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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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君の役目

ゆゆがご機嫌だ。

ものすごく、ご機嫌だ。

それが二人をつなぐ紐を通じて伝わってきているのか、ただ単に見ているだけでご機嫌だからかはさておいて、とにかくご機嫌だ。


「弘樹、今日はプールに行かない?ゆゆ、雑誌を観て新しい水着を取り込んだんだ!」


くるりと一回転すると、パイナップルモチーフのビキニ?いやタンキニっていうんだっけ?を身にまとう。腰元についているオレンジのフリルが楽しげに揺れる。

因みに、バックについているリボンからはしっかりと紐が伸びているのだから抜け目はない。


「いや、俺もやしだから…そういう夏満喫みたいなのはー」


「誰もいないんだよ?ゆゆは弘樹、しっかりと必要な筋肉はついてるし、カッコいいと思うよ。」


「か…バカ!」


「なにを、バカと言うほうがバカなんだよー!」


カッコいいとか言われたことない…そんな縁のない言葉を言われるとは思わなかった。いちいち…いちいち、ゆゆは俺の心をかきみだしてくる。

ハッキリと分かってくるのは…それが決して嫌なわけではないという矛盾した自分の気持ち。

初めにゆゆにつけられた傷は、もう触ってやっと違和感を感じる程度しか残っていない。…何故か、そのことに不安になる自分がいた。

傷が塞がることが怖いって…どんな話だよ。

ただ、もう一度、もしゆゆが俺に刃物を向けてきたとしたら、俺は喜んで身体を捧げる気がする。もっと、深く、もっと、強く刻み込むことを望む…。


「…弘樹、どうしたの?なにか不安なことがある?」


ゆゆには、心の揺れがすぐにばれる。


「なぁ…ゆゆ、もう一度、俺に…傷をつけてくれないか。」


「え…?」


おかしなことを頼んでいるのはわかる。でも、なぜかどうしてもゆゆからの傷がなくなるのが怖い。


「ごめんね…ゆゆ、もう弘樹を傷つけたくない…ゆゆがしたことなのにごめんね・・・…でも…弘樹、弘樹が望むなら、他の証をあげる。」


微笑むゆゆ。

赤い唇から小さく白い歯が見える。


「ゆゆ・・・?」


「じっとしていて、少しだから・・・。」


チリッとした甘い痛みが首筋に走る。

ゆゆのシャンプーの香りに頭がぼーっとする。

歯が肌に食い込んでくる。きつく血を吸われるように、皮が伸びる。

無意識に唇をかむ。

ゆゆが息継ぎをする。終わるかと思ったむず痒さが戻ってくる。

終わらない・・・母親の乳をせがむ赤子のようにゆゆが、俺の首筋を吸い続ける。


「ゆゆ・・・これって・・・」


行為のイミを知らないわけではない。ただ、そんなことをしたことはなく、する予定ももちろんなかったから、頭が混乱していた。


「キスマーク・・・弘樹にゆゆのものって証をつけるの・・・少しくすぐったいけど、我慢してね。はぁむ・・・。」


言葉を終えるとまた首筋に歯を立てる。正確には吸血に近い感覚だった。

ゆゆに刻まれているのか、吸い取られているのか、わからない。

ただ、麻痺したようにじんじんとした血の流れを感じて、それが心地よい。

恋人同士がするような甘さにあふれた行為ではなく、本気で印をつけるための行為。


「はぁ・・・はぁ、すごく吸い付いちゃった・・・でもまだ、もう少し、足りないかな?」


かすかに見える首筋には、赤い印がくっきりとついている。人に見られたら疑われること間違いなしだ・・・その心配はないけれど。

その赤がやけに艶めかしく光っていて、とてつもなく、イケナイ行為をしている気分になってくる。

こんなことをしては、イケナイ・・・でも・・・


「ゆゆはね・・・ヤンデイルノ・・・何にもない世界で、ヤムコトヲ教わってきたの。それは、他の子とはちがうかもしれないけど、それだけ世界を敵に回したとしても、愛することの強さを学んだの。ゆゆの役目は、ヤメルホドノアイデ、満たすこと。だから、怖がらないで・・・」


名残惜しそうに、ゆゆの唇が離れる。くっきりと証が刻まれた肌。


「愛を・・・欲しがってくれてありがとう。」


愛は痛みを伴うとゆゆは笑う。それを求めてくれた俺は、本当の愛のイミを理解してくれたと。

そうなのだろうか?

知らぬ間に俺は、ゆゆに傷つけられることに安心感を感じていた。

刻み込まれる。体の隅々にまで、ゆゆの愛が。

笑顔のゆゆに返す言葉もなく、熱を持った肌を指でさする。


「よーし、じゃあ、二人の記念も増えたことだしプールに行こう!!」


「は、なんでだよ、キスマーク丸見えじゃないか!?」


「んふふ・・・この世界にはゆゆと弘樹だけ、たとえそうじゃなくても、その証が、ゆゆの弘樹だってみんなに伝えてくれる!一石二鳥、だね。」


「な・・・そんなつもりじゃ・・・いや、そんなつもり・・・か。」


不適に笑うゆゆを見て、じんじんとする熱さを感じながら、自分が自らゆゆを求めていたことにようやく気がつくことができた。

逃れられないものに魅了されていることへの恐怖と、確かに感じる愛に心が揺れるのを感じる。

なによりもこの証が、心を安心させてくれる。


「ゆゆの役目は、俺を包み込むことなんだな。」


ふとつぶやいた言葉に、ゆゆは小さく首を振って、聞こえない大きさでなにかをつぶやいた。


「ちがうよ・・・ゆゆの役目は・・・・・・・・・で・・・・・・を・・・・・・・・・・・・にしば・・・・・・けることなんだよ。」


その微笑が示す本当の真意を俺は、まだ知ることがなかった。

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