クリスマスやから(後編)
十二月二十五日。午後六時五十五分。カズミの家のインターホンが鳴った。
「はいはい」
カズミは重い足取りで、右へ左へふらふらと、玄関へ行く。スリッパを履いて、鍵を開けて、ドアを開いた。
「メリー!」
暗闇の中、ヒロコが元気よく、手を上げた。その手には、白い箱の入った袋。マフラー、耳あて、手袋、コート。寒さ対策もバッチリである。
「ク、クリスマス……」
一方カズミは、グレーのスウェット姿。ドアを開けたとたん、寒さが身にしみた。鼻が赤くなっていて、前屈みで両腕をさする。
「なんか元気ないんちゃう?」
ヒロコは首をかしげて、カズミに近づいた。
「ええから、はよ入って。寒いねん」
ヒロコの背中を押して、家の中へ入る。ドアを閉めて、鍵も閉める。
「おばちゃんらは?」
ブーツを脱ぎながらヒロコが訊ねた。
「親は外食。アニキは友達とどっか行った」
「そうなんや。なんか急で悪かったなー」
「なにを今さら」
カズミもスリッパを脱いで、中へ上がろうとしたとき、一歩目の右足が段差に引っかかった。
「あ」
支えるものがなく、先に上がっていたヒロコの背中に顔を打つ。そのまま二人して、大きな音を立てて、倒れこんだ。
「いたたー、ちょいとカズミさん? まだなんもボケてへんで」
ヒロコが上半身を上げて、言った。しかし、カズミは倒れたまま、顔を赤くして、息を荒げている。とっさにカズミの肩を支えて、手袋を外し、額に手を当てる。
「ちょっカズミ! あんた熱あるやんか!」
カズミは目を細めて、
「ほんまに? そういえば、朝からぼーっとするし、鼻水出るし、頭重いし」
「わかった、わかった。はよベッド行って、休もなー。立てる?」
「ふぅん」
ヒロコが肩を貸して、なんとか部屋に入った。カズミをベッドで横にさせると、
「なんか食べる?」
「んー、おなか減ってへん」
「そか。ハンガー借りるで」
マフラーと耳あてを外し、コートを掛ける。思い出したように、玄関へ戻った。
「あちゃー、こりゃあかんな」
ヒロコが持ってきたケーキの箱は、倒れた際に、床に打ち付けられた。開けて、中を覗いてみると、見事にぐちゃぐちゃ。クリームが箱にべったり。きれいに円を描いて並んでいた苺も、ばらばらに。ケーキの上に乗っていたはずの砂糖菓子のサンタクロースは、首が折れて、ケーキのスポンジにめり込んでいた。
「しゃあない」
ケーキは箱に入れたまま、袋ごと捨てることに決めた。ヒロコは台所にいって、冷蔵庫を開けた。スポーツドリンクをコップに入れて、ストローを挿した。部屋に戻り、カズミに声をかける。
「カズミちゃーん、アクエリ飲んどきー」
「ふぅん。ありがと」
重そうに頭を上げて、コップを受け取った。ストローをくわえて、吸う。冷たく甘い液体が、口の中に入ってくる。喉と頭と鼻の奥が、すっと軽くなる。
「はー、うまい」
「そりゃよかった」
カズミが飲み終わるまで、二人は黙っていた。そして二人同時に、言った。
「ごめんなー」
目と目が合う。考えていることは、同じだった。お互いが、それに気づいて、面白くなった。二人して笑った。
今日はクリスマス。言葉もプレゼントも、なくていい。
大切な人と一緒にいる時間、それだけで、特別な日。
後日の会話
カズミ「ヒロコには世話になった。ありがとう」
ヒロコ「やん! やめてやめてー、照れるやん!」
カズミ「でもなんか、ヒロコにしては、ええ人すぎやったな」
ヒロコ「……クリスマスやから!(恥ずいー)」