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出会いの章 第三部 再会の罠

ようやくこの物語もここまできましたが、シリーズの基盤となる小説『ノスタルジア』が完結するまでは更新はゆっくりと行うつもりです。作者としては『ノスタルジア』を読んでいただいてからこの物語を読んで欲しいとゆう考えなので、なにとぞ読者の皆様のご理解をお願い致します。

「…イチ、イチってば!もうお昼よ?そろそろ起きてよ」

リリアは寝ているイチをそう言って揺する。

「ん〜…あ、おはようリリア」

すると、イチは眠そうに目を擦りながらリリアにそう挨拶した。

「あ、おはよう…じゃないわよ〜!今何時だと思ってるの?」

「えへへ…ごめんごめん、最近あまりよく寝れてないからついつい…」

呆れるリリアにイチは照れくさそうに弁明するのであった。


悪夢から一夜明けた今日、辺りにまだ僅かに死臭が漂っているのを除けばいつもと何ら変わりない快晴の空の下の日常がそこにあった。

今思えばイチが旅に出てからまだ一ヶ月も経っていないにも関わらず、彼女には色々なことがあった。バイーアの村で知り合った見習い魔法使いエンドラーズと共に魔物グルスを倒し、次にマキシの町で兵隊に追われていたリリアを偶然助けた。そして今回、リリアの仲間が皆殺しになっている現場に遭遇…謎の女・アゲハとも出会った。

…おかげで、イチは何かと考える時間が増えた。これからの旅の予定、グルスや魔物のこと、精霊のこと、リリアのこと、虐殺の犯人、そして…アゲハのこと…考えれば考えるほどわからないことだらけだ。無論、イチはあまり賢い人間ではないから考え事は苦手だ。しかし、そんな彼女でさえも考えなくてはならないほどにあらゆる事柄が複雑に絡み合っているのも事実である。つまりだ、考える時間が増えただけ寝る時間が減ったのだから彼女が今日のように朝寝坊するのも当たり前と言えば当たり前なのかも知れない。


