変身怪人として、矢野悠斗として
俺はANLG団のアジトを脱出した後、デジレンジャーに交渉を持ち掛けた。ドクトルKを倒すのに協力を仰ぐ為に。そして協力を取り付けるのに成功し、現在俺達はANLG団の実験ドームに向かっている。と言うのもデジレンジャー達とアジトに乗り込んだ時、ドクトルKが自らが居る場所を知らせてきたのだ。
「私は実験ドームに居る。途中に居る怪人達を倒して、私の所に辿り着いて見せるがいい」
自分から知らせてくる位なのだから罠の可能性が高い。俺達はドクトルKの思惑通りに進むのかどうか相談したが、結局は実験ドームへ向かう事にした。実験ドーム、そこは怪人の能力調査だけではなく、開発した兵器の性能審査等を行う設備だ。その広さは野球が出来そうな位である。実験ドームへ向かう途中に出てくる怪人を倒しながら俺達は進んで行く。そして遂に実験ドームに到着した。
「ドクトルK!お前の野望もここまでだ!」
デジレンジャーのレッドがドクトルKを指差しながら言い放った。
「ククク。それはどうかな?何の為に実験ドームへと招待したと思っているのかね?究極の怪人のデータを取る為さ。君達と戦う事によってな!」
ドクトルKはそう言うと、自分の腕に注射を刺した。するとドクトルKの体が変化していった。って、今隙だらけだよな。よし!先手必勝!狙うは心臓――コアだ!
「でやぁぁぁ!」
俺は間合いを一気に詰め、その勢いのままドクトルKの心臓――コア目掛けて拳を突き出した。
ドゴォォォン!
ドクトルKは吹っ飛んで行き、実験ドームの壁に激突した。手応え的にはイマイチだったが、どうだ?
「お、おい、グロウ。いきなりじゃないか?」
「何を言っている?俺達はドクトルKを倒しに来たのだぞ?隙があれば狙うのは当たり前だろ」
「いや、そうかもしれないが……しかし――」
レッドが何か言っているが、変身が終わるまで待つ奴がいるか?そんなお人よしは正義の味方ぐらいだろ。……って、デジレンジャーは正義の味方だったな。
「……いきなりとは酷いではないか。変身が終わるまで待つのがマナーというものではないのかね?」
「やっぱり駄目だったか。残念ながら俺は正義の味方ではなく悪党なんでね。隙があれば遠慮なく狙うさ」
瓦礫を押し除けながらドクトルKが出てくる。どうやら変身は終了し、その姿は異形の姿になっていた。んー、イメージ的には鎧を着たハエ人間ってとこか?嫌悪感が湧くな。あれ?胸の所、鎧が砕けてるな。さっきの一撃は一応効いていたんだな。
「究極の怪人となった私の実力、君達で試させてもらおう!」
ドクトルKはそう言うと俺達に襲い掛かって来た!俺は咄嗟に上空へと『能力』を使用して駆け上がった。レッドとブルー、それにグリーンは接近戦を仕掛け、イエローとピンクは離れた所から射撃で牽制している。そして俺は上空からデジレンジャーの連携の隙を埋める形で攻撃を仕掛けていく。上空から状況を確認していると、ピンクがやや前に出てきている様に見える。って、ドクトルKがピンクに狙いを付けた!?ちぃ、間に合えよ!
「オォォォッ!」
「えっ?キャアァァァ!」
ドゴォッ!
「ぐっ!」
「防がれてしまったか。まぁいい。攻撃を当てる事は出来たのだからな」
防ぐのに間に合ったが、さすがは究極の怪人だ。防御した上からかなりのダメージを受けてしまった。それによって俺のコアにヒビが入った様だ。持つか?いや、持たせてみせる!
「何をぼーっとしている!さっさと動け!」
「あ、はい!グロウさん、すみません。助かりました」
庇われたピンクは暫くぼーっとしていたが、声を掛けると直ぐに気を取り直した。ピンクが離れたのを確認した俺は、ドクトルKを蹴り飛ばして距離を取った。ピンクが避難するまで時間があったが、ドクトルKは攻撃を当てた事に満足したのか追撃をしてこなかった。どうも戦闘経験が無さそうだな。そこに付け入ればいけるか?
「ハッハッハッ!効かんよ!」
「クッ、硬い!弱点は無いのか!?」
俺達の攻撃は全てその強硬な鎧によって弾かれていく。どこか脆い所は無いのか?幸いな事にドクトルKの攻撃はどれも大振りで読み易く、避けるのに苦労は無い。しかし決定打に欠ける為、最終的にスタミナ切れで捕まってしまうだろう。何とかこの状況を打開しなくては……。
「グオォッ!?」
ダメージが通った?今の攻撃はイエローの射撃だったはず。何処に当たった?
