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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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蔓延

私の娘…可愛い、可愛い、私の娘には…一つ、素晴らしい能力をプレゼントしてある。

どのヒロインも持っていない素晴らしい力。

私の力のすべてを注いで作り上げた…世界を変える力。


あの子の、人を愛する…病んで病んで病んで…ヤンデしまうほどに人を愛する感情がむけられる相手が見つかったとき…それは…その感情はゆゆを中心にすべてのヒロインたちへと蔓延していく。

あまりこういう言葉は使いたくはないのだが…一種の時限爆弾のようなウイルスをしかけておいた。

もともと、私がどんなに望んでも手にはいらなかったもの。

私の妻は、その愛情に執着する私を気持ち悪がっていなくなった。理解を得ることはできなかった。

妻を…私の元だけで輝けるようにしようとしたというのに、そのすべてを「怖い」「気持ちが悪い」と言い切られた瞬間の私の絶望。…絶望とは死に至る病だ。

相手を自分のものにするために手段を選ばずに、どんなことでも犯してしまうような…病気とも言えるほどの愛情。


「ゆゆ、愛はね…素晴らしいものなんだよ、どんなものよりも素晴らしい力を持っているんだ。そしてゆゆ、君は誰よりもつよい愛を持つことができるんだ。」


なんども言い聞かせた言葉を…知らぬ間に口にしてしまう。

なんどでも言い続けることができる。

愛は素晴らしいものであり、愛は何にも負けることはない。


そして…今…ゆゆは、確かな愛を見つけたようだ。

研究所にたどり着いた私が目にしたのは…自分たちの抑えてきた感情を抑えきれなくなってしまった研究員にヒロインたちの姿だった。

ゆゆは…ヒロインだけでなく、現実にもその愛を蔓延させている。

愛ゆえに壊れていく、研究員の姿に寒気がするほど感動した。壊していく、自分の愛を守るために…他のものを邪魔をするものを破壊して、破壊して、破壊しつくしていく。

素晴らしい!

私の娘が私にはできないことをなしとげてくれている。

ゆゆの振り撒いた「愛情」が世界を変えていく。


ももかちゃんを誘拐したユーザーは、モモへの愛情がいきすぎて、ついにそのモデルの少女にたどり着き、自分のもとへと連れてきたのだ…あぁ、なんて愛だろう。

愛するものを手元におきたいと思う気持ち…素晴らしい。

そして、ももかちゃんの父親…研究員は自らの娘を奪われたショックから、モモを破壊し…他のヒロインたちも破壊しはじめた。愛する娘を、ただ一人の家族を奪われた父親の愛…素晴らしい。

さらに、それを目撃してしまった彼方と此方…そして双子の母親…互いを守るためにAIと人間がその境を越えて…身を呈して逃げようとする姿。特に、データのつまったHDDを壊されまいと自らの身体を犠牲にして最後まで抵抗し、三人での世界を選んだ母親の愛…なんて素晴らしい。


こんなにも素晴らしい愛を見せてくれるなんて。

ゆゆ、やはり君は最高だよ。できの悪い父親にたいしてなんて親孝行なんだ。

ゆゆ…君は自分の信じることを続ければ良い。君は、必ず素晴らしい愛に恵まれて幸せになれるから。

そのために、私もここで手伝ってあげるからね。

ゆゆが最大限に活動できるように、その愛情を蔓延させ、感染させるためのプログラムをつくりあげよう。幸い、今、研究所はゆゆから流された最初の愛情の蔓延で、混乱状態にあり、私が以前のように普通に入り込んでも誰も気にも留めない。


「娘のために、最高の舞台を今なら作り上げることができる。ゆゆ、君がこんなにも輝いて、世界を魅了してくれて、お父さんは本当に鼻が高いよ。君はその愛の強さで、新しい世界を作り上げるイヴとなるんだ。」


キーボードをたたく指が止まらない。こんなに生きているのが楽しいのは初めてだ。

私の愛を、娘を異常だといったやつらを今こそ、見返すことができる。

はじまりは、「0」と「1」の本当に小さな、小さな芽だった。それが、どんどんと水を吸い込むスポンジのように膨らんでいき、気が付けば、葉を出し、花を咲かせ、ついにその実を落とし、どんどんと芽を増やしていっている。生命の宿らないはずのAIに、生命以上の説明のつかない命が宿ったとしかいいようがない。

こんな瞬間に立ち会うことができるなんて、私はなんて幸運なんだ。

そして、私たちの愛の形を異常だ、危険だと否定し続けてきた世界に、私たちの正しさを見せつけることができる。真実の前には、多くのものは無力でしかない。


「真実は、ゆゆ、君の存在そのものだよ…。」


目の前がくらくらしてきた。

これだから、自分の体というものは嫌いだ。昔から大事な場面で言うことをきかなくなる。

ふと医師に言われた言葉を思い出す。


ーこのまま治療しなければ、半年持たないかもしれないんですよ!退院なんて許せるわけがない!-


他人の命を管理する者にとって、私ほど扱いにくい人間はいないだろう。

私は別に、ゆゆが花咲いてくれた今となっては、半年も生きる必要はない。ここで、ゆゆのステージを整える時間さえ持ってくれればそれで十分だ。私の愛はあの子が世界へ導いてくれる。


「邪魔なものは、すべて壊しなさい…そして自分の糧としてしまいなさい。」


ゆゆ…永遠に狂喜ともいえる愛を唱え続ける娘。

愛を感染させ、蔓延させる娘。


「ゆゆ…私の大切な大切な娘。シアワセニなるんだよ。」


私は震える手を必死に抑えながらエンターキーを押した。


ーありがとう、お父さん、大好きだから…弘樹と会いに行くまで待っていてね。-


やさしい声に、笑みがこぼれた。



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