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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
その後の彼らのゲンジツ
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それでも友達と呼べますか?

ある日、ゆうきが泣きそうな顔をしながら帰ってきた。普段は明るく今日学校であったことをよく話してくれて妹の柚希の面倒もよく見てくれる子なのに…「おかえり」に対しての「ただいま」もすごく勢いのないものだった。


「ママー、おにーたん、なんか変!」


「うん、そうだね。お兄ちゃん元気がなかったね。大丈夫だよ、ママがちゃんとお兄ちゃんのお話聞いてくるからね。」


「ママ、がんばってー!」


不安そうにする柚希の頭をくしゃくしゃと撫でて、ゆゆは時計を確認する。16時を少し過ぎたところ、弘樹パパが帰ってくるにはまだ時間があるし、なによりあんな表情のゆうきを見たら弘樹が悲しむに決まっている。母親としての尺度は少しずれているけれど…子どもたちのことはとても愛しているけれど、その子どもたちでも弘樹を悲しませることは許せない。

弘樹は家族が笑顔で「おかえり」と迎えるのが大好きだから、ゆゆはその大好きを守らなくてはいけない。


「ゆうき、ママ部屋に入るよ?」


「…うん…」


「どうしたの?ゆうき?ママね、こうみえてただのママじゃないんだよ。…昔はAIだったんだからお話聞いたり、答えを一緒に考えるのすごく得意なの。」


「…お母さん…そのジョーダンいらないよ。」


「そう?でも、ママお話し聞くの上手でしょ?弘樹パパの困ったもたくさん聞いてるの見てるでしょ。」


「…それは知っている…。」


ゆうきはいつからかゆゆをママと呼ばなくなった。少し寂しかったけれど、それが男の子の成長なんだって弘樹が懐かしそうに教えてくれた。

それからゆゆは隠し事をしたくないから、小さい時から「ママはAIだったんだよ」と話してきて初めは「ママすごい!」だったのがもうゆうきにとっては冗談になってしまっている。AIに関する授業は小学生の頃からすすんで取り組まれるようになっていて、以前よりもすぐそばにいるようになった。

「365×12」はいい意味でも悪い意味でもそのはじまりとして習う歴史だそう。

ちなみに柚希はまだママはAIだったと信じている…これじゃサンタさんみたいだなー。


「ゆうきの困った、ママには相談できない?」


「…だって、お母さん僕が嫌な子だと思う…。」


「思わないよ。もし、ダメなことならママ怒るかもしれないけれど、嫌な子だとは思わない。ゆうきはゆうきだから。嫌な子じゃないよ…絶対に約束できる。…ママに聞かせてみてほしいな。ゆうきがこんな顔しているとみんな元気がなくなっちゃうから。」


「…あのね…僕ね、友達に犯人だってされたんだ…。」


そこから、ゆうきは涙と一緒に堰を切ったかのように話し始めた。

ゆうきの仲良くしていた子が最近冷たくて、一緒に帰ろうと誘ったらもう帰らないと言われたこと。

その子のSNSでの様子がおかしかったこと。

その子を名乗る子から「裏垢なんだけどおこずかいが…」などとお金を要求するDMがあったこと。

そのことを確かめようとしたら所謂学校裏サイトにつながって、その子のアカウントが晒されていることに気が付いたこと。

正義感からDMを送ってきた犯人とやりとりをして…犯人をつきとめたことをその子に「もう大丈夫」と伝えたら…その子はゆうきが自分のことを悪く書いた犯人だと疑っていたと言われたということ。

つまり仲良くしていたからこそ、ゆうきがイライラしていた時に強く言葉を発してしまったり少しのすれ違いからゆうきを怒らせてしまったから嫌がらせをされた、きっと犯人だとその子は思ってしまったらしい。


「…僕、その時あんまりにもつらくて…死んじゃいたいって思った…そのことをその子に伝えたら…その子はそれでさらに傷ついたんだって…僕だって…僕だって苦しいのに…僕はたくさん謝ってまた友達になろうって言ったのに…その子は、もうきっと元には戻れないって…」


