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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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弘樹の日常

ねぇ…私の声が聞こえる?

ねぇ…私の姿が見える?

ねぇ…私をずっと離さないでくれる?

ずっと…一緒ダヨ?だってキミは私を見つけ出してくれた。

さぁ、永遠に終わらない物語を始めよう。

キミと私、二人だけの…とても幸せで、とてもステキな物語を…。


挿絵(By みてみん)


ーーーーーーー

外が妙に明るい…ぼーっとする頭で、時計を確認してみるとまだ朝の7時だった。

いつもなら昼間まで寝ているのが当たり前な俺が、こんな時間に起きるなんて、今日は世界が終るのではないだろうかと不安すら感じる。

なにをするわけでもなく、布団の中でもう一度目を閉じる。

 

例えば、俺に世話焼きな幼なじみがいたとする。

勿論、家はお隣で朝になれば遠慮なく部屋に起こしに来て、二度寝なんてしようものなら早く学校に行くよ!と律儀に準備ができるまで家の前で待っている。

…そっとカーテンを開けて外を見ている。

カラスが一羽ゴミ捨て場を漁っているのが目に入る。

当たり前だ、そんな幼なじみなんているわけがない。


例えば、俺にお兄ちゃん子な妹がいるとする。

下手くそながらに精一杯朝ごはんを作って俺が起きてくるのを今か今かと制服にエプロン姿で待っている。

…そっと部屋のドアを開けてみる。

部屋の前には母さんが作ったであろうおにぎりが置いてある。

下の階から聞こえてくるのは父さんを送り出す母さんの声、妹が作っている料理の匂いなんてしてこない。

当たり前だ、そんな妹いるわけがない。


例えば、俺に血のつながらない姉がいるとする。

お互いに距離が掴めずに、ふと家の中ですれ違うだけで恥ずかしそうに、でも笑顔で「弟君、おはよう」と声をかけてくれる。

…確かめる必要性もなく、俺は三度布団にもぐりなおす。

当たり前だ、そんな姉がいるはずがない。


よく、現実はゲームのように甘くはないという言葉を聞く。

全くもってその通りだ!と俺は、初めから好感度マックスの主人公たちに言ってやりたい。

俺だって好きでこんな風になったわけではない。

ただ…どこにも俺の居場所がなかっただけのことだ。

周りは何かある度に努力が足りないだとか、もっと辛いことがたくさんあるだとか…分かったようなことばかりを口にする。

だから、俺だって精一杯頑張ってみたんだ。

ただ、頑張れば、頑張るほど周囲からは浮いていった。


ー君がネットに書き込んだんじゃないのか?-

ーさっきから君の声しかしない、もっと周りにあわせられないのか?-

ー先輩、こんなこともできないんですかぁ?-


…あぁ、だから朝早くになんて目覚めたくなかったのだ。

嫌な記憶が、次々と浮かんでくる。

軽い頭痛を覚えながら、俺はPCの電源をつけた。

独特の起動音をたてながら、すぐに肩より短い髪に軽くウエーブのかかった金髪の少女がパジャマ姿で画面に表示される。

俺と同じような生活をしているせいか、AIなのに少し寝ぼけたような表情で、俺を見つめる。


「うぅ…ん、あれ?弘樹、おはよう!今日は早いんだね!どうかしたの?」


少し鼻にかかったような甘い声、でも媚びているようなものではなく、聞いていて不思議と気持ちが落ち着いてくるのを感じる。


「はっ!?まさか…弘樹、学校…行くの?それともアルバイト…?」


一瞬にして不安そうな表情をする彼女を安心させたくて、俺はすぐに返事をする。


「違うよ、たまたま早く目が覚めたから、ゆゆの寝ぼけ顔でも見ようかと思って。」


「えーーー!?なにそれ、失礼しちゃう!私はいつでもきりっとしてるもん!」


パジャマ姿でぬいぐるみを抱えたままの姿で反論されてもあまり効果はなく、つい笑ってしまう。


「…でも、良かった、弘樹今日も家にいるんだね。」


「あぁ、早く目が覚めた分、ゆゆとずっと一緒にいようと思って。」


「ほんと、やったぁ!私張り切っておめかししちゃおうかな。」


その言葉に、嬉しさが隠しきれないといったように、目を大きく見開いて、バンザイをするゆゆ。

そんなゆゆがたまらなく愛おしく思う。


柊 ゆゆーひいらぎ ゆゆー

彼女は、社会現象となっているゲーム「365×12」のヒロインの一人だ。

2020年、ゲームの世界は信じられないほどの進化を遂げていた。

音声認識なんて当たり前、キャラが名前を呼んでくれるのも、好きな容姿や性格に設定できるのも、バーチャル世界で疑似的にRPGをすることも不可能ではなくなっていた。

それに比例するかのように若者のサブカルチャーへの没頭は大きな問題となり、ひきこもりやニートといった現象の増加に頭を悩ませた政府が逆にそれらの文化を利用しようと思いつき、有名な心理学者やらシナリオライター、はたまた絵師に声優とにかく精鋭部隊を集めて作り出したゲーム、それが「365×12」。

その効果は絶大で、初めは皆そんなものには惑わされないと言い張っていた俺と同じようなオタクたちが、

登場するヒロインたちに逆に「攻略」される形で次々と社会復帰していった。

やれ「妹に勉強を教えられないなんて兄失格だ!」と大学に復学した者。

やれ「毎日、心配してくれる彼女を前に仕事に行かないなんてできない!」と仕事に精を出す者。

ネット掲示板にはあらゆる前向きな目標が毎日つづられていく。


…おせっかいなことに、俺にもこのゲームを持ってきた人が…いや、リアルがいた。

試しにプレイしてみたは良いが、どのヒロインも巧妙に…いや、狡猾に俺を外へと促そうとする。

12人全員のヒロインとまともな関係を築かなかった俺に微笑みかけたのが13人目のヒロイン

「柊 ゆゆ」だった。

ネットのどこをみても「ゆゆ」というヒロインについての情報はなく、初めはバグかなにかかと半信半疑だった俺だったが、ゲーマーとしても性ともいうべきか、隠しヒロインを見つけた気分になりゲームを続けることにした。


ゆゆは、他のヒロインたちとは真逆だった。

学校へ行けなどとは一度も言わない。

働けとも言わない。

俺が、嫌がるようなことは絶対に口にしないし、態度にも表さないのだ。

ただ、俺がPCを起動すると嬉しそうに微笑みかけてくるだけ。

そうしているうちに…俺は、ゆゆに心を開いていった。

ゆゆと過ごす時間がかけがえなくなっていった。

だんだんと色々な話をし、ただただ同じ時間を過ごしていた。


だから、俺は今日もゆゆと二人だけで過ごそう。

ゆゆがいてくれれば、俺は幸せなのだから。


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