「効いた!?……皆、胸を狙って!」
「分かった!行くぞ、皆!」
「任せとけ!」
「やるっす!」
「私も行きます!」
イエローの声に従い一斉に攻撃を仕掛ける。そう言えば最初の一撃で胸の部分を砕いていたな。なるほど。鎧の下は生身のままか。
「ふざけるな!私は究極の怪人なのだぞ!こんな所でやられる筈がない!」
ドクトルKは腕を振り回して俺達を近付けない様にするが、反対にその動きが隙を大きくしていく。攻撃が集中した事によってコアが徐々に表に出てくる。よし、このまま攻撃を重ねて行くぞ!そして遂にコアが剥き出しになった。
「皆!あれを使うぞ!」
「分かった!」
「必殺技っすね!やるっす!」
「えぇ!一気に決めるわ!」
「はい!これで終わりにしましょう!」
デジレンジャー達は持っていた武器を連結させてエネルギーを溜めている。何か大技を決める様だな。なら俺はそれまでの時間を稼げばいいな。
「時間稼ぎは任せろ!」
俺はドクトルKとの間合いを詰めた。ドクトルKの周辺を急激な方向転換やフェイントを交えながら飛び回り、時には攻撃を加えていった。ドクトルKはその動きに翻弄されてその場に止まっている。しかしこの動き、『能力』を限界付近まで使用する為負担が大きい。俺のコアからピシッ!ピシッ!とヒビが大きくなっていく音が聞こえる。デジレンジャー早くしろ!
「グロウ!待たせた!行くぞぉぉぉっ!」
「俺達の力をこの一撃に!」
「全力で打ち抜くっす!」
「これで全てを終わらせてみせる!」
「私達の思いを込めたこの一撃を受けて!」
「「「「「クァンタムバスター!!」」」」」
デジレンジャー達の攻撃が放たれると同時に俺は上空へと回避した。何だよあの一撃は!極太のビームがドクトルKを飲み込んでいく。ビーム受けているドクトルKの鎧が徐々に砕けていく。そんな強力な攻撃があるなら最初からやってろよ!ビームの照射が終わるとそこにはボロボロになったドクトルKが立っていた。コアにはヒビが入っているが砕けるにはあと一つ足りない。デジレンジャー達は攻撃の反動の為か動けそうにもない。ならば俺がっ!
「こいつでトドメだ!」
掛け声と同時に俺は急降下し、ドクトルKのコアを急降下の勢いのまま蹴りつけた!
「グオォォォッ!」
その一撃を受けたコアは耐えきれずに砕け散った。コアが砕けた事によりドクトルKの体が砂となって徐々に崩れていく。
「そんな……。私は究極の怪人なのだぞ!なぜ負ける?なぜだ!?」
そう言うとドクトルKの体は完全に砂となり、崩れ去った。
「……確かにその体は究極だ。だが中身は素人のままだった。それが敗因だ」
新藤、雨宮君。ちゃんとケリは付けたぞ。気が付くと俺の姿は怪人から人間に変わっていた。ふと手をみると指の先が砂になっている。そうか……。
「やったなグロウ!これでANLG団は壊滅したな」
レッドが声を掛けてきた。その声は喜びに満ちている。
「長かったが、終わったんだな」
ブルーは肩の荷が下りたと言いたげに呟いている。
「厳しかったけど、終わって良かったすね」
グリーンは口調では抑えているが、嬉しそうだ。
「皆。お疲れ様」
イエローは労いの言葉を掛けている。
「お疲れ様です、みなさん!これで終わったんですね!」
ピンクは全身で喜んでいる。
そう、終わりなんだ。ANLG団も、俺も……。
「あぁ、終わりだ。俺1人では無理だっただろうが、お前達のお蔭で勝てた。礼を言う」
「礼は要らないぜ。さぁ帰ろうぜ!」
レッドがそう言い、皆で帰路に着く。だが俺はその場から動かなかった。
「……すまないが俺は行けない」
時間がもう無いしな……。
「え?何を……っ!?グロウ!お前、その腕は一体!?」
ブルーが振り返り俺の体を見て驚く。それに釣られて残りも振り返る。
「どうやらコアが砕けてしまった様だ。時期に全身が砂となって崩れてしまうだろう」
「そんな!?何とかならないんですか!?」
「無理だな。だが、これでいい。平和な世界に俺の様な怪人は必要ない」
「それは違う!」
レッドが声を上げる。
「グロウ!お前は怪人なんかじゃない!俺たちの仲間だ!ヒーローなんだ!」
っ!俺が……ヒーロー?こんな俺が?それは……嬉しいな。
「そうか……。ありがとう」
その言葉を最後に、俺の体は砂となって崩れ落ちたのだった……。
――ここは?
そこは何もない空間だった。……いや、2人分の人影がある。あれは――
――お疲れ様です。矢野先輩。
――ちゃんとケリを付けれた様だな。
――雨宮君!それに新藤も!……少し待たせちまったかな?
――大丈夫ですよ。
――あぁ。問題はない。それじゃそろそろ行くとするぞ。
――そうだな。……行くか。
そして俺達は歩き出した。どこへ向かっているのかは分からないが、行ける所まで歩き続けるだけだ。俺達3人で。
変身怪人・矢野悠斗の場合は今作で完結となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。