「そうか、ゆうきは死んじゃいたいって思うくらいに辛かったのをお友達に伝えたんだ。でも、お友達でいたいって…それを拒否されたのか…辛かったね。

でもゆうき、ママたちにもっと早くに話してほしかったよ。」


本来、犯人探しなどは大人がすること、この子はなんでも自分で片づけようとするところが弘樹に似ている。頼ってくれればまるで展開は変わったかもしれないのに。

生き方がまっすぐすぎて躓いてしまうんだ。


ゆゆならば、きっとその子を自分のものにするためにもう一度何かしらの事件を起こす。

頼れるものをどんどんなくさせて、ゆゆの重要性を自分で作り上げる。

…でも、それは子どもたちにふさわしくないことを知っている…いや、ゆゆも学んだ。

この方法はヤンデレとしてのゆゆがとる方法はブラックだって…それについて自分で反省したこともある。

だから…ゆゆは違う答えに導かなくちゃいけない。


AIのゆゆではなく、母親のゆゆとして。



「ゆうき、ここからは自分で考えてほしいの。その子のことが心配なのも大切に思えるのもすごくいいこと。でも…ゆうき、本当にゆうきはその子にナニも疑いを持たなかった?

これから先もゆうきはたくさんの人に出会う。

そこにはいい人もたくさんいるし、少し気に食わない人もいるの…悲しいけれど相容れない人も。

そのときね、ゆうきはすべてから好かれなきゃいけないわけじゃない。

ゆうきを大切にしてくれない相手を無視してもいいんだよ。

…ママからはね、しばらくその子と距離をとって落ち着いて考えてほしいかな。」


難しいことだっていうのは分かっているし、自分だって人間として生きている時間は長くはない。

でも、今は語らなかったけれどゆうきが「謝った」と言うことその感情をぶつけてしまったという負い目やその子とのかかわりで疑問を感じていた部分があったはずなんだ。

それらを一度ゆっくりと考えてほしかった。

友達じゃなくなるのはイヤだという感情だけでなく、少し関わり方を。

ゆうきが病むほどにその子を欲しているなら話は別だけれど…きっとそうではない。

そのうえで…それでも友達と思えるのかの答えを出しても遅くはない。

そんなことを込めて言葉を紡いだつもりだったけれど…ちょっと伝え方が分からなかった。

多分、ベストアンサーは他にあるけれど…これが今の母親、柊ゆゆとしての精一杯だから。


だから…ゆうきはぐしゃぐしゃの顔で、納得したようなしないような中途半端な頷き方をした。

分からなくていい…それは何度もいろんな人と関わって学んでいくことだから。

互いに傷つき傷つけあい…そしてきっと言葉を発した方はもっと恐れ後悔をしている。

でも、きっと今は何の言葉も相手には届かないから…落ち着いて、人生には時間が必要な時もあるんだと。


さて、このことがあってからゆゆには新たな使命が増えた。

いつまでもなくならない学校裏サイトの監視と巡回。

こういう時こそ、元AIのママの腕の見せ所だ。

深くは介入しないけれど…ゆうきを傷つけるようなことにつながるのなら、ゆゆはそれを排除しなくてはならないのだ。それこそがゆゆの愛。こんなくだらないことで傷つく必要なんてない。


「ねぇ、弘樹…ゆゆ、こういう愛し方しかできなくてごめんね。」


なんとなくこのがんじがらめの愛情を注いでしまっている張本人に呟くように謝ってみる。

それから…


「ゆうき、あなたはそのまま疑うくらいなら疑われる人であって…ママが必ず疑いは晴らすから…まっすぐなゆうきでいて。」


泣き顔のまま家族そろっての夕飯に呼ばれるのを待っているであろうゆうきにむかって願いをかける。


「さーてと、ではみんなが笑顔になれるような夕飯を作ろうかな!」


ゆゆは今日も実戦でたくさんの知らなかったトライアンドエラーを繰り返して生きています。


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