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Because  作者: 緋龍
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少女の光

「今回の任務は二人で行ってもらう。セアルグ、入れ」


「はい」


 十一になる少し前、初めて共同任務を言い渡された。

 未熟だったころは補佐役――実際にはほとんど監視役――の大人がついていたが、おさに認められてからはずっと一人だったから、私は少し驚いた。

 任務を振り分ける役目を担う調整役に言われて入ってきたのは、数年前に『闇』に入った少年、セアルグだった。

 私と同じ銀の髪、それに紅い瞳。十三とは思えない落ち着いた表情。

 もっとも、私も年相応に見えないと言われていたので人のことは言えなかったが。


「西にある小さな町を治める領主が最近雇った男が、どうやら“つい”らしいとの情報が入った」


 セアルグの引き締まった表情が、一瞬揺らいだように見えた。

 “つい”とは『闇』を逃げ出した者をさす。裏切り者に待つのは死のみ。だから彼らのことを、命が終わる者――“終”と呼んだ。

  

「“終”の始末は二人とも初めてだが……出来るな?」


 私とセアルグは、はいと頷いた。

 それ以外の答えは存在しないと知っていたから。


 西の町に着いた私とセアルグは、手分けして情報を集めた。

 住人の話によると、領主が息子の剣の指南役にと雇ったということだった。鋭く尖った爪とくちばしを持つ鳥、妖雷鳥ようらいちょうを肩に止まらせているという。

 調整役は、“終”は鳥を手なずけるすべに長けていたと言っていた。住人たちが口にした名は聞いていたものと違っていたが、それは問題ではなかった。

 『闇』はいくつもの名を使い分ける。本当の自分を知られないように。

 名だけでなく、姿も、性格も、身分も。

 私たちは“終”を監視し、彼と妖雷鳥が別行動を取るのを待った。

 そして、妖雷鳥を密かに殺し、“終”が領主の息子に剣を教えている隙に、彼の部屋の壁に印を描いた。


「大丈夫?」


 手が妖雷鳥の血で真っ赤になった私に、セアルグが訊いてきた。

 壁の印は警告。裏切り者には死あるのみということを、親しい者の血で描き、思い知らせる。

 残酷で非情な『闇』の掟。

 何にも動じることはないと思っていたけれど、私の手は小刻みに震えていた。



「お前が追っ手だと!? お前みたいな子供が!?」


 行く手を遮る私に、印を見て領主の館を飛び出した“終”が驚きの声を上げた。

 町はずれに広がる緑溢れる森。夕闇が迫る終焉しゅうえんの場所。

 少し離れたところにはセアルグが潜んでいた。

 私は無言で襲いかかった。死にゆく者にかける言葉など持ち合わせていなかった。

 “終”は死から逃れようと必死に足掻いた。

 そして――


「恨むなよ、俺だってもう人を殺したくないんだ。だけど、やらなきゃ俺がやられるんだ!」


 木の根に足を取られて体勢を崩した私を幹に押し付け、“終”は私の首を絞めた。

 合図を送ればセアルグが来ることになっていたし、反撃することはいくらでも可能だった。

 だが、私はそれをしなかった。

 何故か、死にたくないと思わなかった。

 私は身体から力を抜いて眼を閉じた。


「お前――ぐっ、なっもう一人いっ、ぎゃあぁっ!」


 首を絞める力が弱まり、咳き込みながら眼を開けると、“終”は死んでいた。背中にはセアルグが好んで使う黒曜石が、眉間には短剣が深々と刺さっていた。


「どうして俺を呼ばなかった!?」


 彼の問いに私は答えることが出来なかった。


 住み処に戻った私たちはよくやったと調整役に褒められた。セアルグは私の取った行動を報告しなかった。

 それから、セアルグはよく私に話しかけてくるようになった。

 最初はほとんど相手にしなかった。彼の目的が分からなかったから。

 だけど、いつしか彼と話をするのが楽しみになっていた。彼を兄と呼ぶようになっていた。

 陰鬱で冷たい、誰も本心を語らないこの場所で、彼の言葉だけは偽りのない温もりがあった。『闇』の中で彼だけが心に光を持っていた。

 私の心からはもうなくなってしまった光を――。

 

 私たちはローディスに不要な存在だと王に判断されたらしい。住み処に駆け込んできた『闇』の男が、もうすぐここに騎士がやってくると、息も絶え絶えに叫んだ。


「逃げるぞ!」


 セアルグに手を引かれ、他の『闇』たちと一緒に住み処を飛び出した。暗闇の王都を駆け抜ける。

 あちこちから剣の交わる金属音と怒声、それに断末魔が聞こえてきた。

 

「くそ、ここにも騎士がいる」


 細い路地から通りを覗いたセアルグは、舌打ちをして月も星も見えない夜空を仰いだ。

 『戦のもり』に忠誠を誓う精鋭集団。

 数十人の『闇』に対して、向こうは何百といる。

 一人二人は倒せるだろうが、囲まれれば勝ち目はないと思われた。


「俺たち以外の『闇』が死んで、俺たちだけが生き延びられれば……」


 セアルグは『闇』が嫌いだった。明るい世界で生きたいとよく言っていた。

 私には彼の考えが理解できなかった。

 何故なら、『ここ』以外で生きていくすべを知らないから。朗らかで穏やかな世界で暮らす自分が想像できなかったから。


「よし、俺が奴らをひきつける。その間にお前は反対から王都を出るんだ。いつもの丘の上で待ち合わせよう」


 セアルグは私の手を強く握ると路地から出て行った。

 すぐに戦いが始まり、何かが地面に倒れる音がする。応援を呼べと叫ぶ声がする。

 ここで離れたらもう二度と会えない。そんな確信にも似た予感がした。

 だから、私はセアルグと同じところから通りに出た。

 彼のいない世界は『闇』よりも暗いと知っていたから――。 



 これで完結です。

 短い話ですが、色々と思いの詰まった作品なので書き終えることが出来てうれしいです。

 最後までお読み下さりありがとうございました。

 

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