第一話;二年後、そして伝説へ
ここは黒霧夜鷹の自宅兼事務所の居間。
魔王城陥落から、約二年が過ぎた日のことである。
「おいエンマ、お前またドラエクのⅣやってんのかよ。 いい加減セーブしろ。 もう仕事に行くぞ」
「え、もうそんな時間か? ちょっと待て、今ルラーで街まで戻る」
そう言ってエンマがコントローラーを操作すると、テレビ画面からテロリロリンと、呪文の音が聞こえ、すぐさま主人公が天井に頭をぶつける音が聞こえた。
「バッカ‼︎ お前、ダンジョンでいきなりルラー使ってどうすんだよ。 まずはミトリレでダンジョンから出ないとダメだろうが」
「しまった‼︎ そうだった‼︎ ……って、あ」
「どうした?」
「MP、今のでなくなっちゃった」
黒霧は大きく息を吸い込んだ。
「お、ま、え、なぁ‼︎ ダンジョンでは最初、MPを温存して戦えって何回も教えたじゃねーかよ‼︎ ミトリレ一回分も残してないってバカじゃねーか‼︎ Ⅳなら消費MP4ですむんだぞ⁉︎」
「そんなに怒らなくてもいいだろう。 うっかりだろうが」
「いつもするミスは、うっかりとは言わねーんだよ」
貸せ、と言って黒霧はエンマからコントローラーを奪い、ダンジョン攻略を始めた。
途中のトラップや、危険な雑魚モンスターをエンマに説明しつつ、二人は楽しげにドラエクⅣをプレイした。
そして黒霧とエンマが、時間をかけてやっとダンジョン奥の回復の泉に来た時だった。
(ピンポーン)
家の呼び鈴が鳴らされた。
黒霧が誰かと思い、玄関に出るとそこには細身でメガネをかけた男が「あ、どーも」とヘコヘコしながら挨拶してきた。
「新聞ならもう間に合ってますけど……」
黒霧が、相手があまりに低姿勢なので、新聞屋だと思い追い返そうとした時、メガネの彼は口を開いた。
「あ、いや新聞じゃないです。 私、本日こちらに依頼を申し込んだもので、『時沢』と申します」
「え⁉︎」
「はい。 それで、約束の時間になってもいらっしゃらないので何かあったのかと、直接訪ねた次第です。 はい」
し、しまったぁああ‼︎ とは黒霧の心の声である。
黒霧は今、『月桜町』という、人妖が入り乱れて住んでいる町に腰を落ち着けている。
そして、探偵という名の何でも屋として生活している。
だが最近はあまり仕事が入らず、居候しているエンマの食費もかさみ、月末の支払いがかなり苦しかったのだ。
そんな中入った大事な仕事を、まさかゲームしてて忘れてました。 なんて言えるはずもなく、黒霧は見えるところも、見えないところも、冷や汗でダラッダラだった。
「ちょっと夜鷹〜、なにをしているのだ〜? 早くエムターク倒しに戻ってきてほしいのだが……」
「わ〜‼︎ バカ‼︎ 知るかそんなもん‼︎ お前は一人で、エムタークと天空の城行ってろ‼︎」
「いや、エムタークいるの地下なんだけど」
「うるっせーんだよ‼︎ あんまり聞きわけないと、地下でエムタークと一緒にチンチロやらせんぞ‼︎」
いきなり出てきて、爆弾を投下しようとするエンマを居間に追い払い、黒霧はなんとか時沢さんと仕事の話をすることに成功した。
「先ほどは、失礼いたしました。 約束の時間に遅れたことと一緒にお詫びします」
「あ、いえいいんですよ。 依頼は単純なペット探しですし、特別急いでいるわけでもないので」
「そう言っていただけると、私もありがたいです。 それで、ペット探しということでしたが?」
黒霧が尋ねると、時沢は、はい……と急に難しそうな表情をした。
何か、言いあぐねているように見えた黒霧は、時沢に笑顔でこう言った。
「以前電話でも、申し上げましたけども、俺は探偵とは名ばかりの何でも屋です。 ですからお客様の言いにくいこと、秘密にしたいこと、なんでも引き受けますし、もちろんその内容は他言しません。 ですから安心して全て話してみてください」
それを聞いた時沢は、少し表情が明るくなり、意を決したように依頼内容を話し始めた。
「じつは、他にも色々な方に捜索を頼んでいたのですが、ことごとく皆さんに断られていまして、どうしようかと思っていたのですが、あなたなら大丈夫そうだ」
「もちろんです‼︎ 私は簡単に依頼を断るような、薄情な男ではありませんからね‼︎」
黒霧はもうどうだと言わんばかりに胸を張り、得意げに話していた。
まだ、その断られ続けてきた内容も聞いていないのに。
「それでその可愛らしい、ペットちゃんは、どういった?」
「いやそんな可愛らしいだなんて」
まんざらでもなさそうな時沢は、上機嫌でじつは……と、その可愛らしいペットの正体を話した。
「ケルベロスなんです‼︎ 大型の‼︎」
「…………へ?」
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その頃エンマは、地獄の魔王と一対一で、真剣勝負の真っ最中であった。
「どっちが本当に強い魔王か、教えてやるぞ‼︎ エムタークゥ‼︎」
しかしMPがたりなかった。
「ぐあぁぁ‼︎ しまったぁぁッ‼︎」
次回、ケルベロス捜索に続く。
ドラエクもとい、ドラクエネタが多くわかりずらかった方々、大変申し訳ありませんでした。