…とりあえず、イチがようやく起床したところで二人は昨日作った墓の所に行くことにした。

「…あれ?花がたむけてある…イチがお供えしてくれたの?」

墓前についてみると、黄色と青色の花がたむけてあったのでリリアがイチにそう尋ねた。

「う、うん。そうだよ。昨日の夜リリアが寝ている間にちょっとね…」

この時、イチはあえて黄色い花をたむけてくれたアゲハについては語らなかった。…なんだか黙っていた方がいいような気がしたからだ。

「…ありがとうね」

リリアはそう少しだけ笑顔で言う。

「…これからリリアはどうするつもりなの?」

「そうね…今はとりあえずバイーアに行こうと思うの。ちょっと会って話をしなくちゃいけない人がいるから」

「ふーん…」

「イチは?もうこれからどうするのか決めたのかしら?」

そうリリアに尋ねられたイチはしばらく考えているようだったが、何かを決めたようにこう言い出した。

「ぼくもリリアと一緒にバイーアに行くよ。…どうせ他にやることもないしね!」

「さすがイチ!そう言ってくれると思ってた!」

リリアはそう嬉しげにイチの手を握った。

「あはは…でも…バイーアまでは結構な距離があるよ?大丈夫かなぁ?」

「あぁ、それなら心配ないと思うよ」

リリアはそう言って何かを指差した。…その先には昨夜の惨劇を逃れた一台の迷彩柄のバギーがあった。

「もしかして…あれに乗ってくの?」

「そうよイチ。たぶん夜にはバイーアに到着できるはずだから。…大丈夫よ、私がちゃんと運転するから!それとも?何かご不満でも?」

「いや…ちゃんと自賠責入ってるのかなって」

「…イチって意外とリアルなんだね」

イチの言葉を聞いたリリアが苦笑いしたのは言うまでもない。



  《マキシの宿屋》


「ロゼリアーヌ様!起きてくださいよロゼリアーヌ様ってば!」

「ん〜…あと10分だけ寝かせてくれよサジ」

ベッドの上を飛び回って起床の催促をするサジに、ロゼリアーヌはかけ布団の中からそう言う。

「も〜、ダメですよロゼリアーヌ様!あと30分でヴォルガノン様の迎えが来ちゃうんですから!」

「あー…わかったわかったよ、起きればいいんでしょ起きれば…」

そう言ってロゼリアーヌはしぶしぶベッドから起き上がった。彼女は寝起きが悪いようで、目は虚ろな上に自慢のロングヘアーもボサボサで見る影もない。

「あらら…だいぶお疲れのようですねロゼリアーヌ様。ご朝食…と言ってももうお昼ですが、準備は出来ていますのでとりあえずシャワーを浴びて来てはいかがでしょうか?」

「そうするよサジ。

…さすがに人を20人以上殺すと体にこたえる」

ロゼリアーヌはそう愚痴をこぼしながら静かにバスルームへと消えて行った。


…思えば2日前、ロゼリアーヌはコロッサルの命令でこのマキシの町に来た。そしてその日の夜中、近くにキャンプを構えていたナタリア帝国に反抗する勢力のメンバー24人を皆殺しにしたのである。無論、彼女からすれば殺人と言うよりはむしろ一方的に蹴散らしたと言ったところだが。とりあえず次の日の昼間は町をぶらついたりして過ごしたのだが…何を思ったのかその日の夜、つまり昨晩にもう一度キャンプのあった場所に向かったのだ。そして、そこでイチとゆう名の少女と出会ったのである。ロゼリアーヌは彼女に不思議な力を感じていた。彼女には真名を明かさずに、コードネームに相当する名のアゲハと名乗っておいたが、いずれまた会いたいとも考えているほどである。

「イチ…か。不思議なオーラの持ち主だったな」

ロゼリアーヌは熱いシャワーを浴びながらそう呟いた。しかし、どんなに洗っても彼女から血の臭いが消えることはない。

「血の臭い…別段嫌いなわけじゃないんだが…なんだか虚しくなる」

ロゼリアーヌはシャワーを浴び終えると、バスローブ姿のままにサジの用意した朝食を済ませ、よそ行き用の濃い青色をしたドレスに着替えた。

「わぁー、とってもよくお似合いですよロゼリアーヌ様!」

「そ、そうかな?…ちょっと派手じゃないか?」

鏡の前で、サジに褒められたロゼリアーヌは少し照れくさそう。

…その後、身支度を整えたロゼリアーヌとサジが宿屋から出てみると一台の高級車とスーツを着た運転手が宿屋の前の通りで二人を待っていた。

「お待ちしておりましたロゼリアーヌ様」

運転手はそう言って車の後部ドアを開けた。

「ささ、行きましょうロゼリアーヌ様」

「…あぁ、そうだね」

二人はそう言って車に乗り込んだ。そして、二人を乗せた車はマートレーの砦を目指して走って行くのでした…。



  《バイーアの村》


「あーぁ…すっかり日が暮れちゃったよ。バイーアの村はまだかなぁ?」

「うぅ…まさかガス欠になるとは…最悪だ」

すっかり暗くなった森の小道を歩きながらイチとリリアは揃ってため息をつくのであった。

実は一時間ほど前、二人を乗せていた車がガス欠で動かなくなってしまっていた。仕方なく、車を捨ててここまで歩いて来たのだが…なかなか村は見えて来ない。

「そう言えば…エンドラーズは元気にしてるのかな?」

「…誰よそれ?」

「友達の魔法使い…と言っても、ついこないだ知り合ったばかりなんだけどね」

「ふーん、やっぱり旅人って知り合いが多いものなのかしらね?

