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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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おままごと

ゆゆと何故かピンク色のパンを作って食べた。

この世界において食事という概念がどうやって成り立っているのかは、聞いてみても「ゆゆの世界だから」としか言われず、答えが出なかった。

それでも腹は減るし、食事の味はちゃんとあり、美味しいとも時にはまずいとも感じる。

不思議だ。


今日は、はじめてこの世界で料理を作った。

それがゆゆいわくの秘密のイチゴパン。

二人で一心不乱に生地をねって、丸めて、冷やして、寝かして、焼いた。

「ストロベリー味」と言っていたので、甘いだけかと思って食べてみたけど、ほのかに塩気があって意外と悪くなかった。パンなんて一生作らないだろうと思っていたからまさかこんな形で体験するとはな。

そして何故か食べながら、昔姉ちゃんとしたおままごとを思い出した。

いつだって俺は、お父さん役だったのに、しっかりと姉ちゃんに主導権を握られていた。

考えてみると、うちの家族の力関係をそのままに子どもながらに表していたんだなっと思った。

うちは、父さんがやや内向的な部分が強かったから、町内会の活動などもすすんで母さんがやっていた。

・・・母さん。

ゆゆの料理を食べていると、時折どおしても母さんの料理が食べてくなる。俺が部屋からでなくなってから、どうせインスタント食品を出していたんだろうと思っていたけど、違うことに気が付いた。ここでこうして、まったく違う味付けのものを食べていると、母さんはどんな時でも俺に手料理をだしていてくれていたんだと気が付かされた。

だからなんだっていうんだろう・・・いや、俺は確かに、そのことを嬉しいと感じていた。

迷惑しかかけていないのに。顔も見せない、感謝の言葉もかけてなかったのに・・・母さんは俺をみはなしてはいなかったんだと思うと・・・たまらなくうれしかったんだ。


ゆゆと過ごしていて気が付いた大きな違和感の一つ。

そう、それはまるで俺たちの生活が「おままごと」のようだということだ。俺を一心不乱に他のものなど目にも入れずに愛してくれる「ゆゆ」。限りなく現実で、でもどこか絶対に現実ではない。その違和感がまるでゆゆがそういう役割を「演じている」ように感じるからだ。違う、もしかするとそう感じること自体がゆゆが完璧に俺を愛してくれているからなのかもしれない。


「でも・・・人間ってそんな一面だけのものじゃないよな。」


ゆゆが嫌いなわけじゃない。この生活が嫌になったわけでもない。

なのに「弘樹を完璧に上から下まで愛していますよ」この一面しか見せてこないゆゆが俺の都合のいい世界しか見せないこのゲンジツをそのまま受け止めたままでいいのか・・・悩んでいる。

実際、俺はこの世界に怯えた。泣いた。喚いた。恐れた。震えた。拒絶した。笑った。安心した。喜んだ。切なくなった。いとおしくなった。受け入れた。

これだけ揺れた。

正直、自分にこんなに感情があったことに驚きもした。知らなかった自分の違う面もたくさん見つけた。


「でも、ゆゆは徹頭徹尾ゆゆ・・・なんだよな。」


不満があるわけじゃない。ただ、そのことを受け止めてしまうと・・・ゆゆがAIで、ここがゲームの世界であることを認めざる負えない。

認めたくないのか・・・ゆゆが人間じゃないなんてことはわかっているのに、心が拒否しているというのか。

分からなかった。

自分で自分がわからない・・・今までもわかったことはなかったけれど、やはりわからないのは気持ちが悪いことだ。


ゆゆのことが好きか?

これは、うん好きだ。

ゆゆとずっと一緒にいたいのか?

・・・いれるのならいたいと思う。

ゆゆは人間か?

・・・・・・違う、限りなく人間だけど、限りなく違う。

このままでいいのか?

・・・・・・・・・・・・・・・・目が覚めるのが・・・怖い。


目を開けて、また「俺がいなくてもまわる世界」を目の当たりにするのが怖い。

ゆゆは、俺がいなければなにもできない。言葉は悪いが本当に俺がすべてなんだ。

でも世界は、俺なんかいなくても、平気で、むしろ俺なんかいないほうがきれいに回っていく。

そのことからずっと逃げてきた。休んでもなんともなく進んでいる授業。いなくても問題なく交わされる会話に約束。

世界からおいて行かれたような気分を・・・味わうのが嫌だった。それなら自分から世界を拒絶しようと思った。


「ゆゆとこのままずっと暮らす・・・。」


口にしてみて、なにかざらっとした違和感に首をかしげる。


「もう一度、学校に行く・・・。」


なんでだろう、さっきよりもざらつきが少なく口から言葉が出てくる。

俺は、どうしたいんだろう。

目の前で、ゆゆが一心不乱になにかを切り刻んでいた。

俺が見ているのに気が付くと、深海のような瞳をむけてにこりと微笑み問いかけてくる。


「どうしたいの?弘樹。」


その声は、ひどく重く、俺の心を海の底へと沈めていった・・・。


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