プロロ-グ
「はぁ・・・・」
森の山奥で一人の青年が辺りを見渡しながら深くため息をついた。
上を見上げれば、空は青く、日が照らされて枝から日の光が降り注いでいる。
青年の周りは木々が生い茂り、奥からは鳥の鳴き声が聞こえてくる。
もしこの青年がハイキングで来てたのなら、条件は最高の事だろう。
しかし、残念ながら青年はハイキング目的で此処に来たわけではなかった。
いやむしろもっと別の事情があった。
それは・・・・・
「ここはどこなんだ?」
彼は絶賛迷子になっていた事だった。
俺の名前は中川 皆
ごく普通の高校生活を送る高校生だ。
身長は170ちょっとで、体重は52キロの痩せ形の体。
肩まで伸びる黒髪を後ろで一纏めにしたポニーテール。
眼は黒色で、前髪を少し垂らすようにしている。
年齢は17で、勉強も運動もそこそこ出来るぐらいのレベル。
学校の成績は中の上ぐらいで、容姿もそこそこだと自分では思っている。
だが今はそれどころじゃないんだ
何がそれどころじゃないかって?
理由は単純だよ
「ここはどこなんだ?」
そう、なんで俺が森の中にいるのか?
それが今俺が抱える問題だ。
まずは、状況整理をしよう。
「さっきまで俺は家で寝ていて・・・・」
そう、俺は昨日の夜、長かったバイトを終えて帰宅した。
それから、明日の学校の用意を整えた後、風呂に入ってそのまま就寝した。
そして眼が覚めたら・・・・・
「何故か森の中にいたと。」
・・・・・・・・
(意味わかんねえええええええええええええええええええええええええ・・・・)
そもそも、寝てからの俺に何かあったのか。
それしか原因が考えられない。
「とりあえず落ち着こう。俺はクールだ。Be Coolだ・・・・」
むちゃくちゃ古いネタを使いながら、俺は気を落ち着かせる。
え?そんなネタ知らないって?
知らないんならいいんだよ気にしなくても。
俺が単に気に入ってるだけだし。
なら、これは夢か妄想?
俺だって最初はそう思って頬を抓ったら
「痛い。」
うん痛かった。
じゃあこれは夢ではない。
じゃあ、妄想かなと思って地面に頭を打ち付けたりしたけど、これも痛かった。
結局結論から言うと
「これは現実なんだな。」
だった。
そこから俺は今の状況を確認する。
何事もまず落ち着かなければならない。
昔、祖母から教わった事なのだが、こんな形で役立つとは思ってもみなかったよ。
まず自分の身なりを確かめた。
今の俺の服装は、黒のダウンジャケットに青のジーパンを着ていた。
「あれ?」
だがおかしいと俺は思った。
寝る前の服装は確か蒼のシャツに黒のジャージだった筈。
一体いつの間に着替えたのだろうか?
とはいえ、とにかく今は状況把握が先だ。
次は服に何か入ってないか確かめた。
だが服のポケットには何も入っていなかった。
せめて何か何故ここにいるのかわかるものでも入ってればと思ったが、どうやらアテが外れたらしい。
そして最後は、周囲の状況把握をする。
周りは木が立ち並び、森の様になっている。
上からは日が差し込んでくるあたり、今は昼ごろだろうか。
今度は周りを少し歩いてみる。
何故か歩くだけなのに、体に妙に力が入っている。
「ははッ、ぎこちねぇな。」
今の自分の姿を見て、つい言葉が出てしまう。
なんせ今まで見たことない景色の所為だろうか、何故か常に周囲には警戒をはらっていた。
もちろん意識してやっているわけではないが、森の中と言えば野生の動物が出てきてもおかしくはない。
一応幼い時から、少し武道をしていたが、所詮付け焼刃程度しか扱えない。
鹿や兎ならまだしも、もし狼や熊なんて遭遇したら、忽ちやられてジ・エンドである。
(これは俺の生存本能と言うべきものなんだろうか)
そう思っていた時だった。
前方の茂みが一際激しく揺れた。
「ッ・・・・」
俺は慌てて、反射的に後ろに飛び下がる。
同時に息をひそめ、様子を窺う。
野生の動物なら、急に襲われても文句も言えずそのまま死ぬだけ。
まずは何がいるのかを確かめなければならない。
静かに前の茂みにいる何かが来るのを待つ。
ガサガサッ
茂み激しく揺れる。
(来る!)
