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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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柊 ゆゆと友達

この部屋の中の時間はゆったりと進む。こちらからは何も変わらない。暇だから、テレビを見上げてみる。時たま鏡が異様に膨らんだりする。

私はというと、何回も店員に呼ばれて、特に意味をなさない会話をするためにトークルームに連れていかれていた。おじさんたちがあの手この手で私を誘い出そうとする。

乗るつもりのない話・・・でも、中には「君と話す10分に何円出したと思っているんだ!」とつかみかかってこようとする人もいて、そういう時は静かに手をあげて店員を呼んだ。


「ねぇ、ゆなちゃんさっきから男性のお誘い断ってばかりだよね?すごいお金持ちもいたのに、何が気に入らないの?・・・俺はゆなちゃんのことかなり気に入ったんだけど、もし自信ないんなら、俺がゆなちゃんを変えてあげようか?」


何回目かのやり取りの後に、店員の男が私を呼び止めた。狭い店内だから背後には壁しかない。

・・・なるほど、これが世にいう壁ドンってやつかとか考えても特に意味はなく、弘樹だったらともかくこんな男に迫られたところでなにもドキドキなどしない。逆に弘樹だったとしたらこのまま死んでしまいたいくらいシアワセだけど。


「変える?私を?あなたが?」


笑ってしまいそうになる。この世界を変えるために作られた私をたかが人間が変えるそんなことができるとでも思っているんなら、思い上がりも甚だしい。


「こんなお人形さんみたいな顔しているんだから、すぐに男たちに使われるんじゃなくて、男を自分のために動かせるようになるよ。」


「・・・自分のために・・・動かす・・・」


「ゆ、ゆなちゃん!一緒に買い物に行ってくれるって言ってたのにこんなところでなにしてるのー?もうこっちが先約ですよー。ゆなちゃん借りてきますよー!。」


見たことのない少女。黒髪を肩くらいでぱっつんと切って、前髪も流行に合わせたのか眉よりもかなり短い。小柄な体で、胸元の開いたワンピースをひるがえしながら、なぜか目じりに少し涙をためて私と店員の間に割って入ってきた。


「ほら、ゆなちゃん行こう!」


「う・・・うん。」


お願いだから一緒に来てと懇願されるようになって、私はその女の子の後についていった。

後ろから店員が舌打ちをする音が聞こえる。

汚いビルのエレベーターを少し下がって、店員も男もいないことを確認すると女の子は大きく息を吐く。


「はぁーーー、緊張した。ごめんね、びっくりしたでしょう?でも、ダメだよ、あの店員さんの言うこと聞くとろくなことにならないから・・・実はね、私、あなたが入ってきてからずっと見てたの。あなた、たぶん自分からここに来たわけじゃないでしょ?すごくイヤそうだったから、でもきっと出ていく方法とか分からないんだろうなって、それでなんとかしてあげたくって・・・つい声かけちゃったの。」


周りから見ると、私はそんな風に見えていたのか・・・確かにこの状態を望んでいたわけでも楽しんでもいなかった。AIでも表情にはでるものなんだと必死な女の子には悪いのだけど、少し面白くなってしまった。。


「迷惑だったかな?ごめんなさい、名前も勝手に見ちゃって・・・。」


女の子が頭を下げる。

私には不思議でならなかった。この子は、あの店員に負の感情を抱いている。それなのにそれを隠してこの場所にいて、なおかつ見ず知らずの私を助けようと立ち上がり、そして今度は助けたはずの私に謝っている、自分にはなんの関係もなく、良いとも悪いとも言ってもいないのに。

この間にうずまく感情を、どうしたらそんな風に情報を処理できるのかを、私は知らない。


「ゆなちゃんだよね、私、あずさって言うの。困ったことあったら言って、ネ?あんなところだけど、出会えたのもなにかの縁だから!」


「あずさ・・・どうして、あなたはここにいるの?あなたは、いろいろと知っているみたいなのに・・・?」


あずさはひどく複雑そうな顔をして私を見ていた。きっとあまり聞かれたくはないことだったのだろうけど、私にはそういうことがよく分からない。


「お金、必要なんだ・・・こんなことあまり言いたくないけど、私、あの場所大嫌いだけど・・・心の中では社会になくちゃならないものだとも感じているんだ。必要悪、みたいな感じかな?少なくとも自己責任で、たまには本当に怖い思いすることもあるけど、でも私なんかがこれだけお金もらえるのって他に方法、なくってさ。」


てへへと笑うあずさは可愛かった。でも、その笑顔には痛みが含まれていた。

アイを切り売りしなくてはならないほど、あずさにとってお金は必要なものなんだ。・・・違う。お金があれば切り売りのアイを手に入れることができる・・・?


それなら、ゲームとして買われたゆゆだって同じことだ。

ゆゆは愛するために生まれて、愛するために売られていたプログラミング。

目の前のあずさとなにが違うんだろう。


「ゆなちゃんは、なんだろう私たちとは違うなって感じたんだ。」


「・・・私は、同じだと感じたよ。」


「え?そうなの・・・なら、本当に友達になろうよ!」


笑顔で差し出された手を握り返すことはできないけれど、私は、あずさといれば何か足りないものを知ることができるように感じたから、不自然にならないように笑顔を返した。


「うん、宜しくね、あずさ!!」


私に初めてのトモダチができた瞬間だった。






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