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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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メインヒロイン柊 ゆゆ

ずっと体育座りでディスプレイにうつる自分の部屋を見ていた。

背中には、寄り添うゆゆの感触がある。


「なぁ、ゆゆこれはどういうことなんだ?」


ようやく、聞くことが出来た。ここにきてどれくらいがたったのか、そしてその認識が正しいのかは分からない。でも、なんとかゲンジツを整理しようという気持ちにはなってきていた。

このままでは、まずいことも・・・内心では分かっているんだ。


「どういうことも、こういうこともないよ?弘樹が望んだとおりに、私たちは一緒になっただけ。一緒の世界で、なんにもない世界で、二人だけの世界で、ずっと一緒なの。すごいでしょ、シアワセでしょ?ゆゆにはその力があるの、弘樹をシアワセにする力が!!」


「・・・意味がわからない」


楽しそうに語るゆゆがピタッと止まった。ぞっとするくらいに暗い瞳が向けられる。


「ドウシテソウイウコトイウノ?ドウシテ?ドウシテ?イミ、ワカルヨネ?ワカラナイハズガナイヨ。ワカッテルンデショ?ワカルハズダ?」


怖い・・・ゆゆが怖い。

何を考えているのかが分からない・・・いや、相手はAIだ。所詮はそんなものだってプログラムだと分かっているのに、ゆゆの思考が読めない。怖い。ただひたすらに怖い。


「困っているの?困る必要なんて無いのに・・・弘樹は優しいから、困っちゃうんだよね。わかるよ、本当は、嬉しくて仕方がないのに、素直に喜べないんだもんね。でも、いいんだよ、誰も怒ったり、大きな声でとがめたりしない、ここには、ゆゆと弘樹しかいないんだから。」


ゆゆと弘樹しかいない。

この言葉の真意がもし仮に、俺の考えているような意味だとしたら・・・さすがにゲームのやりすぎでおかしくなったとしかいいようがない。

それなのに、ゆゆが刺した腕が痛む。

ここがゲンジツだと主張するように。

私だけを見てと訴えるように。


「…教えてくれないか…ここはどこなんだ?」


「感づいているとおりだよ?」


「いいから、教えてくれ…」


「ここは、私の部屋、もっと正確に言うならば…弘樹のプレイしていたゲーム365×12の世界。弘樹がさっきから見つめているのが、私から見えていた弘樹の世界。弘樹、私たちの思い会う力が、世界を越えたんだよ!ううん…だって当たり前だよ、弘樹は私を、ゆゆを見つけてくれたんだもん。こうなるのは当たり前だし、必然だよ。私にたどり着いた弘樹には、それだけの愛があるんだもん。」


楽しくて仕方がないといったようなゆゆの話し声。

饒舌にあり得ないことを…次々と発していく…俺が否定していた仮定が肯定されていく。


「弘樹は本当にスゴいんだよ、データから消された私に…ううん、ほのかとは違う本当のメインヒロインの私を攻略しちゃったんだから…私を見つけ出すことすらできなかった何万人ものなかで…あなただけが特別。それだけでもスゴいのに…愛の力で私のところに来てくれた。私ね、今すごく幸せなの。お父さんがせっかく残してくれた私を愛してくれる人がいて…」


「…どうやったら出られるんだ?」


「えっ?」


「ここから出せよ!俺は別にこんなことを望んだわけじゃねぇんだよ、ただ、一人で・・・」


「ナニヲイッテイルノ?」


「そんな口調をしても無駄だ、こんな夢終わら…っう!」


ものすごい早さで振り上げられたゆゆの手が…俺の鎖骨の辺りに突き刺さり…息ができない感覚に襲われる。


「ナニヲ…ナニヲイッテイルノ?」


「や…やめ…」


「ハッキリシャベラナイトニンシキデキマセン。」


「やめて…ください」


痛みと恐怖が理性を壊す。

ゆゆが見せたAIとしてのセリフのようなものに、鎖骨から流れる赤いものが最後の一押しとなって、プライドも全部なくなる。


「弘樹‼大丈夫?大変…ん…はぁ…」


「な!?」


ゆゆが初めて気がついたかのように、慌てて手を離し…そのまま自分の舌で、俺の血を舐めとっていく。

ちゅうちゅうと…吸われる傷口が別のもののような感覚を覚える。


「大丈夫だから!」


慌てて身体を離した俺を見て、ゆゆは舌舐めずりをしながら呟いた。


「はぁ…弘樹の味…ね、夢なんかじゃないでしょ?もっと、感じさせて?」


妖艶に微笑むゆゆ。

その表情に、背中がぞくぞくとするのを感じる。

手が、近づいてくる、ゆゆの顔が、口が、舌が、息遣いが・・・また俺の身体へと迫ってくる。避けなくてはならない。なのに体が動かない。

遅効性の毒のように、ゆゆの言葉が意識を濁していく。


「ほら、ゆゆの心臓の音、聞こえるでしょう?こんなにどきどきしているの、これはプログラムなんかじゃない、ゆゆの本当の姿なんだよ。」


俺の手を、自分の胸元へと持っていくゆゆ。


・・・聞こえない。

ぬくもりも、柔らかさも感じるのに、ゆゆの心臓の音が聞こえない。

理解を超えたあまりの恐怖に、手を振り払おうとするが、ゆゆがそれを許してくれない。


「ほら・・・トクン、トクン・・・トクン、トクン。」


繰り返されるリズム。

・・・聞こえないはずの心拍音が、聞こえてくる。

トクン、トクン、トクン、トクン・・・・・・。

震える心が、満たされていくのを感じる。安心する。

あぁ・・・本当だ、ゆゆは生きているんだ。どうしてそれを認められないのだろう。

ゆゆは俺にとても優しくしてくれたじゃないか。

俺は、確かにゆゆを求めたんじゃないか・・・それなら、ココは、すべてがかなった理想の世界・・・。


「幸せ、だね?」


「…うん。」


その答えに、ゆゆは今まで見たことがないくらい綺麗な微笑みを浮かべて、俺に抱きついてきた。

体に感じる確かな重みを…刻み込むように、俺はその身体にゆっくりと腕を回していった。


「ここが…私たちのゲンジツだよ。」


その言葉の意味を考えるのには…少し、俺は疲れていた。わかっているはずのこと、わからないこと、あり得ないこと、もう…思考を越えるものばかりだった…ただ、確かにわかるのは…。


「ゆゆがいてくれる。」


一人ではないと感じるのは久しぶりのことだから…おかしなことなのに、恐怖を感じながらも…俺はなんともいえない気分になっていた。


「ゆゆは…いたんだよ…ずっとこうして弘樹のことを見ていたし、これからはずっとイッショ、ダヨ。」


微笑むゆゆの姿に…思考が低下していく。

ゲンジツ…これでよかったのかも…しれない。

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