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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
その後の彼らのゲンジツ
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後始末を付けてあげる

「…ただいま…。」


「姉ちゃん、お帰り!今日は仕事遅かったんだね。ご飯あるよー」

「お帰りなさい、弘美お姉さん…?」


「あ…うん、ありがとう…でも、今日は知り合いと食べてきたから…ちょっと疲れたからもう部屋行くね。」


「………ふむ。」


昨日あれだけ拍車をかけたから、今日は何か動きがあるだろうと予測していたけれど…帰ってきた弘美お姉さんは真っ暗な瞳で声に覇気もなく、ふらふらとした足取りで階段を昇っていってしまった。


「…姉ちゃん、なんか様子おかしかったね…会社で何かあったのかな。」


弘樹が心配そうにその姿を見送っている。姉思いな弘樹…弘樹を心配させるなんてあってはならないことなのに心配させるなんて…これはゆゆが解決しなくちゃ。

ふと階段に違和感を覚えて、よーく見ると…昨日手渡したカプセル錠が落ちていた…使わなかったんだ。

使ってしまえば、きっと弘美お姉さんが手ぶらで帰ることにはならなかったはずなのに…なにをためらうのだろう。こういう時、人間の倫理観とか自制心と言うものってやっかいだなーと思う。

欲しいおもちゃを前にして待っていても、そのままじゃ誰もそれを買ってくれることなんてないのに。

自分でお金を稼ぐか、買ってもらうための努力をしなくちゃいけない。

…多分、この見解に異論を唱える人はいないと思う。

なのにどうして…好きな人を手に入れるために、なりふりかまわず行動することを可としないのだろう。

それだって立派な努力なのに。

相手の気持ちを無視しているって?

きっかけさえ作れれば…心はあとからじっくりとテニイレレバイイジャナイ?


「…弘樹、安心して、弘美お姉さんとゆゆ話してくるね。きっと女同士の方が話しやすいと思うから心配しなくてダイジョウブダヨ?」


「ゆゆ、ありがとう…姉ちゃん、考えすぎるところがあるから宜しくね。」


「任せて!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…本当に私って単純で嫌になるよ…係長にだって、あの人は目が笑ってないから簡単に信じないように気をつけなさいって言われてたのに…自滅だよ…しかも不完全に…」


告白することすら拒まれたような感じ。

途中まで、良い展開とは言えないけれど…少なくとも少しは私に興味があるから話しかけてくれるのだと…思いあがっていた…「興味すらない」なんて…笑えてきてしまう。

鏡に映る自分に言い訳するように、自分は悪くないと訴えるように…でも、心は軽くならなくて…目が死んでいた。…光を宿さないこの目には見覚えがあった。


「…それで、諦めてしまうのですか?」

「…諦めるしかないでしょ…嫌いですらないならば…私は本当にただの通りすがりでしかない…道行く人に声をかけただけだよ。」

「…道行く人に声ってかけるの?」

「……時と場合でしょ…」

「一度は選ばれた時じゃない。」


ひょこっと鏡の横からゆゆちゃんが出てきて悲鳴をあげそうになってしまった。

今、すっかり鏡と話しているような気になっていた。

どんだけ病んでるんだろう自分…。


「それで、弘美お姉さんは一度きりの失敗で諦めてしまうのですか?まだナニモツカッテイナイノニ。

手足を縛って、トジコメテ自分だけを見てもらえばいい。そうすれば…少なくとも道行く人から嫌いな人もしくは怖い人、危ない人にはなれますよ。」


「…危ないという自覚はあったんだ…。」


「愛故ですよ。すべては愛に気が付いてもらうため。愛を与えてもらえる幸せを…感じてもらうんです。その身で、刻み込むんです。」


ゆゆちゃんの場合の刻み込むという言葉は重みが違く感じる。…彼女は本当に彫刻刀でも使って文字通りに刻みながら笑っているイメージだ。


「…知っていますか?感情と付属した記憶はずっと残るんです。」

「そりゃ、元心理学部ですから…。」

「なら、痛みと恐怖と言う感情と深く愛されるという体験…これらはあわさってこそ意味を成すと思いませんか?」


何の悪気もなくゆゆちゃんは天使のように笑った。

痛みがこの思いを強く刻むとしたら…私の心の痛みはきっとこの苦い体験を私の人生が終わる日までこの身に留めることだろう。なんて残酷なんだ。


「悲嘆しないでください。…あれ?弘美お姉さん、お酒飲んでますか?珍しい…ということはお相手もお酒を飲まれたのですね…ふむふむ。」


「…お酒なんか飲んだからこんなにもセーブが効かなくなったのよ…。」


「…ゆゆが思うに弘美お姉さんは道行く人ではないと思いますね。うん、ただ会社の人かもしれませんが…少なくとも何か利用するに値するモノか好意はあったと思いますよ。」


あったのなら…あんな言葉を言わないでほしかった。

思い出せば言葉の裏を探そうとしてしまう愚かな自分がまだいて…惨めさが増していく。


「閉じ込められないんですか?拘束できないのですか?

ゆゆはこの家で監禁するなら全力でサポートしますよ!」


「しないってば!もう、分からないの…私はどうしたらいいか分からないんだよ!!」


思わず怒鳴ってしまった。

この家で監禁って…そんなんで彼の心を手に入れられるとは思っていないし、それで手に入れたとして私はずっと愛を貫ける自信もない。

やるせない気持ちばかりがあふれてきて、とまらない。

私、こんなに短気じゃなかったはずなのに…もう分からないよ。

何がいいのか、どうしたいのか分からない。分からないし、考えて、よい未来を想像するのも嫌だ。

悪い未来は…もっといらない。もうなにもワカラナインダヨ。


「…そうですか、なら無視する…いえ、必要最低限の触れ合いにすればいいと思います。

これ以上弘美お姉さんが悩むと弘樹も心配しますし、もう考えないで、明日からは無視しちゃってください。」


「えっ…?」


「無視ですよ、仕事に支障をきたさない程度にだけ触れ合えばいいんです。それで元通り。」


はい、解決!とゆゆちゃんはあっけなく引き下がった。

…無視…確かに私は仲良くなりたくて少し親密に接しすぎていた。それを他の社員と同じ程度に…いやそれでも私はフレンドリーな方だから…それ以下にすれば…きっと顔を合わせることも減ってだんだんと痛みに慣れていくはずだ。

彼だって、私のことに関心はない…なら無視することに余計な罪悪感を持たなくても済む。

私はただ無関心に無関心を返すだけなんだ。

対応は鏡…それならば私は彼の反応をミラーリングすればよかったんだ。

難しいことはない。

あぁ、きっとこれでもう私は彼への思いをヌリカエルコトガデキル…。


「ありがとう、ゆゆちゃん、なんだか気持ち楽になった!」


「なら良かったです。なによりだと思いますよ。」


ぐーっと伸びをする。

今日は疲れた。少しお酒も飲んでしまって頭も痛いし眠ってしまおう。

そして明日から私は………。

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