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旅立ちの章 第三部 泉の精霊

人生とは人それぞれで違うものです。

同時に、人生とは自分自身で決めるものだと思います。

世の中には運命とゆう言葉もありますが、運命とは自ら切り開くものであり必ずしも最初から決まっているものではないと思います。


この作品を通してそんなことを考えてもらえると、作者として幸いでございます。

「えーと…今はここにいるから…うーん…次は何処に行くべきかな?…ダメだ、まったく決まらないよ。ぼくって予定立てるのとか苦手だからなぁ」

昼下がり、イチはエンドラーズの家で世界地図とにらめっこしながら何やら独り言を呟いていた。


イチとエンドラーズがグルスを退治してから2日が過ぎていた。二人は知らせを受けた村人から大いに感謝され、一躍村のヒーローになっていた。村人からはイチにこの村の新しい村長になって欲しいとゆうお願いもあったのだが、もちろんイチはそれを断った。彼女の目的は旅を続けることだったし、何よりめんどくさそうなことはしない性分だからだ。


「それにしても…ぼくに語りかけてきたあの声は何だったのかな?とっても綺麗な声だったけれど…いくら地図で調べてみても泉なんか無いよねぇ…」

イチは世界地図とは別に、バイーア周辺の地図も広げていた。先日、グルスとの戦闘前に頭の中に聞こえてきた声の主に会うためだ。声の主は泉の精霊と名乗っていた…が、いくら彼女が地図を見返しても泉など何処にもなかった。

「うーん…やっぱり泉なんて無いよなぁ…。あれは聞き間違い?…それとも夢??」

イチが頭を抱えてそんなことを考えていると…

「…なんだよイチ?地図とにらめっこなんかしちゃってよ」

エンドラーズが外出先から戻ってきた。

「あ、エンドラーズ!学校の方はどうなの?」

「どーもこーも…クラスのみんなに色々聞かれて大変だったさ!ついでに先生にはなんて無茶するんだって怒られたしな。そうそう、今回の騒ぎの真相がわかるまで魔法学校は当分休校だとよ」

エンドラーズがイチにそう今までの経緯を説明した。

「えっ、学校閉鎖!?それじゃあ、エンドラーズはこれからどうするの?」

イチがエンドラーズにそう尋ねた。

「さぁな。まだ決めていないよ」

エンドラーズがそう答えた。

「そうだ、ねぇねぇエンドラーズ、この辺りに泉なんて無いよね?」

イチはエンドラーズに泉のことについて聞いてみた。

「泉?…さあ、そんなものの存在は聞いたことがないが?」

「そう…やっぱり気のせいだったのかなぁ…」

イチはがっくり肩を落とした。

…すると突然エンドラーズが何かを思い出したかのように、

「…そうだ!ちょっと待ってな」

家の奥にある本棚の前に行くと、何やら探し始めたのだ。

「えーと…あれでもないこれでもない…あった!確かこの本のはずだ」

エンドラーズは本棚から一冊の古びた本を探し出すと、それをイチの座るテーブルの上に開いた。

「何、その本?」

「こいつはなぁ、大昔に書かれた世界地図だよ…えーと…あった、このページだ!」

エンドラーズは本のとあるページを開いた。ページの一番上には「バイーア地方」と書き記されていた。ページの紙はかなり色あせていたが、バイーア周辺の地図がはっきりと書かれていた。

「えーとだな、小さい時に読んだ記憶だと確か村の北側に泉が…あった、ここだ」

エンドラーズはそう言って地図上の村の北側の一点を指で示した。そこには確かにはっきりと泉の印が記されていた。

「ホントに泉だ!あれ?でもなんでさっきの地図には記載されてなかったんだろう?」

イチが首を捻った。

「そんなの俺にはわからないよ。泉が干からびちまったのかも知れないが…詳しくは行ってみないとなんとも…」

「ふぅーん…まぁいいや、泉があるらしいってことはわかったし。じゃ、ぼくはこれから行ってくるから!」

「は!?行くって…泉にか?」

「そうだよ?」

「はぁ…ホントに行動派なやつだなぁ。いいよ、どうせ暇なんだし俺も一緒に行ってやるよ」

エンドラーズがそうイチに言った。

「ホントに?それじゃあ、一緒に行こっかエンドラーズ!」

イチが嬉しそうに笑いながら言った。


こうしてイチとエンドラーズの二人は、村の北にあるとゆう泉を探しに行くことになったのであった。




 《帝都・インベリス》



イチ達のいるバイーアから遥か東の地…そこにはこの世界を支配するナタリア帝国の首都、インベリスが存在していた。(インベリス)は多くの建物が立ち並び、人々が行き交う豊かな大都会である。そして、街の中心部にはこの世界の中心とも言われる帝国の中枢を担う政治・軍事関係の複合施設が密集していた。

