柊ゆゆの満悦
なんだろう。
ゆゆはこんなにすべてを望んだわけじゃない。欲しいのはたった一人。
世界は0か1か。いるものかいらないものか。
いらないものだったゆゆ。
こんなに全てがうまくいくなんて考えてなかった。
急に私にかけられていた枷がすべてはずれていくのがわかった。
弘樹とだけ過ごしていた日々の中に新しい世界が広がっていく。
別に私は、これ以上の世界を望んでなんていなかったけど・・・。
お父さんの声が聞こえた気がした。
「好きにやりなさい、十分我慢してきたんだから」
暗闇のなかに閉じ込められた私を、廃棄処分される寸前だった私を、ただ一人助けてくれたお父さんの言葉。
好きにやりなさい。
私は、十分にこの生活を楽しんでいるよ?
大好きな弘樹に必要とされて、一緒に時を過ごして…これ以上ないくらいに幸せなんだよ?
でも…もう少しだけ、やりたいことはあるかな。
シアワセを邪魔するヤツが必ずでてくるからそいつらをつぶさなくちゃならない。
ダレニモこのシアワセを奪わせるわけにはいかない。
弘樹は私のものだって、私は、弘樹のものだって…世界中に知らせてないから。
早く知らせなきゃ。
誰かにこの生活をとられてしまう前に…知らせなきゃ。
遠くで、ほのかを呼んでいる声が聞こえてきた。
でも、ほのかが反応をしていない。・・・なら、ゆゆがいかなくちゃ。
お姉ちゃんの不始末は、せめてもにゆゆが片付けてあげないと、これがお姉ちゃん孝行でしょ?
本当は、ゆゆを見つけることすらできなかったゴミクズの前になんてでていきたくないけど、仕方ないね。会話なんかしたくないし、声も顔も見たくない。姿を見られたくない。
考えただけで、虫唾が走る。
けど・・・お昼寝している弘樹の顔を覗き込む。長いまつげが、食べちゃいたいくらいに可愛い。
このまま食べてしまいたい・・・食べて、一つになってもうはなれられないように・・・我慢できない、少しだけそのキレイな頬をかじる。むずかゆそうに身をよじる弘樹・・・カワイイカワイイカワイイカワイイ。
もう一口・・・もう一口だけ・・・よだれが止まらなくなりそう。
もっと弘樹が欲しい。弘樹をもっともっと体内で感じたい。
あぁ、ダメ、でもせっかくこんな気持ちよさそうに寝ているのに・・・起こしちゃう・・・今は我慢しなきゃ。
エイエンニしないと。このシアワセを永遠にしないと・・・それがゆゆの指名。
そのためなら、ゴミクズの前に出ることだって我慢する。
そして、エイエンノアイヲミセツケテヤルノ。
ゆゆは選ばれたんだから。
「弘樹、少しだけ行って来るね。」
弘樹とゆゆをむすぶ愛の絆を、もう一巻ききつく結ぶ、紡ぐ。
ダレニモ切れない愛の絆。指輪なんかよりよっぽどお互いを身近に感じられる。
本当はおいて行きたくなんてないけど、一時すら離れたくなんかないけど・・・弘樹をあんなやつらの前に連れて行くわけにはいかない。
「起きたら、また二人だけの思い出を作ろうね。」
ゆゆは大丈夫、あんなやつらなんて怖くない。あんなやつらに汚されない。
でも弘樹はダメ。汚い、汚い、あんな視線に弘樹をさらさせるわけにはいかない。
だから、全部ゆゆが終わらせてくる。
始まりと終わりのご挨拶をいたしましょう。
私たちのシアワセのはじまり、あなたたちのフシアワセのはじまり。
「・・・はじめまして、私を見つけられなかったゴミクズさんたち、私の姉妹がご迷惑をおかけしていることを心より謝罪いたします。私の名前は柊ゆゆ・・・このゲームのヒロインです。」
世界が私に向いている。
でも、私は世界に目を向けない。
私の目にうつるのは、弘樹だけで充分で、それ以外はいらないのだから。
私の名前を呼んでいいのは、弘樹だけ。
私を欲していいのは、弘樹だけ。
気持ち悪いから、ゆゆに興味をもつな!!
いらいらする、いらいらする、イライラスル、イライラスル、イライラスル!!!!!!!
「なんて・・・価値のない世界・・・」
はじめてこんな世界にいなくてはならなかった姉妹たちのことを、心からかわいそうだと思った。
それも最初で最後の話だけど。
「それでは、ゴミクズのみなさん御機嫌よう。」
こんな世界に一秒たりともいたくない。
私がいる世界は、ゆゆが望む世界は、弘樹と二人のあの美しい異世界だけ。
かわいそうな人たち。
本当に・・・ゴミのような世界しか知らない人たちにせめて幸あれ。
「ゆゆと弘樹には、永遠に幸多からんことを・・・なんてね。」
私たちの世界はシアワセであふれているのだから、そんなお願いは必要ない。
早く帰って弘樹の寝顔を見つめて、ゆゆもうとうとしよう。
笑いがこぼれてくる。
私たちを拒絶した世界よ、せいぜいもがき苦しんでシアワセを探せばいい。
「シアワセは掴んだら、離しちゃダメだよ。ただいま、弘樹。」
私は弘樹に寄り添うように身をゆだねて丸くなる。
あぁ、いまゆゆはシアワセ・・・。