俺は腰を低くして身構える。
腰を低くし、重心を前かがみでもなく後ろかがみでもない直立状態を保つ。
いつでも対応できる状態。
そして
茂みからそれは姿を現した。
出てきたのは・・・・
「あなた・・・・・誰?」
すごく小さい女の子だった。
「へ?」
思わず俺の口から拍子抜けた声が出た。
(俺はやっぱり夢を見てるんだよな・・・・うん、そうだ!きっとそうに違いない!)
俺は率直にそう思った。
女の子はまあいい。
問題は身長だ。
今目の前にいる少女は大きさでいえば、170cmちょっとの俺の膝ぐらいまでしかない。
正確には言えないがおそらく30センチ前後だろうか。
それぐらいの身長の女の子が出てきたのだから、俺が驚くのも無理もないのだ。
さらに、その子の容姿もおかしい。
肩まで伸びた緑色の髪に透き通ったような黄金色の瞳はどこか神秘的に見える。
スラリと整った容姿に着ている蒼のワンピースも彼女の存在を一際引き立てている。
「・・・(ポカーン)」
俺は思わずその少女の姿に見惚れてしまった。
「・・・・どうしたの?」
少女が自分に話しかけてきたことで俺はハッと正気に戻る。
少女の姿には驚いたが、何しろ出てきたのが人間なら、情報が得られる。
「い・・・いや、何でもないよ・・・それより聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「うん・・・構わない」
俺の問いに少女は肯定で返してくれたので俺はほっとした。
というより・・・・
・・・・・もし断られたら洒落にならんし!
と心の中で俺は叫んでいた。
「じゃあ、とりあえず此処ってどこなの?」
まずは、今自分がいる場所を聞いてみた。
行動しようにも、何もわからない場所で何をしたらいいのか。
まずはそこから知るべきだ。
だが彼女の答えは俺の予想を遥かに上回るものだった。
「ここはイ―リス大陸の東にある精霊の森、その入り口。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「いや、ちょっとまてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
俺の頭は完全にパニクって悲鳴を上げた。
少女は俺の声で驚いたのか、ビクッと体を震わした。
(イ―リス大陸?!精霊の森?!訳がわかんねえぞ!)
聞いたこともない土地の名前や、架空の生物とされる名前を聞き、訳が分からなくなる。
頭の温度が急激に上がり、思考ができない。
何とか落ち着こうとしたが、頭に血が上っているためか出来そうになかった。
と
「とりあえず・・・・落ち着いて」
少女の優しい声が俺の耳に入ってきた。
同時に感じたのは、風が自分にやさしく当たる感触。
徐々に俺は落ち着きを取り戻していく。
「落ち着いた?」
「あぁ・・・・ありが・・」
ようやく落ち着けた俺は彼女にお礼を言おうとして・・・・・・
完全に思考が停止した・・・・
「?」
少女は首をかしげながら俺を見ている。
対して俺は完全に硬直していた。
そして・・・・
「きゅう・・・・」
そのまま意識を手放した。
俺が何を見たかって?
それは、少女が・・・・・
背中から白い翼を出して飛んでいた姿を見たからだ・・・・・
「・・・・・・・あれ?」
気がつけば俺は気を失っていたらしい。
てことは元の世界に戻ったのかな?
「てな訳ないか・・・」
だが見渡せば、辺りは森で囲まれている。
どうやら単に気を失っただけの様だ。
「そうだ、あの子は・・・」
気を失う直前にみた少女を思い出し辺りを探すが見当たらない。
もしかしたら、そのまま去ってしまったのだろうか?
と
「気がついた・・・」
自分の上から声が聞こえ、俺は上を見上げた。
木々の枝に座るように彼女はいた。
「ずっと・・・・そこにいたのか?」
気がつけば、俺は彼女に問いかけていた。
何故こんな質問のしたかは自分でも判らなかった。
「うん・・・いた」
彼女の答えはあっさりとしたものだった。
「あなたが気を失って、気になったから此処から見ていた。」
「気になった?どういう意味だ?」
彼女の言葉に俺はまたも質問した。
唯の平凡な自分に気になるものでもあったのだろうかとさえ思ってしまった。
そこまで考えて、俺はある事に気付いた。
さっき俺は、彼女の姿を見て気を失った。
なのに今はどうだ。
翼を出している彼女を見ても、何とも感じなくなってしまっている。
「人間の適応力ってすごいんだな。」
これが適応力と言うのなら、すごい物だし、そうじゃないなら俺が単におかしいだけである。
「どうかした?」
「いや、なんでもないよ。とにかくいろいろ教えてほしい。君の事、この世界の事を・・・・」
それが、俺の彼女の出会いであり、俺がこの世界での第一歩だった。