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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
その後の彼らのゲンジツ
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後後後始末、別名柊ゆゆの役立つアドバイス

「…弘樹、最近弘美お姉さん…変わったと思わない?」


「変わった…?そういえば、前よりも化粧するようになったり、髪飾り頻繁に変えるようになった…ような気がするかな?」


「…やっぱり弘樹も思うんだ。でも弘樹、女性の変化に気が付けるのはいいことだけど…ゆゆ以外には使わなくていいスキルだからねー。」


「え、あ、う、うん。」


…その辺のことに疎い弘樹ですら気が付いているのだから、この変化は…コペルニクス的なものだ。

弘美お姉さんはゆゆのお姉さんになる人だから…それなりに幸せになっていただいた方がゆゆとしても老後について安泰だと思う。それに結婚してからも一緒に住むのはイヤ。二人の愛の巣には必要がない。

………これは、このゆゆさんが…この恋愛マスターゆゆさんが、一肌脱がなくてはいけない時が来たようですね。


「うふふふふふふふふ…お姉さん、大船に乗ったつもりで安心してくださいね。」


「ゆゆ、楽しそうだね。」


ゆゆによる弘美お姉さんの為のラブリーファイアー大作戦!開幕!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日、いつものように家に帰ると、ゆゆちゃんが玄関で私を待ち構えていた。こういう時は、なにかがあると思いながらも、疲れたので鞄を早く置きに部屋へ行こうと思っているとその鞄を満面の笑みでかいがいしくも持ってくれた。


「あ、ありがとう…ゆゆちゃん?」


「うふふ、今日はねー、ゆゆね、弘美お姉さんと女子トークしたいなーって思って(ハート)」


「女子トーク?」


「いいから、いいから、早くパジャマに着替えてくださいな!」


なぜにパジャマ!?それは何か違うものがまざっているのではないのかと言いたいのに…言いたいのにゆゆちゃんの真っ黒な瞳が怖すぎて、何も言い返せない。

本能が告げている。早くパジャマに着替えないと●されかねないと…。

あの、現実だか夢だかわからない空間で、柊ゆゆと対峙したときのことは確実に私の中でトラウマとなっている。怖い。触らぬ神にと言うやつだ…。


「第一回、ゆゆの恋愛アドバイザー!恋するお姉さまを救いたいー開催!!」


自分で効果音をつけながら、ゆゆちゃんは女の子らしいふわもこなパジャマに猫耳のヘアバンドをつけてはしゃいでいた。対して私は、部屋着として愛用している高校時代のジャージにせめてもにと言われてウサギ耳のヘアバンドをつけて沈んでいた。

なんだろう…すでに死にたい気分になってきた。第二回がないことを祈りながら一応おー!と答えておく。


「これは、悩めるお姉さまの恋路をアシストするための会です!お姉さま、この間のカチューシャ指摘男性社員さんとはどうなっているんですか!?進捗早く、ほうれんそうは大事!」


「は、はぃ!?なんにもない!なんにもないって!!そのまんま…」


「…カチューシャにコメントは?」


「え、朝一緒になると大抵される…かな?」


「期待してカチューシャ選んでるんですよね!」


「違!これは、髪が短いからアレンジできなくて…」


「ふーーーん…。」


チラッと後ろを見られると、そこには私が入社後につい買ってしまったカチューシャが並んでいた。

別に…コメントがほしくて買ったとかじゃなくて、純粋にカチューシャが好きなの!


「お姉さんはそんな微妙なやり取りで満足なんですか…?もっとお相手を拘束して、お姉さんだけを見るようにして、他の女性社員としゃべろうものなら給湯室に呼び出して、熱湯で舌に捺印してあげたいなー。とか、用もないのに呼び出して専属秘書にしてあげたいなーとか…思わないんですか?いや、思ってないわけがないですよね…思っているだけだと身体に悪いから、発散しないと!」


ものすごい勢いで前後に揺らされて、脳みそが揺れている。

舌に捺印の意味が分からない…分かりたくないし、分かってはいけない分野な気がする。


「分かりますよ…言いにくいですよね、経理と総務は部屋が別、四六時中観察できないなんて、気になって仕事も手が付かない!そうなるくらいなら背中越しに仕事をしたい、むしろ定期的に総務の部屋に来ないとやっていけないようにお菓子にいけない細工をしたい…寒くなってきたから背広なんか着られたら壁ドンからの顎クイしたい、されたい!背広の中に手を入れっぱなしにしたい!はぁ、弘樹のスーツ姿考えたら呼吸が苦しい!!」


