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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
その後の彼らのゲンジツ
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普通の恋

ゆゆは今、久しぶりにゲームをプレイしている。

状況は若干劣勢…まさか「無視」というアドバイスを本当に弘美お姉さんがうまくこなせるとは思っていなかったから…ここまで、彼女が自分の恋心を欺けることに驚いていた。これが自分だったら、とてもじゃないけれど発狂してしまう。五分も持つとは思えない。

…それなのに、あのアドバイスと言うか選択肢を選んでからというもの、弘美お姉さんはいたって平常に以前のように生活を送っている。


ただ、お姉さんがやっと使えるようになってきたスマホの検索履歴などを見ると「駆け引き」や「道でチラ見される」、「荷物の少なすぎる男性」などなど…まぁおそらく、平然を装っていながらも心のどこかでまだ経理の男性のことが気にかかっていることは見て取れた。

だからまだゲームオーバーではない。


「それにしても、恋の駆け引きねぇ…押して、押して、押し倒せ!のほうがゆゆとしては正しい判断だと思うんだけど…あれだなー、選択肢ミスしたかな。」


お仕事に行っている弘美お姉さんの部屋をがさ入れなう。

…そういえば、一つ大きく変わったことがあった。弘美お姉さんはあれからお昼ご飯に豆腐を持って行っている。どうやら豆腐しか食べていないみたいだ。それにスマホの機能につけておいた万歩計も常に1万歩をゆうに超えている…これはもしかして豆腐ダイエット?

なんだか恋心と相手からの対応を忘れようと自分の思いを所謂、昇華させようとしている予感がする。

いや、それともこれは代償行為だろうか…とにかくこの様子から考察するに弘美お姉さんはあの時ゆゆが想像していた以上に傷ついていたことが分かった。

心がしっかりと『適応規制』をとろうとしている。

机の上に見慣れない厚い冊子が置いてあることに気が付いてみてみると「行政書士試験」のためのテキストだった。元心理学部が持っているわけはないので最近購入したのだろう。


「…痩せて、綺麗になって、スキルアップをして相手を見返してやる!…ってところかしら。」


どうして人間はすぐに非を自分の問題にするのだろう?

相手の方に変わってもらうという方法もあるのに、自分が努力することを至高としている。

そりゃ努力は大切だ。でも見当違いな努力をしていたとしたら?

そして弘美お姉さんの努力はゆゆからみたら明らかに見当違いなものだった。


「無視をする間に少し気持ちを落ち着かせて…相手にとっていかに自分と言う存在がありがたかったかを悟ってもらえって意味だったんですけどね…。」


失って初めて重要性に気が付くことはよくある話。ツンデレではないけれど、今までの弘美お姉さんは常に相手に世話を焼いてきた。近くに行くために、会話をするためにチョコレートを準備したり…明らかなほどに好意があからさまだった。

…まぁ、それでなんにも気が付いていないのならば男の方にも問題はあるとは思うけれど…。

だからこそいったん「退避」を命じたのだ。

相手が自分の部署で嫌われていると不安がっていたのなら、それを「好きだ」と言ってくれたことに対して少しくらいは感謝しているはずなのだ。なら、その「好き」をたくさんくれていた人が急になにもくれなくなったならば「寂しさ」を覚えてもいいはずなのだ。

まぁ、これには弘美お姉さんの与えていた「好き」が過剰で「うざい」と思われていなかった場合という条件が付くケレド…少なくともそこまで面倒だったならば飲みになど行かないはずだ。

あれから、特に乗るバスは変わっていないけれど、季節柄朝の交通事情も相まって一週間ほどまともな会話はしていないらしい(これは業務メモの隙間に書かれていた「∞さんと今日も会えて一緒に行った」などの可愛らしい一言日記に一切「∞さん」の名前が出てこないことから推測した。)


「監禁はなし、束縛もなし、快楽に浸らせてものにするのもなし…なしなしばっかりのこの状況で次にお姉さんをどう動かすべきか…。」


うーーーん、ゆゆの辞書の中のヤンデレファイルの中ではいろんな種類のバリエーションが浮かぶのだけれども…これって会社で女の子と話していたことをいい感じ(ゆゆにとって)に誇張してネットに拡散して炎上させたり、もしくは弘美お姉さん以外誰も話しかけなくなるような状況を作り上げていくのも…なしってことだよね?


「なんか情報ないかなー…しかしマメに仕事のメモして…おぉ、これって?ふむふむ…11月…確かさっき占いサイトに登録していたログがあったよな……うん、やっぱり!ビンゴ!」


次の一手に出るためのピースがハマったことに達成感を覚えた。

中途で入ってきたから別枠で健康診断の補助金の申請をしなくちゃならなかったのだろう…職務上やってはいけないことではあるけれどフルネームと生年月日らしきものがメモされていた。

そしてそれを裏付けるように占いサイトの相性診断にも同じ誕生日が入力されている。


本当に呆れるほどに恋をしていたんじゃないか。

呆れるほどに恋を患っていたんじゃないか。


ログだってそうだ…知恵袋の男心のことを見たり、ネットで社内恋愛の極意をみたり、30代男性の恋愛事情をまとめ記事で読んだり…少しでも好かれようとしていた、気持ちに寄り添おうとしていたのがもどかしいほどに伝わってくる。


「…そりゃ、ショック受けるなって方が無理なのか…。」


私にはよくわからないけれど、きっとこれが「普通の恋」なんだ。

私にはできない恋の仕方なんだ。

今更になって、自分の野望をさておいたとしてもこの恋を純粋に叶えさせてあげたかったという思いがこみ上げてきた。なんで本人はかたくなにこれを恋だと思えなかったのか。なんの自信がなかったのか。


でも、まだ手札がなくなったわけではない。

この日付が誕生日だというのなら…相手はもう間もなく誕生日を迎えることになる。


「そこを…狙っていくしかないよね。」


普通の恋を普通にできない不器用な女の子たちに少しのきっかけが残っていたのなら、そこにかけるしかない。

当日じゃなくてもその付近、なにかしらのチャンスさえあれば…もう一度、話すきっかけをつかんで引いていた部分をまた元に戻せるかもしれない。そのためのイベントとしてはこれ以上ない好条件だ。


いろんなことを言ったり、したりしたけれど…弘美お姉さんには普通に恋をして普通に幸せになってほしいとゆゆが願っていることも確かな真実なのだ。ただ、ゆゆにはどうしても「普通」の応援の仕方が分からないから…こうなんていうかストーカーチックに情報を探ってしまったけれど。


「頑張れ、弘美お姉さん…。」











「…余談だけど、誕生日周辺って一番死にやすい時期でもあるんですよねー…。」


もし、普通の恋が叶わずに、弘美お姉さんがゆゆの言葉に染まっていくことがあったとしたら…相手にとっては受難の一週間となるのかもしれない。


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