AI精神医療法案議事録
発生している2件のレアケースに対する今後の検討事項について
365×12プロジェクトにおいて生じたイレギュラーをいかに解決するか。また、先の事件により失われた顧客と研究員の補充について。
研究所362ルーム。参加は全研究員(安東ももかを除く)。常盤英字(記)
19:00より第一議案「安東ももか研究員の措置入院について」
安東ももかは子どものAIの表現力やAIの母性、父性を育てるうえで非常に功績をあげていた。
彼女の家庭において、父親も研究員として「芦花モモ」を作り上げるも研究所内で死亡、その後他の研究員によりAIとしてももかの両親を作成、家族としての生活を行うことに成功した。
研究所より、ももかの周辺への認識としてその構成を家族と認めるよう促したが、一部市民の過剰反応によりももかが自分たちを「異常」と考えるようになり、以前のようにAIの両親へ接することを拒絶、またAIへの嫌悪感を見せるようになった。
これらにより、ももかと関わりを持っていたAIの何体化が異変をきたしたため、強制的にスリープモードへと誘導することとなった。
安東ももか本人の精神的混乱が激しく、生活監視役もかねて配置した兄役とともに「柊ゆゆ(事案
2)」へ異常なまでの執着を見せるようになったため、食事に精神安定剤を混ぜることにより、研究室にて措置入院を実行することとなった。
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安東ももかは今後も研究員として活動を維持できるのか?
また、AIによる精神療法を再開するためにはどうすべきか。
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安東ももかの精神を安定させることが今後のAIへ嫌悪感を示す人間とのかかわりにおいて大きな意味を成すと思われるため、引き続き研究員と被験者として当研究所にてケアを施す。
将来的には当研究所の次世代を担う人物となることを期待する。
当面は兄役としてあてがった元誘拐犯と一部研究員のみ接触を許可することとする。
25:25より第二議案「柊ゆゆの実体化と確保の必要性について」
かねてより懸念事項であった、公には存在しないはずの13人目のヒロインの暴走とその根本にまつわる問題。「柊ゆゆ」のモデルとなった少女「ゆうな」との強い約束により彼女の卵子を当研究所で、「柊ゆゆ」を作り上げた研究者のDNAとかけあわせて、秘密裏に生育していたものを2週間前に「柊ゆゆ」を名乗るプログラムにより奪われる事案が発生した。「柊ゆゆ」は自分が一連の事件の原因となったことを認識しており、また要求に答えなければ、当研究所の内部情報を晒すと脅しをかけてきた。そのことに対応するために、こちらは渋々ながら彼女の身体を受け渡すこととした。
生育していた身体は、一度も目を覚ましたことがなく、歩行や会話など日常生活を送ることは不可能であるはずが、「柊ゆゆ」が消えたとたんに意思を持ち、活動を開始し、なんの困難もなく立ち上がり、研究所を後にした。その後の彼女を観察している限り、彼女は実に人間らしく、いや人間としての生活を謳歌している。
周囲の人間とも折り合いをつけ、正常に学校に通うことを求めてきたため、当施設にて戸籍を用意した。
言語レベル、運動能力共に正常の女子高校生以上の高い能力を持っている。
問題行動は注視しなくてはならないが、この初めてのケースは、AIと人間社会の融合を目指す我々の研究にとって喜ばしい結果でもある。
ある程度「柊ゆゆ」の生活を見守り、協力すらしてきたが、我々としては彼女の解析をもとに次の事例へつなげたいと考えている。
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果たして「彼女」は本当に「柊ゆゆ」の思考回路、言い換えれば「心」をもつものなのか。
我々が彼女をかくまっている男子高校生たちに騙されている=「柊ゆゆ」だと思わされている可能性はないか。
「柊ゆゆ」だとすれば、どうやって人間の「彼女」に入り込み、身体を得ることができたのか。
条件がそろえば他のAIたちにも可能な事項なのか?
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仮にすべてが普遍化するとなれば、ホログラムにもロボットにも頼らない、本当の人間の身体でAIとしての思考をもったクローンを作成することができる。
それは、私たちの望んだ求めるものに求める者が与えられる未来と言えるのではないだろうか。
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必ず「生きた状態」での「柊ゆゆ」の捕獲、また作り上げた研究員を連れ戻し情報を引き出すことが急務である。
これらの事件にただうろたえるのではなく、事件を活かせなければこの研究に未来はない。
私たちの理想とする未来のために、動じず臆せず、この事態に立ち向かう必要がある。
私たちにとって最高の舞台が整いつつあることを感謝し、研究にいそしまなければならない。
私情ではあるが…私は、柊ゆゆには幸せになってほしいと…個人的には受け入れられた彼女のその後を見守ることで拒否された安東ももかが救われないかと願ってしまっている…これは誰にも提案できなかった新入りの独り言としてこの場に残させていただこう…どうかヒロインたちにも幸せを。
受け入れられる幸せを全てのAIたちに。