「と、とりあえず…落ち着いてもらえないかな?」


私は理解するための努力を辞めることにした。ゆゆちゃんって、こうなるととまらなくなる傾向がある。

そして、弟の彼女として本当にこの子でいいのかをもう一度考え直したくなる…弟よ、まだ若く、世界は広いのだからもっと考えてみたらどうなのだろうか…。


「失礼いたしました…ちょっと話がズレましたね。」


「…だいぶズレていたと思う…というか本題がよくわからないし。」


こほんと本人的にも仕切り直しの意味で咳をするとゆゆちゃんはまっすぐに私を見つめてきた。


「弘美お姉さんが気になっているのって、八戸に飛ばされた子の後任で入った方ですよね。ゆゆはその方とは会ったことありません。でも、お姉さん…その方が来てから明確にメイクや髪形、服装…朝のバスの時間を気にするようになりました。これは弘樹も気が付いているくらいです。」


「え、弘樹が!!?」


「そうです、あの監禁されても愛情に不安を覚えるほどに鈍感な弘樹が気が付いているのですから…そこに気が付いていないのだしたら弘美お姉さんは超鈍感と言うことになりますので…悪しからず。」


「…ゆゆちゃんの愛情表現もちょっと考え直してほしいよ…。」


とりあえず、超鈍感とまで言われても…私は彼へ対しての気持ちがよくわからないのだ。

好きか嫌いかと言われれば…それははっきりと好きなのだ。でもこの好きが尊敬からの好きなのか、恋愛としての好きなのか…私には分からないし、正直分かりたくない。

彼のことが男性として好きだと気が付いてしまった瞬間に、失恋と言うものが頭に付きまとって離れない。だから…私はこの好きを認めたくない。ずるいけれど、あいまいでいたい。


「なにもしないでいたら、相手の心になんて入れませんよ。手錠かしますか?さっさと捕まえてきて話をするべきです。」


「ちょ、なんで手錠なんて懐から出てくるの!?しまって、というか捨てて!!あのね、大人は恋愛感情ごときでうろたえてたら仕事にならないの。」


「その論理でいきますと、地球は子孫が残せなくて衰退する一方ですが…?」


…いや、まぁ、そうですね。大人だって恋はしますし、そこから愛が芽生えて結婚して子どもを授かると…あんまり私には想像できない未来だけど…そこの節度を守るのが大人と言うか…よく分からないけれど。


「チョコレートをあげて少しの会話を楽しむだけじゃ…お相手には都合のいい女なだけです!相手から返してもらいたいと思うなら…」


「返してもらいたいと…思うなら…?」


「…確か、前の期の書類を段ボールに入れていたはずです。あれを地下室に運ぶときに手伝ってもらってください。地下室の管理は総務の仕事…相手は仕組みを知りません。あとはつまづいたふりをして押し倒して、ドアを閉めてしまって…ラッキースケベコンボを発動。

あ・と・は、思考停止しているであろう相手のネクタイを外して…手を縛っちゃってください。

とどめに『スウジダケジャワカラナイコト、オシエテアゲル』っと!!」


「セクハラで捕まるわーーーーーーー!!!!!」


セクハラを取り締まる部署がセクハラで捕まるなんて笑えない。

そして数字だけじゃわからないことって何??私が教えてほしい!!


「…それができないなら、普通に悩み相談でも持ち掛けて、食事にでも行ってください。そしてお相手のアルコールにこの粉末を入れてください…あとは…わかりますよね?」


にっこりと可愛らしく小首をかしげながらポケットからいかにも怪しい粉末を取り出して笑うゆゆちゃん。暗黙の了解的なものを何度も求められているのだけれども、だから…わからないって。


「受け身でいたら楽かもしれないですけど…相手だってその会社で終わる学歴じゃないですし、うかうかして、今の状態でいいんだなんて言っていると後悔しますよ。」


その一言は…ひどく重かった。

私だって正直、今の会社で一生を過ごすかと言われたら分からない。

道はいくつもに分岐していて、その分岐を選ぶのはその人の決断であって…私が望んでも、チョコレートは取りに来てくれなくて溜まっていくのかもしれない。


「…それは…少し、イヤ。」


「ならまずは、相談を持ち掛けて食事にでも行ってください!ゆゆが全面サポートしますから!」


「ゆゆちゃん…ありがとう…うん、とりあえず食事に誘ってみる!」


「成功を祈りますよ、弘美お姉さん!」


そう言って重ねた手と手に私はすごく励まされた。

こんな風に恋愛相談をしたことなんかなかったので恥ずかしかったけれど…ゆゆちゃんがいて本当に良かったなって思った。きっと私は何もせずに後から後悔していただろうから。

すっかり遅くなったので部屋に戻るねとゆゆちゃんが去っていくのを見送って、ほっと一息をついた。


「…なんて言って誘ったらいいかな…。」


胸に手を当てて考えていると、さっき手を重ねたときになにかを握らされていたことを思い出して手を開いた。

そこには…「媚薬」と「睡眠薬」と小さく書かれたカプセル錠。


「…ゆゆちゃん…。」


私は静かにそれらと少しでも感謝していたはずの暖かかった気持ちをすっぱりとゴミ箱へと捨てると、改めてゆゆちゃんに心の底から愛されている弟の身の安全を心から祈ったのだった。


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