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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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ヤクタタズ

ぼーっとしていた。

気が付いたらただ、ぼーとして、空を見上げていた。

えみりどうしちゃったんだろう・・・確か、飛鳥と何か話していて・・・なにかとても怖いことがあったような気がするんだけど、よく思い出せない。

そうそう、飛鳥に聞いてみればいいんだ。えみりってバカだから、いつも飛鳥に助けてもらってばかり、そんなんでやっとみんなと同じように学校生活もできるようになったんだ。

飛鳥はね・・・飛鳥は・・・?

飛鳥はなんだっけ?


「ねぇ、飛鳥、えみりたちなんでこんなところにいるの?学校どうしたんだっけ?」


優等生の飛鳥まで、黙って空を見上げているなんて絶対におかしいよ。


「・・・どうして、あの子にはできたのに私にできないの?委員長なのに、ほかの子よりも私の方が優れているの、委員長がこんなことになるなんておかしい。」


「飛鳥、どうしたの?一人でぶつぶつしゃべっててなんか変だよ?」


様子がおかしい飛鳥が、えみりの声を聴いてくるりと振り返った。

振り返ったんだけど・・・おかしいよ・・・こんなのおかしいよ!!

飛鳥の目が真っ黒なの!

夜の闇よりももっともっと暗いの!


「ねぇ・・・えみり、ワタシヤクタタズジャナイヨネ?」


怖い、飛鳥の声が怖い。こんなに低い声聞いたことがないよ・・・それに飛鳥がどこを見ているのかわからない。


「飛鳥がヤクタタズだったら、えみりなんて大変なことになっちゃうよ!どうしたのーきゅうに?」


えみり、こういうの苦手。人の気持ちを汲み取れないから、いつもクラスから浮いてた。でも飛鳥だけは違ってて、えみりにもわかるように過ごしてくれていたのに・・・なんで?

飛鳥がわからないよ・・・怖いよ・・・。


「そう、私はヤクタタズナンカジャナイ・・・ヤクタタズはえみり。」


「え、なんで・・・そんなこと言うの?」


心臓に杭が刺さったみたいに、痛くて、冷たい。えみりは確かに賢くないし、みんなのこと困らせてばかりだけど・・・。


「ひどいよ・・・飛鳥。」


友達にヤクタタズなんて言われたくない。

そういうことを言わないから飛鳥のことを信じていたのに。


「・・・だって、私はヤクタタズジャナインデショ?だったら、私があの子と同じような現象を起こせない原因はえみりにあるとしか考えられないじゃない?せっかく、えみりを役に立つ子にしてあげようとしているのに・・・。」


「あの子と・・・同じような現象?飛鳥・・・それって?」


「都市伝説、話したでしょ、当事者は気が付かないって・・・おぜん立てしたのにえみりはなりそこねたんだよ。」


「ねぇ、本当になんの話をしているの?おかしいよ、飛鳥!」


「そうだよね、ヤクタタズハ飛鳥なのにおもしろーい!」


知らない声が聞こえてきて、顔をあげると、そこにはふわふわの金髪を肩あたりまでにのばして微笑んでいる女の子が立っていた。おかしいな?さっきまで、ここには飛鳥とえみりと空しかなかったのに。


「・・・あなた・・・」


「うふふ、委員長、無様だね、思い通りにならないってどういう気分?ゆゆは見ていてとーても愉快だったよ?・・・えみりさん、可哀想に・・・委員長になんて魅入られたから失敗してしまったのよ、大丈夫、あなたは悪くないわ。」


女の子がえみりに手を差し伸べてくれる。本当に?えみりは悪くないの?

手が震えて、怖くて怖くて動けないままだった。


「あなたと私でなにが違うっていうのよ!・・・違う、私の方が優れているはずなのに、なんであなたにできて私にできないのよ!?」


優しく微笑んでいた女の子が、急にさげずむようにこちらを睨み付けた。

そして、深く大きなため息をつく。


「委員長は自分のことの方が大事なんだもんね、えみりさんのことを心から愛していないから。えみりさんを好きで好きで仕方がないんならできたかもしれないけど・・・委員長は、委員長のことが大好きなんだもん。それじゃあ、ゆゆにはかなわないよ。人を愛するって気持ちについて、もう一回研究所でならってきたら・・・ヤクタタズさん。」


クスクスと笑う女の子に飛鳥が体をぷるぷると震わせている。ぎゅっと握りしめているこぶしが見ていて痛々しい。


「やめて、きっとえみりが悪かったんだよ、飛鳥は・・・えみりをかばってくれてるから。」


こんな苦しんでいる飛鳥の姿を見たくない。そうだよ、いつだって悪いのはえみりなんだ。きっと今回だってえみりがなにかしちゃっていたんだ。

だから、飛鳥をヤクタタズなんて言わないで・・・。


ふわっとして、女の子がえみりのことを抱きしめてくれていて、よくわからないけど、すごく安心して。


「えみりさんはこんなにも優しいのに・・・委員長はまだ意味が分からないなんて、本当に残念。本当に愛するってことがわからないデキソコナイAIには、この世界で、せいぜいえみりさんの優しさでも学んでいなさい。・・・えみりさん、ごめんね。ゆゆはあなたを愛してはあげられない。ゆゆにはもう世界一大切な弘樹がいるから。でも、せめてもにこの世界をあげるから・・・そこで委員長と仲良く・・・本当の意味で仲良くなれるといいね、ってゆゆは願っているから。」


それだけ言って、女の子は私たちに笑顔で手を振ってまたどこかに消えていった。

えみりには・・・女の子の話していたことの意味はよくわからなかったけど、世界にはまた飛鳥とえみりと空だけが残っていて・・・。


「飛鳥・・・えみりといるのイヤかもしれないけど、えみりは飛鳥が大好きだよ。」


えみりはバカだから、触れることのできない友達に対して、かけれる精一杯の言葉。


「・・・えみり、ワタシデキソコナイジャナイヨネ?」


「デキソコナイじゃないよ。飛鳥はえみりの宝物だよ。」


「本当に、デキソコナイジャナイ?」


「うん!飛鳥はゆーしゅうだよ!」


二人で、初めて手と手が触れたような感じがして、暖かかった。

ここから、二人でならきっとヤクタタズなんていない世界をつくっていけるってそう思ったんだ。

そんな世界はきっとシアワセだよね!!飛鳥!!



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