自分以外のヒロインは敵だったゆゆに悪びれもなく笑いかけてくるあずさ。


「・・・仲良しです。」


その言葉に二人機嫌をよくしたらしい。


「そっか、なら三人でカラオケに行こうか?もちろん交通費は二人分別に出すよ!」


男が手の平を広げて見せる。


「わー、優しい、ゆなちゃんはどう?あずさは問題ないよ!」


どうやら今のが金額交渉だったらしいけど、私にはよくわからなかった。でもあずさがいいというならそれなりのラインは超えているのだろう。


「私もかまいません。」


「ゆなちゃんもしかして緊張している?大丈夫、一緒にカラオケで歌って楽しむだけだからね・・・その先はそこで考えればいいよ。」


男が醜く笑い、ぞわぞわと何かを這わせるような視線で私たちを見ている。値踏みをされているようだ。


「いいかい、今から店員が来たら一緒に外出するって言うから二人ともうなずくんだよ。」


最終確認をするように、または逃げられないための最後の罠を張るように男は私たちを見つめた。


「時間です、さてどうなりましたか?」


「外出決まりました!」


男の警告通りにやってきた店員とのやりとりに私たちはうなずく。

一度荷物を取りに鏡の部屋へと帰ってきた私たちは、店側からもわずかなお金を渡されて、見送られる。


「今日は国会議員も来るから、帰ってきてね!」


二人の人間の時間が買われるまでにかかった時間はほんのわずかで・・・正確には一人の人間と一人のAIだけども、こんなにも簡単に時間と身体をお金にする場所に国会議員まで来るとしたら・・・。


「あれ、ゆなちゃんご機嫌だね?カラオケ好きだった?私はあのおじさんはあんまりなー、そのあとついて来いって言われたらお断りって感じかな。」


「・・・面白いなって思って。」


この場合の面白いは私の知りたかったタノシイではなく、「滑稽だ」という意味で私は笑いをこらえることができずにいた。あずさは何才だろう、すくなくとも20歳は超えているんだろうな。そんな女の子との時間を得るために必死になって顔色を窺い、金銭で交渉をするその倍以上の年齢の男。


私の知りたい愛はこんなものじゃないけれど・・・こんな汚いやりとりすぐさまやめて、たとえ傷つけたとしても弘樹のもとに戻りたいけれど・・・なぜか、今私はこの「あずさ」という女に興味を・・・いや、親近感といった方がいいのかを覚えている。


「ゆなちゃん、なに歌う?」


「あずさの知らないような恋の歌。」


「エー何それ、でも楽しみだなー、ゆなちゃん歌うまそうだもん!」


だから、もう少しだけこの世界を観察してみよう。

あずさを見ていれば、自分のことをもっとよくわかることができるかもしれないから。







ーーーーーー

ゆなちゃんはきっとあの男が本当に望んでいることに気が付いているはずだけど、この誘いについてきた。興味本位なんだろうか?お金が必要なんだろうか?・・・私と遊びたいから?

きっと私と遊びたいからなんだ・・・だから、あの店に戻りたいって言ったに決まっている。だってあの子はゆうなにそっくりで、姿だけでなく話し方や振る舞いもゆうなで・・・だから私に会いに来てくれたんだ。

強引にそのあとを迫られたときにカラオケだけでうまく終わらせられるかは私にもわからない。以前にも、そこで終わろうとしたけど力で負けたこともある。・・・今回は二対一とはいえ、やはり私たちは女であるということにかわりはない。

いざとなれば私だけが付いていけばいいけれど・・・あの男の狙いはゆなちゃんだ。

汚い目でじろじろとゆなちゃんを見つめていた。隠せていると思ったら大間違いだ。

せっかく、私のもとに帰ってきてくれたのに・・・また身勝手にずけずけとあんな男たちに傷つけられるわけにはいかない。


「もし、そうなったら・・・今度は、私が死んだとしてもゆなちゃんを守り抜いて見せるからね。」


一人、トイレの鏡を前にしてそうつぶやく。

久しぶりにこんなに自然に自分が笑っている顔を見た気がする。

やっぱり、友達といるっていいな。せっかくなんだから、カラオケだって楽しんだもん勝ちだよね。


あの日閉ざされた私たちの未来をもう一度始めよう。


「楽しみだね、ゆなちゃん!」


心も体も軽かった。

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