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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
その後の彼らのゲンジツ
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後後始末

私としたことが、社会人としては致命的なことに風邪をひいてしまった。

なんだか目の前がふらふらするし、身体も熱い…これは残業などしないで早く帰って寝た方がいい。

そう判断した私は、その日定時ぴったりに会社を後にした。

交差点で自分の身体がぐらぐらとするのを感じていると、うちの会社の経理男性陣が同じように帰宅しようとしていることに気が付いた。…そうだ、経理さんは金庫が閉まると仕事ができないからたいてい定時で帰るんだっけ…なんて考えていた時に、彼を見つけてしまった。


…どうしよう。

いや、ただ帰っているだけだし、あっちは他の社員といるから気にしないでいればいいんだけれども…家に帰ったら弟とゆゆちゃんがいちゃついているのがなぜか頭をよぎった…風邪をひいているからだ…妙に心細くなってしまう。

今、ゲームなら確実に選択肢が出ているんでしょう。

「声をかける」

「このまま帰る」

みたいな感じで…。悩んだときはセーブというものをとっておいて、どちらも試してみるものらしいと弟から習った。トライアンドエラーってやつなんでしょうが…いや、現実にそんな便利な機能は付いていない。

それにしても、心理学役に立っていないなっと思ってしまう。こういう時にどうしたら相手にとってプラスになる行動をとることができるんだろう…いやいや、そもそもなんで私は彼だけにそんなに固執してプラスの行動をとろうとしているのか…他の経理さんにも挨拶をすべきなのではないのだろうか…

いけない…回らない頭で色々考えていたら…余計に頭がぼーっとしてきた。

気が付いた時には信号が青になっていて、彼の姿も見えなくなっていた。

安心したような、残念なような…はっきりとしない気持ちを抱えたまま私は次の交差点まで歩く。


「…これは栄養ドリンクの大量摂取しかないかな。」


次の交差点で止まっている時に、ドラックストアの看板が目に入り、とりあえず栄養ドリンクを買おうと心に決めた瞬間。


「金野さん?」


「ひゃぃ!?」


「叫ばないでくださいよ、帰りこっちなんですか?金野さん服が華美なので分かりやすいんですよ。」


信号待ちで人混みができていたので気が付かなかったけれど、彼もその交差点で止まっていた。

もともとはモノトーンを好んでいた私のクローゼットはゆゆちゃんが私になっていた間にかなりカラフルに変えられていた。お金もそんなにないのでそのまま着ていたのだけれど…華美というほどではないが、確かに仕事帰りの人の多いこの場所では目立つかもしれない。

おかげで気が付いてもらえたことに感謝したらいいのか、どうしたらいいのか。いや、待てよ、そもそも社会人らしくないと言いたいのでは…。


「そ、そんなに派手ですかね…えっとちょっと風邪気味なので薬局に寄ろうかなって…。」


「金野さんもですか?俺も実は風邪気味で、薬買おうと思っていたんですよね。」


「え、大丈夫ですか?お大事にしてくださいよ!」


信号が変わり、同じ方向に向かって歩き出す。あれ、私もしかして一緒に薬局行けちゃったりする流れ?

余計なことばかり考えて顔がますます熱くなっていく。


「あ、薬局、金野さんはここでしょ?俺はいつもの薬局なんで、じゃぁ、お大事に!」


「ふぇぁ、え、いや、そん…お大事に………ってなんなの、なんなの…もぅ!!」


…同じ薬局で薬を選ぶのを想像していた自分が馬鹿らしいのと、勝手に薬局を設定されて適度に距離を取られていることに対してなんだかすごく…やるせないものがこみあげてきた。

…別に、ちょっと弱っていて心細かったからそばにいて話したかっただけで、やっぱりこんなの恋なんかじゃない!!

総務部ならではの情報網として、彼の履歴書は見ているのでひとり暮らしなことは知っている…でも、もしかしたら彼女さんとかが看病に来てくれるのだろうか…なんでだろうそれを想像してしまうと、胸がもやもやする…やっぱり具合悪いんだ。

急いで効きそうな栄養ドリンクを手に取ってレジへ向かおうとしたのだが、途中でのど飴を目にして足が止まった。


ー金野さん、新しいチョコレートありますか?-


彼はゆゆちゃんが他の人と仲良くするために、机の上に置いていたお菓子をよくもらいに来る。

これは効果的で話したことがない人にも渡すと話すきっかけになるので私もこのお菓子コーナーを継続していた。


「…のど飴、置いておいたら喜んでくれるかな…。」


自分ものどが痛いし、別に彼の為だけではなく、これから風邪をひく人の為にも…のど飴も買っていこう。…それから、これも自分のお腹が空いた時のために…彼はよくチョコレートを好んで持っていくからチョコレートを…妙に籠の中身が重くなったのは、明日私が買い出しに行けないかもしれないからそのための予備であって、すべては自分の為なんだ。

会計を済ませると、私は少しだけ彼が歩いて行った方向を見つめて帰路についた。




「弘美お姉さん、ずいぶんお菓子買ってきましたね?ハロウィンパーティでもするんですか?」


家に帰るとゆゆちゃんがエプロンをつけて出迎えてくれた。

どうやら弘樹も風邪気味らしくお粥を作っている最中らしい…まったく羨ましいことに。


「違うわよ、あなたの作ったお菓子コーナーの補給。」


「あー…それにしてはチョイスが偏っているような?もっと女子受けするお菓子を置いた方が…おろおろ、これはもしかして…弘美お姉さん、そのカチューシャもですが…このチョコレートとか好きな人のために買ってません?」


「は?ないない、たまたまこのブラック何とかが安かったから安くておいしいって言うし!!カチューシャは会社でしていいのかそれだけの確認よ!」


「…そうですか、そうですか…いえいえ、ゆゆはなにも言いませんよ、弘樹から離れてくれるのなら12000%応援いたしますし!」


にひひとゆゆちゃんは笑った。

…12000%ってなんなんだろう。


「会社に好きな人がいるって、それだけで行く理由が一つできて、ゆゆは素敵だと思いますよー。

ゆゆも弘樹と同じところで働きたいし、てゆーか働くし。」


「だから、違うって…。はぁ、具合悪いからちょっと寝るから…。」


どうして私の周りはゆゆちゃんといいお局様といい、私が彼を好きだと断定するんだろう。

こんなこと、他の人にもやっていて、たまたま彼がよくもらいに来るから…好きそうなものを準備しているだけなのに。

ため息をつきながら、自分の部屋に入って鏡を見ると顔が耳まで真っ赤になっていた。


…もちろん、これは恋に焦がれてではなく風邪のせいに決まっている。

買ってきた栄養ドリンクを三本飲んで、私は布団を頭からかぶった…明日には良くなって、会社に行かなくちゃいけないんだから…これくらいで休めないのが社会人なの!


…また、元気に朝、会えると…いいな。

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