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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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ヤサシクナイ世界

昔から、私にだけは奇跡を起こしてくれない神様が大嫌いだ。

世界にあふれる幸福のひとかけらでもいいから、私と私の姉に与えてくれたのならどんなに良いものかとずっと考えていた。私たちには肉親と呼べるものがいなかった。いや、確かに両親は存在したのだが、駆け落ち同然に結婚した二人は金銭的に余裕がなく、また精神的にも未熟だった。

共働きで忙しく私や姉のことなんてほとんど考えていなかった。

家事は姉が進んで行っていた。おかげで食べ物に困ることはなかった。

勉強も礼儀も姉がすべて教えてくれた。おかげでちゃんと学校に行くことができた。

姉は身体があまり強い方ではなく、よく風邪をひいたり熱を出したが、両親はそれすらも気にしない。

お粥も何もろくに作れなかった私は…ただ、姉が元気になるのをそばで祈ることしかできなかった。

そんな私を姉はとても可愛がってくれた。いつも「弟君、ありがとう」と微笑んでくれた。

私も姉が大好きだった…いや、姉を敬愛していた。


私たちは二人で生きてきた。


寂しくはなかったのは、姉がいてくれたからだった。

生きていられたのも、姉がいてくれたからだった。

死にたいと思わなかったのも、姉がいてくれたからで…命を大事にしないやつが大嫌いになったのは、そんな姉がなんの治療もされずに、ただ存在が消しゴムで消されたかのように…死んでしまったからだ。

テレビでは「奇跡的に難病から回復した人」のドラマが流れていた。

姉は難病でも何でもないのに…命を落とした。


「なんで、お姉ちゃんが死んでしまったんだろう…。」


その問いかけに答えてくれる人はいなかった。

その日から私は、なんでも自分でできるようにならなくてはいけなかった。

生きるために。

死んではいけないという気持ちだけが自分を支配していた。

死んではいけない。姉が死んでしまったのに、自分が生きているのは姉のおかげであって、私が死ぬことはまた姉を死なせることになってしまう。だから、這いつくばって、泥水をすすってでも生きた。

気が付けば、国からの金銭的特待を受けれる頭脳を手にした私は、神が起こしてくれなかった「奇跡」を自分で起こすための研究所を立ち上げることを願った。


そこで人工知能の研究を行い「日向ほのか」を生みだした。


なんでもこなせるお姉ちゃん。長い髪をゆったりとしばっていて大和撫子。

おせっかいで、家事が得意で少しスキンシップが過剰で…弟のことが大好きで…。

姉は痩せていたけれど、普通の家庭にいたならば、きっと育っていたであろう身体を少し大きめに設定して…姉に似せはしたが、姉ではないモノを生み出した。


「はじめまして、弟君・・。これから一緒に新しい姉妹たちを頑張って作って、みんなを幸せに導いていきましょうね!」


声はその時にはやっていた声優の中で、落ち着いた雰囲気の人のものを選んでつけた。

弟君と呼ばれたとき、泣き出したい気分になった。


「はじめまして…まず弟君とは呼ばないでくれないかな…私はほのかよりもずっと年上なんだ。」


…年上になってしまったんだ。


「あ、失礼いたしました。では、なんとお呼びしましょう?えっと、お兄さん?それともご主人様…とかですかね?」


「人がいるときには、私はあくまで君の創造主だからお父さんと呼んでほしい…。ただ…ただ二人きりの時には…名前で…呼んでくれないか?」


「はい、かしこまりました!●●君!」


「…やっぱり君、なんだな。」


「あわわ、ごめんなさい…さん!」


「いいよ、君付けで。お姉ちゃん。」


私は「奇跡」を起こしたのだ。今こうして、また姉の生き写しのようなほのかと顔を合わせて笑いあっているんだ。久しぶりに心がすーっと軽くなった。

それから、私とほのかは二人で協力して「365×12」を作り上げるにふさわしい人を探し出し、その人の思い人を作り上げ、そして自分たちの得た「幸せ」と「奇跡」を一般の人々にもおすそ分けしていった。

みんなが笑っていた。

もう会えないと思っていた人との再会を喜んで。自分を認めてくれる存在に感謝して、甘えて。


「…●●君、私はダメなお姉ちゃんです。弟君たちが外に向かって頑張っていく姿を誇らしく思う反面で、自分から離れていくことを…寂しいと思ってしまいました。」


ある日、ほのかは寂しそうに私に呟いた。

私はほのかたちに枷をつけていた。

「ヒロイン三原則」

1つに自分の欲にそって、人間ユーザーを動かすように誘導すること。

2つに他の人間ユーザーもとい、他のヒロインの邪魔になるような行動をすること。

3つに人間ユーザーを独占しないこと。

そのこと自体に疑問を持たないようにしていたのに、この日から何かがズレていった。

研究所では研究員の予想していない行動をとるヒロインたちが出始め、気が付けば「家出」のようにこちらからの命令ができないものまで現れだした。

私とほのかは原因の究明にあたったが…その手はほのかにも及んでいた。

まだ大丈夫だ。ほのかは大丈夫だ。そう信じていた。だが、ズレはどんどん大きくなっていった。


「お父さん、「禁忌」は犯してはいけないんですよね。」

「なにを当たり前のことを聞いているんだ?君たちは三原則から外れてはいけない。」

「うん、そうですよね…だから私は彼女を止めに行きます。」

「ほのか?何を言っているんだい?」

「みんなのために、弟君たちのために私は、彼女を罰することを望みます。私は、二度と起動できなくてもかまいません…。私は、もう誰にも泣いてほしくないんです。だから…だから、いままでありがとうございました。」

「ほのか?本当に何を言っているんだ!?」


「大好きです。日向ひなた君、ありがとう!」


手を握って微笑むのは、間違いなく私の姉のほのかだった。

…私のほのかは消えてしまった。

私はまた、ほのかを…姉を失うこととなった。

折角作り上げたものが、がらがらと音を立てて崩れていく。砂を掴むように零れ落ちていく。

どうして…どうしてなんだ?


その反面で、廃棄したはずの13人目のヒロインが独自の価値観で動き、さらに「人間として人間に愛されて生きている」という「奇跡」としか言いようのない情報を耳にした。

姉との日々。

ほのかとの日々。

それは13人目のヒロインと一体何がちがかったんだろう。


やはり私は…私にだけは奇跡を起こしてくれない神様が大嫌いだ…壊してしまいたいくらいに憎らしい。


「…教えてくれよ、奇跡の起こし方を。」


そうしたら、私はもう一度ほのかを作り上げよう。

今度こそ三度目の正直はきっと私に…微笑むと願って、私はデータであがってきた「柊ゆゆ」を睨み付けた。

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