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第三話;悔しい‼︎ でも……‼︎

「ハア……ハア……」

「ン……フゥ……」


 吸血鬼の洋館。


 その一室では、麗しき悪女と純粋な美少女が、互いに息をあらげながら、その美しい身体を激しく動かしていた。

 ロウソクで橙色に照らされた部屋の薄灯りは、二人が動く度にゆらゆらと妖しく揺れている。


「フゥ、フゥ……さすがに限界のようね」

「……ハアッ、ハアッ」

「さっきからずっと、貴女の熱い吐息が漏れているわよ?」

「……クッ‼︎」


 始まった頃は、余裕の表情を見せていた美少女も、悪女の無尽蔵のスタミナと、熟練されたテクニックに次第とペースを乱し、今では息も絶え絶えで、身体は熱く火照っていた。


「ほら、もうこんなに汗をかいて……隙だらけよ?」


 悪女の美しい指先が、疲れで一瞬思考を停止させた美少女の肌に触れられる。

 その瞬間、美少女はその紅い瞳を震わせながら、おもわず声を漏らした。


「アッ……‼︎」

「フフ、貴女の負けね……」


 そう言うと悪女は、膝から崩れ落ちている美少女を起こし、部屋の隅に置かれた椅子とテーブルの方へと目を向けた。


 目線の先、部屋の隅では、全身黒のスーツを着た男が一人、椅子に座って紅茶を飲んでいた。

 男は黙って二人を見た後、少々戸惑いながらこう言った。


「いや、てかこれ鬼ごっこだからね? なにちょっとエロい感じになってんの? え?」


 と。



 以下、ことの始めの説明。


 麗しき悪女。 もとい、吸血鬼の変態は名前を『ウラクリア・ドーラ』という。


 そのウラクリアが、エンマと風呂に入ろうとしたのだが、エンマはこれを拒否。

 お風呂ぐらい、いいじゃない‼︎ という、ウラクリアの主張にもエンマは真っ向から反発。

 するとウラクリアは、じゃああなた達の仕事になんか協力しな〜い。 と駄々をこねはじめた。


 そうなると今度は黒霧が、それは困ると主張。

 ならば、その可愛い生物と私を一緒に風呂に入らせろ。 と二人を脅す変態。


 そうして悩んで話合った末、だした結論が、エンマとウラクリアの鬼ごっこだった。


 エンマが時間内に逃げきれば、ウラクリアは無条件で今回の仕事に協力する。

 逆にウラクリアが勝てば、エンマとお風呂に入れるという条件だった。


 黒霧は少々不安だったが、エンマが、「魔王が吸血鬼に負けるか‼︎」 と、賭けに対して案外乗り気だったので、任せてみた。

 ウラクリアも、「堂々とエンマちゃんを好きにできるキャッホーッ‼︎」 と、変態ならではのやっかいな勘違いをしていたので、鬼ごっこが始まったのである。


 以上で説明終了。

 結果は知っての通り、変態の勝利である。



「じゃあ私勝ったから、これからエンマちゃんと一緒にバスルーム行ってくるわね‼︎ 汗もかいちゃったし‼︎」

「変態に負けた。 変態に負けた。 変態に負けた。 変態に……」


 あゝ無情。 敗者とはこれほどまでに惨めなものなのだろうか。

 黒霧は、ブツブツとうわ言を呟くエンマを、ただただ見送ることしかできなかった。


 しかし、彼も一応エンマの上司である。

 部下の挑戦の尻拭いくらいはする。


 黒霧は、スーツのポケットから携帯電話を取り出して、電話をかけ始めた。


(ジャーン、ジャーン、ジャーン)


「……あ、もしもし? うん俺。 実は今お前んとこの家に来てんだけどさ、ほら今日満月じゃん? あいつテンション上がっちゃって、俺じゃ手に負えないからちょっと帰って来てくんね? ……うん、エンマがさ、そう。 ごめん、頼むわ」


(ピッ)


