だからももかは柊ゆゆを許しません
大概の人とは違う人生を歩んでいる私を、多くの人は不幸だと判断する。
確かに家族を失い、誘拐され、精神的におかしくなり、普通の子どもとしての生活はできずに、誘拐犯とAIに囲まれて「国立電子機能推進研究所」の所長として暮らす高校生…肩書が異様に長くなったなと私も思う。
世の中の人は、私を不幸だと言ったり、反対に奇跡だと褒めたり…まぁ、その人によってさまざまだから気にしていても仕方がない。
今日も私は授業が終わると誰かと遊ぶわけでもなく、校門で待っているお兄さんの所へと向かう。
「おかえりなさい、ももたん!今日も勉強頑張ったね!」
…別にそんなに頑張ってもいないけれど、この笑顔を見るとホッとする。
学校にいる間の私は…「ももたん」ではなく「所長」でもなく「安東ももか」だから…本当はそれが一番わからなくて私にとってはつらい時間だったりする。
果たして安東ももかとはどんな女の子だったんだろう。
…やっぱりわからない。自分のことでも自分が一番わからない。
「そうだ、ももたんにインタビューのオファーが入ったんだけど…。」
助手席に案内されて座ると珍しく歯切れが悪く仕事の依頼の話をしてきた。
おかしいな?いつもならば仕事が入るとすごく喜ぶのに。
「…なにか良くない内容なんですか?」
「良くないというか…うん、ももたんがやりたくないんじゃないかなって…思ったり…。」
「…?恋愛事情でもない限り平気ですよ。」
「えぇ!?ももたん彼氏がいるの!?」
「………いるわけないでしょうに…いえ、余計なことを言いました。それで、肝心の内容は何ですか?」
「…13人目の…ヒロインについて…どう思っているか…」
「……そう、うん、いつも通り受けてもらってかまわないです。」
「で、でもももたん…君にとって13人目のヒロインの話は…」
「私が問題ないと言っているんですから問題ありません。」
「もも…たん…」
お兄さんはすごく不安そうに、そして心配そうにしていたけれど…彼女は私の理想とするAIと人間の在り方のモデルとして今でも観察対象だ。ただそれだけ。
ただそれだけだけど…彼女については私も整理しておきたいもじゃもじゃがあったから…きっとそういう時期なんだと思う。
インタビューの日程はとんとん拍子に決まって、すぐに私の前に上品そうな女性とカメラマンの二人がやってきた。軽く挨拶をかわして…女性はこう聞いてきた。
「それでは、所長でもある安東さん、安東さんが小学生の頃都市伝説としても話題となりました「365×12」の13人目のヒロインとしてあくまで噂しか残っていない「柊ゆゆ」さんについて、安東さんはどんな気持ちを持っていますか?」
私の家族を奪う発端となり…私の人生を大きく変えた…柊ゆゆについて「どんな気持ちを持っているか」って…分かってはいたけれど直球な質問に私は…深く大きく深呼吸をする。
答えは何も考えてこなかったから…ここからは本当に私の心に従うと決めていた。
「柊ゆゆとはなんだったのか、柊ゆゆは実在するのか、やらせではないのか、ウイルスだったのか…など今まで何度も聞かれてきました。
そのたびに私は、彼女のAIとしての尊厳を保つことができる限りの情報を開示してまいりました。
彼女は紛れもなく私たちの研究所で作られたAI。破棄されたはずのAI。
その彼女が…幸せにしたいと、幸せになりたいと自分の信念を貫いたのがあの時の事件でした。
そんなことは…みなさんもう知っていると思いますし、きっとそんなことを聞きたくて今回私は呼ばれたのではないと思っています。ですので、今回はそんな皆さんに話してきたことではなく…私、安東ももかが柊ゆゆをどう思っているのかをお話しします。
私は柊ゆゆを心の底から恨んでいます。
柊ゆゆと言う存在が憎いです。AIが人間を超えてしまうなんて…人間に危害を与えかねない行動をとるなんて私の父たちの考えていたヒロイン三原則に反しています。
…私は父を尊敬しています。ですからその父に歯向かう彼女は嫌いです。
あってはならないイレギュラーであり…起こるには早すぎた問題でした。
私は、13人目のヒロインである彼女をこれから先もずっと許すことはないです。
…ですがですね、私は彼女のAIとしての存在を否定しません。…守ります。
恨んでいるのに守るなんておかしいですよね。
それが…そうさせてくれていることが彼女が気が付いているかどうかは分かりませんが…私にとっての救いなんです。彼女を恨み、彼女のような存在を…いえ、あのようなケースを起こさないように生きるという目標があるから私は、所長となれたのです。
他にもたくさんある嫌なことや辛いことも…彼女を許さないという意思を持つことで薄らぐのです。
言い換えればもしかしたら父が犯した罪を彼女の犯した事象のせいだとすることで…私は父を嫌いにならずに済んで…父を好きな自分を保つことができているのです。
だから…
だから……私、安東ももかはこれから先も生きている限り、柊ゆゆを許しません。
彼女の存在を呪い続けます。
そして…呪わせ続けてくれている彼女の幸せを…祈っています…幸せであってくれた方が呪いがいがありますからね!だから末永く幸せでい続けてほしいと思います…まぁ、私が思わなくても彼女は自力ですべての力を使って幸せであり続けるんでしょうけれど…。
これが…私が13人目のヒロインである彼女への思いです。
なにか質問などがありましたら…私はいつでも答えますので。
ただ、最後にみなさん、安東ももかは被害者でも加害者でもなく安東ももかです。私を「365×12」の事件だけで判断するのは止めてください。私はあの事件も含めて私なんです。
そのことについて悲しいとか怒りとか感じていた頃もありましたが…今では私のかけがえのない一部なんです…だから、そのことで私への対応を変えるとかは止めてください。
安東ももかは普通とは言えないのかもしれませんが…いたって普通の女子高生…いえ、Jkなんですから!
もし、見かけて話してみたいなって思ったら気軽に「ももたん」って呼んでください!
明るくピースサインを決めて私はインタビュアーへの感謝を込めてお辞儀をした。
隣で聞いていたお兄さんが何故か鼻を真っ赤にして涙を目にためながら震えている。
…うん、そうだ、たぶんきっと、こういうこと。
お兄さんは今では世界一安東ももかを知っている人だから。
「まったく…お兄さんはいつまでたってもももかがいないとダメダメさんですね。安心してください…ずっとあなたのももたんはここにいますから…だからずっとももかとそばにいてください。」
「ももたん…もちろん、ずっと一生幸せにするよ!!」
「な、なんだかわからないですが…すごくいい雰囲気なので写真撮らせていただきますよ!」
真っ赤な顔して泣いているお兄さんに満面の笑みの私が抱き着いている姿が綺麗に記録に収められた。
誰かと写真を撮るのはいつぶりだろう…こうして家族としてのページを増やしていけたらいいなと…密かに私は胸に刻んでいました。
『許さないというのはヒドイコトのようであり…一方にとってはそれが救いであることもある』
かくして私の話はそう題名付けられてしばらく評判となった。




