EP2
「なぁエル。結構歩いてるけど、後どれくらいで着くんだ?」
「・・・・・もうちょっと・・・」
「それ、さっきも聞いたんだけどな・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「無言になるなよ・・・・はぁ」
カイは軽くため息をついた。
エルの誘導で、俺は精霊の森の中へと踏み入れたのだが、あれから30分近く歩いているが、一向につく様子はみられない。
(だってさぁ・・・・さっきから見てる景色も、一向に変わらない木々ばかりだしなぁ・・・)
せめて、景色が少しでも変わってくれれば、少しは気分も軽くなるのだが・・・
「・・・・着いた」
と、エルが飛ぶのをやめてその場に止まった。
「・・・・・ここか?対して特にさっきと変わってないけど・・・・」
そう言って、俺は周りを見渡すが、別にこれといった特徴のない森の中しか見えない。
エルは、そう思っている俺に構わず、まるで祈りをささげるかの様に、手を組んで目を閉じる。
「おい・・・何して」
そこまで言いかけた瞬間
景色が一変した。
「・・・・・な?!」
突如、地面から光の粒子が辺り一面に溢れ出し始めた。
粒子は赤、青、黄色、緑といった、様々な色があり、それがまるで遊んでいるかのように俺の辺りを飛び回る。
「・・・・綺麗だ。」
俺は、思わず心に浮かんだ事を口に出していた。
それほどまでに、俺が見ている光景は幻想的だった。
風が吹くと、粒子は風に乗るかのように飛び回り、それが木々に触れて、囁くかのように音を出す。
まるで、自然が生み出した吹奏楽のように俺は感じていた。
『ここまで、道案内ご苦労でしたねエル。』
と、エルとは違う声が風に乗って、辺りに響き渡る。
エルは祈るのをやめ、ゆっくりと頭を下げる。
そこからは一瞬だった。
エルの前に、突如女性が現れた。
髪は今まで俺が見てきた中で、一番綺麗なエメラルド色で、それが腰ほどまであった。
瞳は、エルと同じ黄金色だが、こちらの女性のほうがもっと神々しく感じた。
すらりとした引き締まった体は、まるでエルが成長した姿のようだった。
いや、もしエルがこの先成長すれば、この女性みたいになるのでないかという考えまで出ていた。
女性は、ゆっくりと地面に降り立ち、俺に向かって一礼する。
『初めまして。私はこのイーリス大陸の精霊たちを見守る者、風の精霊王のウィンリルラと申します。』
「あ・・・・えっと、中川 皆といいます。」
俺は戸惑いながらも、何とか彼女に礼をする。
この世界の創設者の一人と言っても過言ではない精霊の王、それが自分に対して一礼をしたと思うと、思わず心が飛び上がりそうだった。
そんな俺を見た彼女はふふっと軽く笑った。
『エルから聞いた通りの人ね。』
「へっ?」
『リアクションが多い人だって聞いてたから・・・』
「・・・・・・・・・・・」
そう言われた俺は、ゆっくりとエルのほうを見た。
エルは俺の視線に気付いたのか、たちまち視線を泳がした。
「あの野郎・・・・・」
後で、どうやらエルに、お話をする必要がありそうだ。
『そうエルを責めないで下さい。元々私がどんな方なのかを聞いたのが始まりなのですから、謝るのは私のほうです。』
視線に気付いたのか、そう言って彼女は頭を下げる。
「あわわわ、いえ!別に気にしてませんから!どうか顔を上げて下さい。」
慌てた俺は、彼女に釈明する。
『そうですか・・・・。』
彼女が顔をあげるのを見て、俺はほっとする。
「・・・・・・・・・・カイ・・」
彼女の後ろでエルが黒い笑みを浮かべてなければ、もっと良かったのだが・・・・
『さて、挨拶はここまでにして、本題に入りましょうか。』
そういった彼女の顔が真剣な表情になる。
それに合わせて、俺も気を引き締めた。
『エルから事情は聞いています。ですが改めてあなたの口から、経緯を知りたいので話していただけますか?』
「わかりました・・・・・実は・・・」
彼女からそう言われ、俺はゆっくりと語りだした。
俺が異世界人だということ、エルと出逢った時の事を・・・・・・
『異世界・・・日本に、地球ですか。確かに、私が知らないことばかりですね。』
「そうですか・・・・」
全てを話し終えた俺に、彼女は考え込みながらそう答えた。
幾ら精霊王と云えど、異世界についてはわかることは少ないと彼女は言った。
つまり、俺が帰れる確立は極めて低いということだ。
『私の属性は風です。風はあらゆる情報を運んでくれるので、情報量で云えば精霊の中でトップに値します。ですが今の私が知る限りでは、あなたがいた世界については何も解らないのです。』
そう言われ、俺は何も言えなかった。
俺がここに来た経緯もわからないまま、いったいこの先どうしろというのだろう。
(どうしたら・・・・・)
俺はゆっくりと空を見上げる。
夕方に近いのか、空は少し赤色に染まり始めていた。
『カイ・・・・あなたは、これからどうするつもりですか?』
ウィンリルラにそう言われ、俺は返事を返そうとしたが、何も言えず無言になる。
今の俺は一文無しなうえに、この世界についての知識も、一部分しかわかっていない。
「・・・どうするか・・・・・・」
