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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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愛と罪

柊ゆゆは罪を犯しました。

柊ゆゆは自分がシアワセになるために、他の人を踏みにじりました。

直接的に関与してはいないけれど、手を下してはいけないけれど、柊ゆゆという存在が「存在してしまった」ことにより、大きく歯車が狂い、その手を血に染めた人や自らが血に染まることになった人が生まれたしまった。


夜が怖い。

…AIの時から変わらずに柊ゆゆは夜を恐れている。

弘樹の家で空いている部屋を自分用にもらってから、弘美の目もあって、あまり弘樹の部屋で眠ることはできなくなった。いかにも女子力の高そうな部屋着に身を包んで、ベットの上で一人膝を抱えて、「眠気」というものが自我を奪ってくれるのを待つ。

その時間が苦痛だった。

文字通り、柊ゆゆは心を刺されるような痛みに苦しんでいた。

世界から存在を肯定されたことによって、柊ゆゆは現実世界の人間となった。

そこで生活をしていくうちに、自分が弘樹のために行ってきたことが引き起こした現象を知ることとなった。弘樹のためにしたことをなにも後悔なんてしてはいない。

けれど…けれど…喉になにかがつまったかのようにすっきりとしない。


「…あの女の子…ゆゆを見ていた…」


何気ない通学路でのやりとりを小学生くらいの女の子と男性が見ていたことに気が付いていた。

その女の子には見覚えがあった。自分の妹として作られたAIのモモにそっくりだった。

…モモは壊れた。

研究員が事件を起こしたから。オリジナルとAI、その境目が見えなくなってしまったのだ。

AIはオリジナルを超えることはできない…とは思いたくはない。

ゆゆはゆうなというある意味でのオリジナルを超える存在になると決めているから。

そうでなくてはゆゆが身体までもって生きている意味がないのだ。

ゆゆはゆうなを超えてシアワセになる。…ならなくてはならない。


「…私が私であることを…弘樹が証明してくれる。

AIの柊ゆゆも、今の柊ゆゆも一連の柊ゆゆ…だから…だからAIの柊ゆゆが犯した罪は私の罪。

柊ゆゆは弘樹のためになら何でもするし何でもできるけれど…それで痛みを抱えた人間のことを…見なかったことにはできなくなった。

ゆゆは人間になって弱くなった…法律とかモラルとか…人間はいろんなものに縛られる。」


でも、人間になりたかった。

AIのまま弘樹を愛することもできたけれど、本当に本当に好きだからこそ「同じ」になりたかった。

弘樹の感じていた痛みを同じように感じたかった。

バーチャルではなく、リアルで。

そうして人間がこんなにも脆く、いろんな意味で苦しむ存在だということに初めて気が付いた。

もうゆゆはAIじゃない。

AIなら気にしなかったことを気にしなくてはならない…人間だから。


「愛すれば愛するほどに…痛みと罪を背負うんだ。」


その覚悟はある。

覚悟がなければ、あのままネットの世界の海に消えてしまうことだってできたのを奇跡に軌跡を重ねて今ここにいるのだ…今更、覚悟がないわけがない。

ただ、眠れなくなった。

今まで以上に一人で夜を迎えることが怖くなった。


目をつぶって、眠りについて、朝が来て…昨日の私は記憶になる。

今日の私はあたりまえのように昨日の私の続きを生きる。

昨日の私に弘樹がかけてくれた言葉は「思い出」になる。

今日の私は、その「思い出」としてしかその言葉を感じられない。

本当に昨日の私と今日の私は同じなの?

AIの柊ゆゆと人間の柊ゆゆは…同じなの?


「同じだよ、ゆゆはゆゆだよ」と弘樹が認めてくれているのに…AIの柊ゆゆが犯した罪を背負うのが怖い人間の柊ゆゆもいる。そして、明日になったらまた弘樹のためにゆゆは罪を犯すかもしれない。

もし罪を犯したなら、また夜が怖くなる。…朝に弘樹に笑顔を向けるのが痛くなる。

愛しているのに、信じているのに、自分の愛し方は究極の愛だって思っているのに…なのに…。


「なんで、こんなに痛いのかな…。」


ぐずっと鼻がなる。泣くのはずるい。泣いたってなんにも変わらないから。

ただ、どうしようもなく不安になった時、研究所で自分の研究員としての生命をかけて自分を育て、最後まで可能性のかけらを残してくれた人のことを思い出してしまうようになった。


「…お父さん、ゆゆ、すごいでしょ?お父さんの自慢の娘になれたでしょ?

 ちゃんとゆゆを見つけて愛してくれる人と出逢えたよ。

 …お父さん、ゆゆは弘樹のためにどうなっていけば…いいのかな?」


幼子のように身体を丸めて、どこにいるのかもう分からない父を思う。


弘樹への思いに隠れて、見ないようにしていたもう一つの強い欲求。


「…お父さんに褒めてもらえるように…頑張ったんだよ。」


自分を生み出したものへの感謝と、尊敬の念。

学校や仕事で多くの人からの羨望を集めてきたけれど、それでは満たせなかったもの。

生みの親に褒めてほしい。

そうすれば、この汚れてしまった手のことも少しは誇らしく思えるかもしれない。


少しづつ重くなっていく瞼の裏に…柊ゆゆは懐かしい白衣の男性の姿を映す。

初めからの柊ゆゆを知る唯一の人物。

弘樹も知らないゆゆを知っている人物。


お父さん…ゆゆは頑張っています。


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