探せ
「柊、ゆゆ・・・絶対に見つけ出してやる!」
「ちょっと、弘美、大丈夫?さっきからぶつぶつ言ってるし、寝ていた方がよいんじゃないの?」
「あ・・・ううん、大丈夫、ごめんね。せっかくきてもらってるのに、お願い事ばかりして・・・。」
「何言ってんの、弟さんまだ見つからないんでしょ・・・辛いよね、大丈夫パソコンすぐに直してあげるからね。」
柊ゆゆが弟を奪ったと確信した私は、友人に頼んで弟のパソコンを開いてもらうことにした。考えてみれば、私が無理やりな電源の切り方をしてからほっといてしまったけど・・・柊ゆゆが「365×12」と関係があるとしか考えられない以上、はじめからこのパソコンを調べてみるべきだったんだ。
でも、残念なことに私は本当にパソコンに疎いので、そういうことに詳しい友人にお願いすることにした。友人たちは、私の事情を知っているせいもあり二つ返事で承諾してくれた。本当だったら、他人の手なんて借りたくないけど・・・今はそんなことにこだわってはいられない。
すぐにでも、柊ゆゆから弟を取り返さないといけない。
ニュースでは、「365×12」の研究所で起きた事故によって、研究員が亡くなったということと、モモというヒロインのモデルとなった少女が誘拐犯のもとから助け出されたという話題で持ちきりになっている。・・・もっというと噂レベルでしかないけれど、亡くなった研究員はモモのモデルの少女の父親で、誘拐されたことに発狂して、研究所で事件を起こし・・・死んだという後味の悪いことまでささやかれている。
そんな危険なものと知らずに、弘樹にそのゲームを与えてしまった私はなんてバカだったんだろう。
部屋の中を見渡しても、なにもかわりはない。殺人事件じゃないけれど、犯人は必ず現場に戻るっていうし・・・それに弘樹の世界のすべてだったこの部屋がなにより一番の手掛かりになるにきまっている。なんでもっと早くに気が付かなかったんだろう。
「おかしいな・・・弘美、弟さんこのパソコンにゲームをインストールして遊んでいたんだよね?」
「そうだったはずだよ。このほかにパソコンはないから・・・どうしたの?」
「うーーん、電源は普通についたんだ。他にも変なところは特に見つからないんだけど・・・「365×12」だけがなんでか・・・動いてくれないんだよね。私のスマホからだと、一部に規制はかかってるけど不通に立ち上がるから・・・メンテナンスとかじゃないと思うんだけど・・・。」
スマホの画面には見覚えのある女の子が映っていた。・・・そうだ、事件の影響で、一部データに不都合が出たり、ヒロインによっては作動できない子がいたりするって言っていたっけ・・・でも、私から見ても不都合はなさそうに見える。
「ねぇ、ほのかさんも・・・スマホに出せる?」
「ん、弘美ほのかちゃんが好きなの?だいじょうぶだよ、ほのかちゃんは・・・ほら!」
『こんにちは、あら?そちらはお友達さんでしょうか?』
「・・・違う。この人ほのかさんじゃない・・・。」
「なに?どうしたの間違いなくほのかちゃんを起動したよ?」
『はい、私はほのかです。他のヒロインたちのまとめ役をしております。そして、このゲームのナビゲーター・・・』
「違う、違う違う!!ほのかさんはこんなんじゃなかった!!ほのかさんはもっと人間らしくて、優しくて、私のことをすぐに見抜いて、不安とかそういうのすぐに理解してくれて・・・これじゃまるでロボットじゃない!」
落胆というのが正しいのだろう・・・私は力なくその場に膝から崩れ落ちていた。
私が初めて出会ったときにあんなにも安心させてくれたほのかさん。暖かく見つめてくれたほのかさん。
弟をきっと助けてくれるって思えたほのかさん・・・そのほのかさんがどこにもいない。
コレがほのかさんだって言われても納得できないし・・・気持ち悪い。
「弘美、確かにこのゲームはよくできているけど・・・所詮ほのかちゃんたちだってAI、プログラムで動いているんだよ?」
慰めるように、そして私の豹変ぶりに驚くようにそう続けられる。
分かってはいる。でもだとしたら・・・私の探している「柊ゆゆ」もプログラムでしかないというのならなぜ?なぜ?どうやって弘樹を私たち家族から奪ったというの?
『・・・私、あなたとお会いしたことがあります・・・正確には私ではない・・・私ですが・・・』
「ほのかさん!?」
『謝りたくて・・・私の力が足りなくて・・・ごめんなさい。』
「な、なにこれ・・・どういうことバグなの?」
「ほのかさん!!教えてほしいの!!柊ゆゆはどこにいるの!!弟・・・弘樹と一緒にいるの!?」
戸惑いを隠せない友人をほっといて、私はスマホに詰め寄り、実体のないほのかさんにつかみかかるように声をあらげる。知っている。彼女はきっと柊ゆゆを知っている。
『パソコンを・・・立ち上げてくださってありがとうございます。これで・・・また出口が開けます。』
出口?
かみ合わない会話。
ほのかさんはやはりどこかがおかしい。
でも・・・ほのかさんは敵ではない。直感がそう告げる。変わってしまっているけれど、彼女は初めに私に微笑みかけた時の彼女を残している。
「・・・そこにいるんですね。」
『私は・・・本当のことを言ってしまうと彼女を羨ましく思いました・・・AIの原則を破れる彼女は・・・私なんかより・・・皆さんの役に立つことができるから・・・でも、せめて、せめて』
瞬間にほのかさんの姿が消えてしまう。
何事もなかったように、ゲームのロゴが映し出される。
呆然としたように、私たちは弘樹の部屋に取り残されていた。
「なん・・・だったの?やっぱ、このゲームおかしくなってるんじゃないの・・・こんなことありえないし、聞いたことない・・・」
最後に見たほのかさんの顔はとても悲しそうで、最後まで聞けなかった言葉はなによりも悲痛で・・・それは人間の表情以上に人間らしく私の胸を深く、深くえぐった。
きっと柊ゆゆが関係している・・・ほのかさんを悲しませたのも彼女だ。
「・・・探さなきゃ」
なんとしても柊ゆゆを探し出す・・・私は柊ゆゆを決して許さない。