苦笑ぎみに俺は呟いた。
『カイ・・・・もし、あなたがこの先の事が分からないのであれば、一つ提案があります。』
ウィンリルラの声で、俺は彼女の顔を見る。
彼女は真剣な表情のまま、口をひらく。
『今のあなたは、このゼクスリアについて何もわかってはいません。ですからまずはゼクスリアを旅してはどうでしょうか?』
「旅か・・・・」
確かに、俺はゼクスリアについて何もわかっていない。
なら、この世界を旅してみるのもいいのかもしれない。
『それに、先程私はあなたの世界について、何も知らないと言いましたが、それはあくまで私だけの情報での結果です。』
そう言うと、彼女は一端喋るのをやめて、俺を見る。
何かを察してほしいのか、その後彼女は一言もしゃべらない。
「・・・・・・」
俺はゆっくりと彼女の言葉の意味を考えた。
彼女は言った。私だけと・・・・
つまりほかの、彼女の他の精霊王なら・・・・
「そうか・・・・ほかの精霊王に聞けば・・・もしかしたら帰れる方法が分かるかもしれないってことか?」
『その通りです。少なくとも、その可能性はあると思います。私はこの世界のすべてを知るわけではありませんからね。』
というわけで、俺のこの世界での目的は概ね決まった。
この世界、ゼクスリアの世界を旅して、精霊王に会う事。
それが、俺の当面の目的となった。
「ウィンリルラ様・・・・1つお聞きしたい事があります。」
突如、今まで黙っていたエルがウィンリルラに話しかけていた。
『なんですかエル?あなたが質問するのは珍しいですね。』
「いえ・・・・・という事は、カイは、旅に出るということでしょうか?」
『そういうことになりますね。しかし、それが何か?』
そう言われ、何故かエルはシュンとした表情になった。
「だってそれは・・・・・・カイが、此処からいなくなるってことですよね?」
エルは翼を広げて、ゆっくりと飛び上がると、俺の傍に近づいてきた。
そして、俺の肩の上にゆっくりと座った。
「私・・・・まだこの森から出た事ないから・・・・外の世界から来たカイをもっと知りたいと思ってました。でもこのまま別れるなんて・・・・・」
「エル・・・・」
俺は肩にのったエルの頭を優しく撫でた。
「・・・///」
撫でられたエルは、顔を少し赤く染める。
「だから・・・・」
エルが何か言おうとするのを、ウィンリルラが手で制した。
『エル、あなたが言いたい事はわかりました。あなたは・・・・カイについて行きたいのですね?』
ウィンリルラの優しい問いかけに、エルはしっかりと頷く。
ウィンリルラは俺に視線を移す。
『カイ。すいませんがエルを頼みます。』
「はい。元よりそのつもりというか、そんな感じはしましたからね。」
(というか、そうじゃないと困るんだよな。)
内心俺はそう思った。
『とはいえ、もう日も暮れますから、今日は此処にいてください。此処から魔物も来ませんし、安全に過ごす事が出来ますから。』
「わかりました。」
俺がそう言うと、ウィンリルラはエルに
「私は少し用事がありますので、何かあれば呼んでください」
と言うとその場から去って行った。
「「・・・・・・・・」」
そしてその場に俺とエルが残された。
「えっと・・・・・・」
俺から何か切り出したいが、場の空気故か、思うように言葉が出ない。
「とりあえず・・・・・よろしくでいいのかな?」
苦労してやっと出た言葉がこれだった。
「・・・・・・うん」
対しエルも、ゆっくりと頷く。
(俺って肝心な時に、何もできないな・・・)
エルと共に旅に出ると言う事が、俺にはとても嬉しかったし、ありがたかった。
だから、最初に言うべきなのは、感謝をこめて礼を言うつもりだった。
なのに現実はこの有様だ・・・
「カイ・・・・聞いてもいい?」
エルが真剣な眼差しで俺を見る
「え?・・・・あぁ、全然構わないぜ。」
何を聞かれるのか、俺の内心は緊張した。
「私が・・・・カイの旅についてってもいいの?」
「へ?」
俺の顔が唖然とした。
「私が・・・・カイについて行くの、迷惑じゃないの?」
「おいおい・・・・・」
エルが真剣な顔になるから、どんな事聞かれるかひやひやしてたのに・・・・
「お前な・・・・・・別に構わないさ。むしろエルが一緒なら、こっちの方がお礼を言うべきだしな。」
そう言うと俺は、ゆっくりとエルに近づき、彼女の頭を撫でる。
「お礼?」
「あぁ、俺、エルと出逢えなかったら、多分此処にはいなかっただろうし、もしかしたら死んでたかもしれないしさ。だから・・・・」
俺はゆっくりと頭を下げて・・・・
「ありがとうエル。俺と一緒に、このゼクスリアを旅してくれること、本当にありがとう。」
「・・・・・・・・・私からもよろしくね・・・・・カイ。」
返ってきたのは、エルの優しい返事だった。
そうして俺達は、旅への第一歩を踏み出し始めたのだった。
その光景を、ウィンリルラは静かに見守っていた。
『カイにとっても・・・・エルにとっても・・・・・途方もない旅路になるでしょうね・・・・・・。まぁ、私にできる事は、これぐらいしか出来ないですからね』
そう言うと、ウィンリルラはその場から姿を消した。
彼らの旅路を補佐する、ある物を創るために・・・・