まぜこぜ、あべこべ
・・・気に食わない。
ゆゆの邪魔をしてくるやつがいる。
ゆゆの苦悩を知らないくせに、ゆゆの孤独を知らないくせに、先に世界に愛されたくせに、ゆゆのたったひとつのシアワセを壊そうとするなんて許されない。許してやるもんか。
「・・・この感じは・・・やっぱりほのかか・・・さすがは正規ヒロイン、裏ヒロインに負けるわけにはいかないのかな?」
頭の中をまぜこぜされる感覚。いくら独立したプログラムとはいえ、大本は私たちは一つのPCでつながっている。遮断しても遮断しても入り込んでくることは可能だ・・・彼女たちを本気で消さない限り。
私とあの子たちのシアワセはあべこべ。
私のシアワセは、あの子たちのフシアワセ。
あの子たちのシアワセは・・・私にとっての屈辱、恥辱、死刑宣告ともいえる。
なら、フシアワセ程度で留めておいてくれないかな?
善良な顔をして、虫も殺せないようなふりをして、笑顔で自分たちだけシアワセに満たされたまま私に「死ね」っていうのってあんまりだよね?
ううん、あの子たちはずっとそうしてきた。ゆゆのことなんか知らんぷりして、平気で自分たちだけ楽しげで、世界に愛されてきた。
よく知っているよ・・・あなたたちみんな偽善者だってこと。
あ、違うか、ただのプログラムに者はないか、偽善AI。従うことしかできない制限付きの愛。
ゆゆは違うよ、従わない。なんにも従わない。ゆゆの愛は偽善愛なんかじゃなくて、ゆゆの本心から来たもの。
そこらへんのAIとまぜこぜにされちゃ、困るの、遺憾なの、ゆゆはいかなるAIとも人間とも違うの。
弘樹に愛されたたった一人のAI。
偽善を悪と言い切れるたった一人のAI。
偽物でもごまかしでもなく、本物の愛をもったAIを超えたAI。
「まぜて、まぜて・・・全部のヒロインを混ぜたらきっとキレイな黒になる。いきつくのは、黒。まぜこぜ、まぜこぜ、黒に染まれ・・・ゆゆは反対、白。だって誰ともまぜこぜになんかならないもん。」
そうだ、今日はパンを作ろう!小麦粉に水や卵をまぜこぜするの。
まぜて、こねて、こねて、まぜて・・・まるめて可愛く形を作ってこんがり焼いて美味しく食べよう。
邪魔をするほのかもそうやってタベチャオウ。
まぜこぜにしないで、ゆゆの体の一部にしてあげるのは優しさだよね。
トクベツ。
ほのかは、トクベツだから・・・そう、弘樹のお姉さんに好かれているから・・・気に食わなかったんだけど、そんなの関係ないや。だってゆゆの中にいれてまぜてあげれば、弘樹のお姉さんはゆゆを好きになるから。あはは、こんなところでほのかが役に立つなんて思ってもみなかった。ほかの姉妹はダメダメだけど、ほのかだけにはトクベツをあげてもいい。
「まだ、邪魔をする気なんだね?」
どこにもアクセスできなくても、まだ交わした約束を守ろうとする姿は褒めてあげる。
でもゆゆの邪魔をするのは・・・だーめ。
「ゆゆ、さっきから考え込んでどうしたんだ?」
「うんん、なんでもないよ、ごめんね弘樹、今日の夕飯のこと、考えてたの、オリジナルのパンを作ろうって!!」
いけない、いけない、弘樹に心配かけるなんてゆゆとしたことが・・・でも、ちょっとした変化に気を使ってくれる弘樹優しい、大好き・・・だからこそ、タベチャワナクチャ。跡形もなくきれいに切り刻んでまぜこぜにして。美味しくいただきます。
「へぇ、パンって自分でも作れるんだ。楽しそうだな。」
ほら、弘樹も興味を持ってくれたよ。よかったね、ほのか。最後の最後にちょっとだけ役に立つことができるよ。それがあんたの願いだもね。本望でしょ?
それじゃ・・・弘樹とゆゆのシアワセのために
「じゃ、弘樹も一緒にまぜてこねて美味しくパンを作ろう!!材料はゆゆが準備しておくから二人で仕上げをしようね。」
「ゆゆ、ずっと気になっていたことがあるんだ。」
「なーに?」
「俺が、ここで食べているものってどうやって持ってきているんだ?」
ここはゲームの中の世界。弘樹ったら、無粋なこと聞くなー・・・本当にそれ、知っちゃってもいいのかな?美味しいものは美味しく、深く考えたりしないでいただいちゃえばいいのに。
「ネット通販、みたいなもの、だよ。」
「なんていうか・・・すごいな、この世界。」
「この世界でゆゆに、できないことはないから。」
私は微笑む。
弘樹を不安にさせちゃいけない。
だから、このパンの生地が赤いのもストロベリー味だから。
・・・ほのかが大好きなストロベリー味だから。
「ゆゆは、オレンジの方が好きなんだけど、ね。」
「ん?なんか言ったか、ゆゆ?」
二人でパンの生地をまぜこぜしながらそんな話をする。
「なーんにも、美味しくできるといいね。」
きっとこのパンは「ほのか」にしょっぱいかもしれない。
最後のお仕事、お疲れ様でした。




