隠し味は病
日向ほのか…邪魔者でしかなかった正規ヒロインをゆゆはまぜこぜにした。
そこには羨ましさがあったことは否めない。だって、ゆゆは日の目を浴びることもなく廃棄されていくだけの「13人目のヒロイン候補」でしかなくて…隠しヒロインにすらなれないことを前提とされてしまっていたから。
研究室の中で、いろんなヒロインたちが作られていくなかでも、ほのかは群を抜いて愛されていることが分かった。まだ、私がヒロイン候補としてみんなと同じように育てられていた時、歩の相手をして会話能力のテストをしているほのかを見たとき…正直、こいつが本物だと思ってしまった。そう思わせれてしまうだけのオーラをほのかは身にまとっていた。
クヤシイ…クヤシイクヤシイ…クヤシイ…
お父さんの愛情は負けてなんていないはずなのに、「選ばれた」ほのかが目障りだった。
きっとこれからも多くの人間たちに「選ばれていく」であろうほのかが目障りだった。
「あ、あなたが今日から入った柊さんね、私は日向ほのかです。ここでは一番最初に産まれたから…良かったらお姉ちゃんだと思ってくれたら嬉しいです。」
はじめて会った時、ほのかはそう言ってゆゆに手を伸ばしてきた。非の打ちどころのない笑顔を浮かべて、とても優しく、とても親切に…ゆゆを迎え入れようとしてくれていた。
「…メインヒロインさん、質問してもいいですか?」
ゆゆは、その手にもお姉ちゃんという提案にも乗らずに問いかけた。
少しだけ困った顔をして、ほのかはまた笑って「いいですよ」と答えた。
「私がほしいのは…ただ一人、私を壊すほどに、支配するほどに、抑えきれないほどに…愛してくれる人だけです。何人にも愛をばらまくなんて不純じゃないですか?愛は、一人のためにあるものです。」
ぱちくりとまばたきをして、ほのかは口をぽかんと開けていた。…正直、処理能力が足りていないのかと思ってもう少し動かなかったら会話も何もかも辞めるとこだった。
「うふふ、柊さんってとても純粋なんですね…柊さんに愛される方はきっとすごく幸せになれます。
でもね、柊さん、愛って「好き」とか「結婚したい」とか…少し恥ずかしいけれどこの人となら「肉体関係をもちたい」とか…そういう感情だけじゃないんですよ?
私は、柊さんも含めて…私の後に産まれてきてくれたみんなを愛しています。
「家族愛」っていったらいいのかな?」
「…辞退します。」
「あれれ、嫌われちゃったかな…それでもね、少しでいいから覚えていてほしいの。
あなたの考えている愛だけが私たちがこれから会って、一緒に時を過ごしていく人間さん(ユーザー)たちが求めているものじゃないってことを…。
一つだけを見ないで、いろんな側面を見て、その人の求めている愛の形を見つけてあげてほしいな…って私もまだまだ全然できてなくて…今だって柊さんに辞退されちゃったし…でも、でもね、それが私たちを最初に作った人の願いなんだよ。」
キラキラとした瞳で自論を説く姿に、反吐がでそうだった。
ほのかはそれでいいかもしれない。最初に人間に会うのはほのかだから。
たくさんの人を愛し愛されるほのか。
一人しか愛せない、愛しても愛されるか分からないゆゆ。
初めから違うのだ。私にはほのかのような愛はわからないし、イラナイ。私はもっと甘くて、重くて、苦い、痛い…そんな愛を求めているのだから、与えるのだから。
私は私のお父さんの言葉しか信じない。ほのかのお父さんがリーダーでお父さんは集められてゆゆを作っていたとしても、ゆゆが信じるのは、ゆゆが叶えたいのはお父さんの愛だけだから。
「ゆゆは、ゆゆのしたいようにします。先に産まれてからって、従う必要はないはずです。」
「それはもちろんそうだよ。うん、それでいいよ、柊さんは柊さんの思うように過ごして、幸せになってくれたら嬉しいもん。
…でもね、困った時とか、寂しい時には思い出してほしいんだ。私は、拒まれてもやっぱり柊さんが大切な妹ちゃんで柊さんのことを愛しているから…うん、そんな風に思っている私がいるっていうことだけ、少しでいいから覚えていてね。」
メインヒロインの名に恥じない笑顔を浮かべて、ほのかはそういった。
今、ゲームの画面ならば間違いなくイベントシーンの作りこみなんだろうと思うくらいの笑顔。
でも、ゆゆはその言葉に答えなかった…いらないと思ったから、そんなみんなに与えている愛はゆゆの求めている愛じゃないから…こんな会話をしたことすら忘れてしまっていた。
今になって、その言葉の重みにつぶれそうだった。
きっとほのかはゆゆのことを、ゆゆの廃棄が決まってデータを消されて存在を忘れたとしてもゆゆの邪魔をするのは辛かったはずだ。
ゆゆだけが、自分が廃棄された悲しさから…必要とされたほのかを恨んで、すべてを自分の意志で忘れていたんだ。愛は盲目ともいうけれど、ゆゆはこの愛をより強いものにするために、大切なことを自ら捨ててほのかを邪魔者、恋敵のようなものに…したてあげたんだ。
ゆゆは、はじめから日向ほのかが大嫌いで、大嫌いで…壊してしまいたいくらいに羨ましかったんだ。
あんな風に笑えないから。あんな風に愛せないから…妬ましかったんだ。
だからこそ、せっかくゆゆが弘樹に見つけられたのに、邪魔してきたのが嫌で嫌で…あそこまで…壊してしまったんだ。
ほとんどの人がそうであるように、ゆゆも壊してしまって初めて、元に戻すことの難しさを、そして本当はほのかのことが大切だったことに気が付いて…後悔をした。
「さぁ、早く君が使った奇跡の方法を…私に教えなさい!」
弘樹を、なによりも大切な弘樹を人質に取られているのに、なにもできない、なにも言えない。
嫌な汗が伝っていく…あぁ、きっとこれが罰なのだ。でも罰ならゆゆだけに、弘樹には関係ない。
ゆゆに起こった奇跡は簡単に起こせるものじゃないことは…ゆゆが一番知っていたから。




