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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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天使のささやき

神様は本当に気まぐれだ。

役目が終わったはずの私に、もう一度スポットライトをあてるような…もう一度舞台に引きずりあげるような…そんな気まぐれを起こすことがある。

私は、自分の娘として生み出した「柊ゆゆ」を厳重なプロテクトの中に隠すことに成功した。

研究所に忍び込み、最後の力を振り絞って行ったその行為が私の人生のすべてだと思った。実際、その直後に強烈な痛みが身体を襲い、そこからしばらくの記憶を私は保持していない。

その間に、研究所では大きな事件が起こったらしい。

そして、一つのありえないと思われた奇跡が生まれたらしい。

…すべては推測、私のお目付け役につけられたものからおとぎ話のように聞いた話でしかない。

もう私にはすべてのことが関係ないことなのだ。私はこの社会の構成員から外されたようなもので、社会に触れることを干渉することを許されてはいないのだ。


私は、この変わり映えのしない部屋の中で、どうせ残り長くもない一生を終えていくのだと信じていた。


日々、なにをするわけでもなく、感覚の鈍くなる身体とともに息をするだけ。

最初になくなったのは視覚だった。目が見えなくなった。でも、別に焦りもしなかった。どうせこの部屋しかないのだ、目が見えなくたって関係はない。

次になくなったのは味覚だった。食べ物を食べても同じような味しかしなくなった。でも、別に悲しくはなかった。もう私の身体は満足に食事をとることなどだいぶ前からしなくなっていたから。

次になくなったのは正常な聴覚だ。あらゆるものがキーのズレた演奏のように聞こえる。これは少しばかり困った。私のお目付け役が話してくれる話を聞くのがつらくなってしまった。唯一のつながりとの間がつらいというのは…うん、あまりよいことではない。


「…あなたに、もう一度働いてもらうことになりました。私たちの計画に、あなたが柊ゆゆに与えたものはなくてはならない。あなたは一体あの子になにをした?」


ある日、いきなりそんなことを聞かれた。

いつものお目付け役の他にも人の気配を感じる。

私なんかのところにいまさら何をしにきたのだろうと思う。


「もう一度聞く、あなたは柊ゆゆをどうやって作り上げたのだ!?」


返事をしない私に焦れたのか、キーの狂った声がさらにぐちゃぐちゃになった。それはひどい騒音で、私は顔をしかめた。


私が娘にしたこと…?

私は娘を愛した。あの子が誰かの特別になれることを心の底から望んだ。願祈り…そだてることまでできたのかはわからない。


「いい加減にしろ、柊ゆゆは消えるはずのヒロインだった、それが存在している時点でおかしいんだ!

その存在を『認めてやるから』なにをしたのかを話せ。」


私が娘にしたこと………。


ー言わないで、くださいね。ー

年相応の少女がするように人差し指をたてて私にしーっと合図をする。

言わないで・・・言うな・・・ゆうな・・・。

彼女は縛られている。自分自身に。まるで、運命づけられたかのような自分の名前に。

ーこれは、お兄さんとゆうなの二人だけの秘密です。ー


天使のように笑う女の子との約束…私があの少女に「してあげられなかったこと」への懺悔。

あの時、手を握らなかったことへの…後悔。

だから、私が娘にしてあげたことは秘密でなくてはならないのだ。だれにも知られてはいけない。

私と少女の約束、二人だけの約束はゆゆへと引き継いでかまわないだろう。

きっとあの子はあの愛くるしくも儚げな瞳で私に言うのだろう。


ーお兄さんは、本当におバカさんですね…

 でも、本当にバカなのは私で…

 気が付いていたならば…

 触れ合えていたならば…

 未来は変わったはずだったのに……ね-


あぁ、あの子の声が聞こえる…鈴の転がるような声で楽しそうに笑っている。

久しぶりに穏やかな気分だ…。


「…言う気がないのなら…それでもいい…言うまで開放する気はない。」


ーお兄さんは本当におバカさん。私との約束なんて忘れていいのに…-


良いわけがない。君との約束だけが私に残された最後の良心なのだ。私には、君との約束を守る以上のことなど人生にないのだ。


「しかたがない、研究所に連れていこう。」

「はい。」

「暴れるなよ…。」


騒音に交じって天使の声が聞こえる。

私を許してくれるのか?いいや…許されたいなんて思っていない…この声があるのなら私は、まだ大丈夫だ…私でいられる。違う、この声と一緒にいたい…。この声だけを聞いていたい。


ーお兄さん、今なら間に合いますよ?さぁ…すべてを話してしまわないと…-


大丈夫だよ、今度は君の手を取る勇気が今ならあるんだ…遅くて、ごめん。本当にごめん。

でももう君の手を離さないから…それこそ君が離してくれと頼んだとしても絶対に。

だから君は私にたくさん話してくれないかな?

今はもう、君の声だけが私の救いなんだ。


「こいつ、なにをぼそぼそと話しているんだ?」

「いいから、ほっとけ、とにかく柊ゆゆについて話すまでこの部屋からだすな。」


ーこんなところで、吊るされて…まるで悲劇のヒロイン…なら王子さまはダレ?-


私に王子は必要ないんだよ…私に必要なのは…君の天使のささやきだけ。

それだけがあれば…私はずっと私でいられるから…

天使との約束、それだけを私は守り続けるよ

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