…あっ、見てよイチ!」

リリアがそう言って前方を指差した。その先にはかすかだが灯かりが転々と輝いていた。

「…バイーアの村だ!ちゃんと着いたみたいでよかったねリリア!」

イチはそう嬉しそうにリリアに言った。

…10分ほど歩いて行くと二人はバイーアの村の入口にたどり着いた。夜間とゆうこともあり、辺りは静寂に包まれていた。

「さて、どうしようかしら…ファロウエラ先生がこの村に住んでいるのは確かなんだけど」

リリアが腕組みをして考えていると、

「リリアはその人に会いたいの?…だったら良い方法があるよ!」

そうイチが言い出した。

「良い方法…?」

「まぁ、とにかくぼくに着いて来てよ」

不思議がるリリアを後目に、イチは速歩きで村の奥へと進んで行った。…やがて、二人は少々年期の入った家の前でピタリと止まった。

「ここは…?」

「エンドラーズの家だよリリア。…ちょっとボロボロだけれどね」

「可愛い顔してずいぶん言うわねイチ。ところでその人物は信用できるやつなの?」

「…半分くらいかな?」

「半分くらいって…ホント大丈夫なの?」

二人が家の前でそんな会話をしていると…

「…おいおい、人ん家の前でずいぶん言ってくれるじゃないか」

家の中から主の銀髪の少年が不機嫌そうに玄関から出てきた。

「あ、エンドラーズ!」

「なんだよイチ、せっかく戻って来たのかと思えば随分なご挨拶だな」

「えへへ…ごめんごめん、少し言い過ぎたよ」

イチは笑って手を頭にあてながらそう言った。

「…で、そちらのお嬢様はどちら様で?」

エンドラーズはリリアを見ながらそう聞く。

「私はリリアよ、はじめましてエンドラーズ」

「あ、あぁ…はじめましてリリア」

エンドラーズは少し照れながらリリアに挨拶を返した。

「…ゴホン…えーと、それで?こんな夜分に俺に何の用だ?」

エンドラーズは改まってイチとリリアの二人にそう聞く。

「私、ファロウエラって人を探しているの」

リリアが言った。

「ファロウエラ?」

「エンドラーズなら何か知ってると思って訪ねたんだけど…知らない?」

イチがそう言うと、

「ファロウエラ…ちょっと待てよ?確かどっかで聞いたような…?」

エンドラーズはしばらく腕組みして考えていたのだが…急に手を叩いてこう言い出した。

「思い出した!ファロウエラってこの村の魔法学校を創った創始者で初代校長だよ!」

「それで!?ファロウエラ先生は今何処にいるの?」

リリアがそうエンドラーズに聞くと、リリアの予想とは異なる回答が返ってきた。

「数年前まではこのバイーアの村に住んでいたみたいだがな、サルパって港町に海の見える最高の物件があるとか何とかで引っ越しちまったよ」

「えっ!?それじゃあもうココにはいないの?」

「残念だが真にその通りだよイチ」

エンドラーズはそう静かにうなずく。

「そ、そんなぁ…せっかく先生に助言してもらおうと思ってたのに」

リリアはそう言ってがっくりと肩を落とした。

「それはそうと…お前らこれからどうするつもりなんだ?」

エンドラーズが聞いた。

「どうするって…特には決めてないけど?」

リリアがそう答えると…

「それならよかった。

…どうせ予定を立てたところで無意味だからな」

エンドラーズがそう言った瞬間、突然エンドラーズの家の中や裏から大勢のナタリア帝国軍の兵隊達が飛び出して来た!!

「!!?」

イチとリリアが驚く間もなく、三人はあっという間に機関銃を構えた兵隊達に囲まれホールドアップされてしまった!

「…すまない。お前らが来る少し前にコイツらに捕まっちまったんだよ」

エンドラーズがすまなそうに言った。

「あはは…つまりぼく達がココに来ることは予測済みでエンドラーズを餌に釣られたわけだ」

イチは苦笑いしながらそう無邪気に言った。

「笑ってる場合じゃないってイチ!…もう…最悪のパターンね」

リリアはそう大きなため息をつくしかなかった。



…こうして、帝国軍に捕えられた三人は軍のトラックに乗せられ、バイーアの村から最も近くにある砦、マートレーの砦へと連行されることになったのである…。




 《マートレーの砦》


月が高く昇るその頃…マートレーの砦の一室ではヴォルガノンと彼に招かれたロゼリアーヌが何やら話をしていた。


「…それで?バイーアの村長殺しの犯人は捕まったのかい?」

「あぁ…さっきバイーアで捕えられたと部下から連絡があったばかりだブラッディコアよ。…明日の昼にはこのマートレーの砦に収容予定だ」

「そいつはよかった。何せバイーアから取り寄せていたお前の密輸品の中にはわたしの大好きな紅茶もあったからな。…それを台無しにした代償は大きい」

「ふはは…お前らしい考え方だな。…それよりどうなんだ?首都での計画の進み具合は?」

「順調そのものだよ。もはや議会は愚か国王までもがコロッサルの言いなりだからな…奴が政権を握るのも時間の問題さ」

「ククク…コロッサル様が政権を握れば我々魔物がこの世界の支配者になるのも時間の問題…人間とは愚かなものだ」

「…そうかもね」

ロゼリアーヌはただそうとだけ答えた。



…ヴォルガノンとの対談を終えたロゼリアーヌは、今晩泊まる砦の一室へと戻ることにした。

「魔物の支配する世界…か…。人工生命体(アーティファクトクリーチャー)のわたしとしては素直には喜べんがな…」

…彼女は戻り際にそんなことを呟くのだった。


やがて彼女が部屋に戻ってみると…よほど疲れていたのだろう、サジが大きなベッドの上でその小さな体を横たえてスヤスヤと眠っていた。

「…やれやれ、なんとも世話のかかる妖精だな」

そう言いつつも、ロゼリアーヌはポケットから取り出した白いハンカチを優しくサジの小さな体に掛けてあげた。…そしてサジの頭を優しく撫でながら、彼女はちょっと嬉しそうにこう言うのであった。

「…サジ、いつもお疲れさま。お前の前では恥ずかしくて素直には言えないけれども…お前が一緒に居てくれてわたしはとても嬉しいよ。いつもありがとうなサジ…これからもずっと一緒に居ようなわたし達…!」


…もしかしたら、その言葉の奥底には彼女(ロゼリアーヌ・ブラッディコア)にしかわからない何かの意味が込められていたのかも知れない…

作中では主に主人公イチとロゼリアーヌの二人からの視点を中心に書かせていただいてます。性格も種族も置かれた状況も異なる二人の視点からは世界がどのように映っているのか…そこに重点を置いて読んでいただければこの物語をより一層楽しめると思います。

…さて、次回はこの物語初の番外編を書かせていただこうと思っております。内容はちょっと不思議な世界とイチとの関わりの物語です。

それでは、次回以降の物語も楽しみにしていてくださいね。

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