 電話をきり、フゥ、と一息ついた黒霧は、また椅子に座って残っていた紅茶を飲み始めた。


「しかし、なんであいつの通話待ちの音はジャーン、ジャーンなんだろうか……?」



 いっぽうその頃、脱衣所に着いた変態のテンションは、上がりまくり。


「さあ‼︎ これからエンマちゃんと裸と裸でお風呂タイム‼︎ アアッ‼︎ なんというバスロマンッ‼︎」


 そうして、ウラクリアが呆然としているエンマの服を脱がそうとしたときだった。


「ウラクリア様、なにをなさっているのですか?」

「へ?」


 ウラクリアが声に振り向くとそこには、犬耳銀髪の女性が立っていた。

 女性は、あからさまに怒っていますという雰囲気を出しながら、ウラクリアに近ずいて行く。


「げぇっ、銀狼ぎんろう‼︎」

「げぇっ、ではありません‼︎ またエンマ様にセクハラをなさっているのですね‼︎」

「セクハラって、女の子同士だよ⁉︎」

「あなた様に限っては、その理屈は通用いたしません‼︎」


「だって私、鬼ごっこに勝ったのよ⁉︎」

「言っている意味がわかりません‼︎ とにかく、エンマ様は私が保護します」


 ああっ、と、すがりつこうとするウラクリアに対して、問答無用といった感じで銀狼と呼ばれた女性は、エンマを回収した。


「あ、それとウラクリア様、なんだか汗臭いので、早くお身体を洗われてはいかがですか?」

「失礼ね‼︎ 洗うわよ‼︎ だからエンマちゃんも一緒に……」

「ダメです。ウラクリア様とお風呂など入ったら、エンマ様が汚れてしまいます」

「汚れないわよ‼︎ 洗うって言ってんのにどういうことよ⁉︎」


「いえ、貴女様は、エンマ様のとんでもないものを汚してしまいます」

「な、なによ、それは……?」

「彼女の心です」

「うっさいわ‼︎」


 そこに、二人の会話を聞きつけた黒霧が、脱衣所の外から話かけてきた。


「お、銀狼もう来てんのか?」

「ええ、夜鷹。 エンマ様はちゃんと保護したわ」

「悪いな、用事だったんだろう? それに今夜は満月だから、お前も大変だろ?」

「そう思うのなら、今度から満月の日以外に来てちょうだい」

「いや、そうは思っても、ついつい忘れるんだよな、これが」

「はあ……。 貴方はいつもそうね」


 二人がウラクリアを無視して話していると、しびれをきらしたのか、ウラクリアは黒霧に叫んできた。


「ちょっと、夜鷹ぁ‼︎ あんたね、銀狼を呼んだのは‼︎ 私はちゃんと賭けに勝ったのに、卑怯じゃない‼︎」


 未だ諦めの悪い変態は、黒霧に激しく抗議を申し立てている。

 が、対する黒霧は、全く動じずにひょうひょうとした声色で返答した。


「いや、あれはお前とエンマの賭けだから。 俺は関係ないし」

「なによそれぇ‼︎ この詐欺師‼︎」

「ほんっと、満月の夜はうるせえなお前。 ちゃんと仕事の報酬は出すさ」

「エンマちゃんとのお風呂以上に魅力的な報酬が、あるのかしら?」



 そう聞かれた黒霧は、何かを誤魔化すように、少し笑いながら答えた。



「ああ、あるよ。 俺の血をやる」


「……‼︎」

「夜鷹、それは……」

「黙りなさい銀狼。 これは、ここからは私とこいつの話よ」

「……申し訳ありません。 ウラクリア様」


 黒霧以外の二人の声色が、緊張感のあるものへと変わった。

 先ほどまで、冗談を言い合っていたのが嘘のように、空気が一瞬で重苦しいものに変わる。



「変態に負けた。 変、負け……」


 ちなみにエンマは、この会話のど真ん中にいながら、未だ呆然としていて半気絶状態であった。



「とりあえず、場所を変えましょう。 銀狼、貴女はエンマちゃんを客室で少し休ませてあげなさい。 夜鷹、貴方は私の部屋に来なさい」

「かしこまりました」

「了解した」


 ウラクリアの一言で、それぞれが黙々と場所を移していった。



 黒霧は、ウラクリアの自室に入る直前、横目で心配そうにこちらを気にする銀狼と目が合った。

 そこで黒霧は、銀狼に向けて、心配ないから大丈夫。 という旨のジェスチャーをしてみた。


「やっぱり、イババ。 百人蹴っても大丈夫?」


 ……あまり伝わらなかった。



 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



 終わりに、突然現れた銀狼という女性を、簡単に説明させていただく。


 名前はそのまま『銀狼ぎんろう』。

 名付け親は、ウラクリアである。


 ウラクリアの使い魔で従者。

 種族は人狼。


 銀色の長髪をポニーテールにしている。 さらに犬(狼)耳がついている。


 ちなみに、ウラクリアも銀狼も黒霧とは、旧知の仲である。


 好きなことは、ウラクリアをいじめて遊ぶこと。



次回、忘れさられつつある時沢さん、再登場の予感。 に続く。

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