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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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自分の首を絞める者

ゆゆをゆゆのお父さんに受け入れてもらうことばかりに集中していて、自分たちが研究機関から「捕らわれている」ということを、俺はすっかりと忘れていた。俺たちを監禁しているのなら、なにかしら監視をしているのは当たり前だ。だから、本来なら「監禁場所ここでの家族団らん」を目指すのではなく、「脱出してからの家族団らん」を目指して動くべきだったのだ。

ゆゆとゆゆのお父さんが互いの存在を確かめ合っているのをジャマしないように、後ずさりをしたときに、背中が何かに当たった。


「…声を出すな…私も鬼ではないから。父娘の再会をあと少しくらいは許してやる。」


監禁した相手が逃げようと、紐をほどいているのに、監禁した側が出てこないわけがない…ましてや、俺たちに自力で外せる程度のしばり方をしていたのなら、それこそ脱出そうさせるためにそうしばっていたとすら考えられるのではないか。

…振り返らなくても分かる。俺の後ろにいるのは、ほぼ100%、俺たちを監禁している側だ。


「…君は、ほのかより、あの子を選んだのか…。理解に苦しむよ。」

「…ほのか?」

「自己紹介がまだだったね。私は、日向ほのかの父親で「365×12」のプロジェクトを立ち上げたものだよ。」


日向ほのか…このゲームのメインヒロインに位置づけられていた子だ。

そうだ…俺も最初は日向ほのかに会った。おしとやかなお姉さんと言った感じだっただろうか、そのわりに一度決めたことは意地でも変えず…やけに俺の世話を焼こうと必死になっていたのを覚えている。

ただ、俺はそのずけずけと自分を押し込んでくるのが許せなかったんだ。

世話焼きというのはおせっかいと…余計な優しさの押し売りともいえる。


「弟君、今日はお姉ちゃんと初めて会った記念だから、一緒にご飯を作らない?お姉ちゃんに弟君の好きなものをどんどん教えていってほしいから、まずはご飯から一緒に…」


「…AIなのに食事なんてとらないだろ?一緒に作るってあんたが包丁握れるわけじゃないんだから、つまりは俺にご飯を作れってことじゃないか?」


「そうじゃないよ、お姉ちゃんは確かに食事をとれないし、代わりに料理はしてあげられないけれど、一緒に食事をすることって、自分の心を見せることにもなるんだよ。だから、まず心を通わせる一歩目として、一緒にご飯にしよう!それに弟君、ちゃんと食事とってないみたいだし…。」


「なんで、会ったばかりのAIに心を見せるわけ?」


「そうだね…ごめんね、お姉ちゃん弟君と会えたのが嬉しくて少し急ぎすぎちゃった…弟君がお姉ちゃんとが嫌なら、せめて一人ででいいからちゃんとご飯、食べよう?しっかりご飯食べないと、弟君はまだまだ育ちざかりなんだから!」


姉ちゃんから与えられたゲーム大して興味もないゲームが、俺の生活に茶々を入れてきやがった。

俺と会えたのが嬉しくて?そう言うようにプログラムされているんだろ?

しかも、「お姉ちゃん」と呼ぶように強制してくるこのほのかというAIは俺にとっては現実の姉ちゃんとの対比となって苦痛すぎる。姉ちゃんも、普段はゲームやら電子製品を嫌っているくせになんでこんなもんを持ってきたんだよ」。

…それでも辞めなかったのは、自分の部屋でできることはほとんどやりつくしたからだった。

PCがあるからオンラインゲームをはじめようかとも思ったのだが、バーチャル世界ですら誰かと会話をしなくてはならないということを考えると指が登録ボタンを押さなかった。

嫌なんだよ。

もう嫌なんだよ…誰かの顔色を窺いながら過ごすのなんてごめんだ。


それでも会話に飢えていたんだ…だから、このゲームを始めた。

多分、本心では話したかったんだと思う。心の中でぐるぐるとしていることのことを…誰かに聞いて許してもらいたかったのだと思う。でも、自分が誰かに許されるとは思えなくて…拒絶し孤立したんだ。


「…弟君は、これからきっとたくさんのことを知っていくと思うんだ。楽しいことや嬉しいこともたくさんあるし苦しいことや悲しいこともあると思う。そうしたときに、自然に笑ったり泣いたりできるようにお姉ちゃんがついているからね。」


拒絶したのに笑顔を絶やさないほのか。

つまらないなと思った。別に泣いてほしいと思ったわけではないけれど…怒りもしない、嫌そうなそぶりも見せない。


「そうだよね…やっぱりAIなんだな。」


よくできていて、会話も通じて、人間のように動いたりするけれど、やはりこれはプログラムの塊なんだと思った瞬間に心が冷めていくのを感じた。


「…だったら、別に気を使わなくていいか…。」


きょとんとしているほのかの顔を見ても、なんの罪悪感も芽生えなくなった。

この瞬間から、俺は完璧に何かが外れた。ほのかをはじめとしたAIたちを相手にしても何も感じないだったら、どんな対応をしてもいいか。

こいつらはどうせ、高性能な置物。

だから、親身になって心配してくるヒロインたちに対して、冷たい対応を繰り返した。本当に嫌なら電源ごと抜けばよかったのに、寂しさを紛らわすため、久しぶりに返事のあった会話がやめられなくて…ひどいことを繰り返した。

彼女たちが泣こうが怒ろうがどうでもよかった。

自分のぐちゃぐちゃした感情を一方的にぶつけてぶつけて、それでヒロインが音をあげたら次のヒロインに切り替えて…ゆゆに会うまでそれを12回繰り返したんだ。


…今、俺の首を絞めているのは…12人分のヒロインの心だ。

俺が簡単に邪険にし、踏みにじったあの子たちの代弁者がこの研究員なんだ。

本当に罪を犯したのはゆゆではなく…俺だったんじゃないのか?


…分からないし、考えたくもないけれど、今、あの子たちのないがしろにされた声が何十にも重なって響いてくる。そしてあの子たちを大切に育んだ研究員たちの思いも俺は踏みにじっていたんだ。

息をするのが…苦しい…。

見えない12人とそれに連なる何人もの人たちが…あれだけのことをしておきながら幸せになった俺を引きずり降ろそうとしているような…重み。


「…苦し…い」


ヒロインたちの泣き顔が頭の中を埋め尽くす。


息が…できない。


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