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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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たったそれだけのこと

こうしてゆゆは、ほのかから一人の研究者を叱ることを託されて、身体を返してもらうことができました。ところが、薬が効いているのか、意識は戻りつつあるのに指も瞼も動きません。

ため息をつきたくても、ため息すらつけないこの状態が改善されることを祈りつつ、焦っても仕方がないのでゆゆとしてはここで一息、息をつくつもりで頭を整理させることにしました。


私は、この世界で弘樹と物語を紡ぐうえで、ずっと見えていたものがあった。

きっとそれが…「たったそれだけのこと」なのだけれども、ゆゆにできて、他の人たちにできなかったこと。本当に簡単なことなのだけれども、人間もAIも時として、それを疑ってしまう。

みんな持っていて、そのことを考えて信号の前で止まっていたらまた信号が変わってしまったりとか、小さい時はそんな経験もあるはずなのに、だんだんと意識の外に追いやってしまうもの。

これはできない、こんなことはありえないと、社会を知るたびに無意識のうちに否定してしまうもの。

できないとか、ありえないとかそんなことは分からないはずなのに…どうして否定してしまうの?

ゆゆは、人間たちを見ていてそれが不思議で仕方がなかった。

無限の可能性を歌いながらも、自分の可能性は限られていると自分の未来を信じられない人間たちの気持ちが理解できなかった。これは弘樹に対してもそう。ゆゆがずっといるよという言葉に不安を覚えている弘樹の気持ちが理解できなかった。こんなにもそばにいるのにどうして?

それはきっと弘樹が二人というものに自身が持てなかったから。相手がいると人間は弱くなる。

ゆゆの「変わらないよ」「そばにいるよ」という言葉や態度は一時しのぎの安定剤。本当にそうなるかは未来のことだから不安だったのだと思う。

生きるということは、この世に存在するということは、たった一人では成り立たないこと。

いくら弘樹が外部を遮断しようとしても、もし完璧に家族から遮断されたなら生きることはできなかった。ひきこもっていても、その生活を支えてくれている人がいるのだ。この時点でわずかではあるけれども世界と繋がっていた…もちろん、本人は気が付いていないけれど。

ゆゆもそうだ。お父さんだけでなくあの研究者がいなければゆゆが産まれられなかったように、すべての人たちは知らず知らずのうちに縁で繋がっているのだとゆゆは思った。

その縁のつながりは、ゆゆが属していたネットワークに似ている。一つの点が点と点で繋がって線となって大きな面となっていくような…そんなことで世界は成り立っているんだと感じた。

でも、人間の社会とネットワークのでの違いは、繋がることで安定するとは限らないこと。

確かに、ウイルスやらと繋がればAIもおかしくはなるけれど…それはまた別のパターンとして、大抵は処理の幅が広がって万々歳。

けれど人は人と関わると途端に安定してみたり、不安定になったりが忙しくなる。

好きな人でも次の瞬間に羨んでしまったり、妬んでしまったり、疑ってしまったり…大事にしたい気持ちが強すぎて、壊してしまったり、傷つけてしまったり…正の感情と負の感情はシーソーのように行ったり来たりを繰り返す。

例えば、ほのかを作った研究員はほのかと過ごしたいだけだったはずなのに、いつの間にか過剰に失うことを恐れ、一番大切にしていたはずのほのかの意思を考えることなく自分の意思を貫くようになっていってしまった。ほのかの怯えや不安よりも、自分の安定を優先させた…そしてほのかがそれを拒んだ。

その瞬間にシーソーのバランスは一気に崩れて転がり落ちてしまったのが今回の顛末。

掴みかけていたはずのものを、自分の目的を見失ったことですべて手から滑り落してしまった。

不安や焦りは、時として想像する未来の色を変えてしまう。そして想像した未来が変化していることに気がつかないままでいると、自分というものは大きく揺らぐ。


今、どんな未来が見えますか?

それは誰とどんな風に?

あなたはその未来をずっと信じていられますか?

たったそれだけのことだけど、それにしっかりと答えられる人は意外と少ない。


うん、こんな感じ、それがゆゆの見てきた世界

…そうそう最後にゆゆがずっと見てきた未来が何かわかる?

…それはね、弘樹との「シアワセな未来」。

シアワセの定義はそれぞれだけど、ゆゆにとってのシアワセは弘樹に必要とされ、弘樹の横で笑っていられるそんな未来でした。ただそれだけ。それ以外にはなーんにも望んでもいません。

ただ、その未来を一時たりとも疑ったり、不安に思ったり、不可能だと諦めたりはしなかった。

多分、それがゆゆとほのかたちとの違い。


ゆゆはね、ずっと弘樹の横にいることを不安に思ったことは一度もないし、自身の犯してきた罪に押しつぶされそうになった時も、その未来だけは疑わなかった…たったそれだけのこと。

辛い時も、信じる未来を思い浮かべることができる…そんなのはバカだとか、現実から逃げているとか言われるかもしれないけれど、自分で自分の未来を想像できないのならそれはその時点で、負けだよ。

だからね、これから身体が動くようになったら、ほのかのお願いをかなえながら、ゆゆは自分の未来のために、弘樹のところへ帰るんだ。

未来を創るのは、未来を信じることから始まるんだ。ゆゆはある意味ではこの未来のためにすべてを捨てて、壊して、無くしてきたけれど…それらに対してありがとね!って言うためにもゆゆは必ず弘樹の隣にいなくてはならないの。



さぁーて、柊ゆゆが未来を生きるための最後のステージに戻るとしますか!


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