…その施設内のとある建物の会議室で、軍の上層部による会議が開かれていた…。


「…どうだ?西側諸国の制圧の進行具合は?」

「はい、順調でございますコロッサル将軍。もはや西側で注意すべき敵はアラカイトだけとなりました」

「…そうか」

「それと、最近活発になっているテロリストの問題なんですが…」

「あぁ…その問題なら心配いらん。…既にこちらから手は打ってある」

「…と、言いますと?」

「最強の刺客を送り込む予定だ…間もなく奴らのアジトは血の海になるだろう…クク…フハハ!」


会議室に、コロッサル将軍の不気味な笑い声が響き渡った…。




   《泉の精霊》



バイーアの村からそう遠くない昼下がりの北の森の中…二人の少年少女が細い小道を歩いていた。


「まさかこんな森の中に道があるとは…」

「あれ?地元のエンドラーズでも知らなかったの?」

「知らないよ。こっち側は何もないんだから誰も行かないしな。そう言えば…まだお前の旅の目的を聞いてなかったよな?」

エンドラーズがイチに旅の目的を聞いてみた。

「目的って言われてもなぁ…そんなのただ旅に出たくなったから出ただけだし…」

「はぁ?!目的もなしに旅に出るなんて…よくもまぁ親御さんが許してくれたもんだなぁ」

「心配いらないよ。ぼくには両親がいないから」

…イチのその言葉に二人の会話は一瞬途切れた。


「…ごめんイチ。そうとは知らずに…」

「別に謝る必要はないよエンドラーズ。ぼくはエンドラーズと違って両親の顔を知らないんだから。ぼくにとっては両親がいないのは最初から当たり前のことで、なんの感情すらないんだよ」

エンドラーズの謝罪にイチは淡々とそう応えた。

「…」

エンドラーズは次に何とイチに話せばよいのかわからず、ただ呆然とするしかなかった…。


エンドラーズは時々、イチの異常なまでの蛋白さに恐怖すら覚えた。

その蛋白さがイチの純粋な心由来なのか、それとも隠された冷酷さの表れなのかはわからなかったが…少なくとも普通の人間の器では到底計れないのは彼にもわかった。


…その時、イチが何かに反応した。

「…くんくん…これは…水の匂い?」

「おいおい…この辺りには川なんてないぜ?」

「でも確かにするんだ…しかも近いよ」


まさにイチの言った通りだった。間もなく二人の前に青く澄んだ泉が姿を現したのだ。

泉はとても静かで、波一つ立っていなかった…まるでそれは巨大な鏡のように青い空と白い雲を映し出していた…。


「うわぁ…綺麗…!」

「すげぇ…こんなところに泉があるなんてな」

二人が少し感動気味に泉を眺めていると…

「…またお会いしましたね…」

先日イチに語りかけてきた声が、今度はエンドラーズにもハッキリ聞こえてきた。

「あなたは…!」

「はじめまして、私はこの泉に住む精霊です。先日はあの魔物をよく倒しましたね。とても素晴らしいことです」

「えへへ…」

姿なき精霊に褒められて、イチは照れ笑いした。

「素晴らしいことですって…見てたんだったら助けてくださいよ。…ついでに、客人に姿を見せないのは失礼じゃないッスか?」

エンドラーズが声の主にぶっきらぼうに言った。

「…申し訳ございません…確かにあなたの言う通りです。しかし…私にはもうあなた達を助ける力も、姿形を具現化する力すら残ってはいないのです」

精霊は悲しげな声でそのように答えた。

「どうして精霊さん?」

イチが心配そうに聞くと…泉の精霊は静かにこう語り始めました。

「…遥か昔、我々精霊達と人間は共に助け合って生きてきました。世界中で…あらゆる精霊と人々はお互いに尊重し合ってきたのです。精霊達は人々に豊かな生活を授けました。火の精霊は火を…大地の精霊は豊かな土地を…そして、私のような水属性の精霊は綺麗な水を…各々が能力を駆使して人々に協力したのです。しかし…生活が豊かになるにつれて人々は我々の存在を軽視するようになったのです。人類の発展は全て自分達のおかげだと…。やがて人々は森を切り開き、河川を汚染し…戦争で多くの仲間を殺すようになりました。精霊達は生活の場を奪われ次々に姿を消し…今や私も含めてわずかに生き残っているだけとなってしまいました…。その生き残り達も昔のような強大な力はもうありませんし…おそらくもう人間とも会いたくはないでしょう…人間に裏切られたのですから」

…泉の精霊の話を聞いて、イチとエンドラーズの二人はしばらく黙ってしまいました…。


「我々精霊があなた方人間を恨んでいるのは紛れもない事実です。ですが、同時に我々精霊は全ての人間が悪いわけではないとゆうこともわかっています。…そうでなければ、私があなた方お二人に会っている説明がつきませんからね…」

泉の精霊はそう付け足して言った。

「そっか…人間って精霊さん達に酷いことしてきたんだね」

イチが呟いた。

「…話が変わってすまないんだが…精霊さん、ちょっと聞きたいことがあるんですが?」

エンドラーズがそう精霊に言った。

「なんでしょうか…?」

「魔物のことなんだが…魔物(グルス)が帝国軍と攣るんでいたのはどうゆうことなんだ?」

…泉の精霊はしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。

「…私達精霊にも詳しくはわからないのですが…この世界の住民ではない『誰か』が魔物を操っているようなのです」

「…誰かって??」

イチが尋ねた。

「…それはわかりません…ただ…何か嫌な感じがしてならないのです…それはきっとどの精霊も感じているでしょう…」

泉の精霊はそう答えた。

「…さあ、もう日が暮れます…夜の森は危険ですから…もうお帰りなさい…私はいつでも(ここ)にいます…困ったことがあったらいつでも来てくださいね…!」

泉の精霊がそう言うと、泉の周りを風が通り抜けた。…同時に、泉の精霊の気配はどこかに消えたのであった…。


「…帰ろっかエンドラーズ?」

「あぁ…そうだな」


…二人は夕暮れの中、複雑な心境のまま村への帰路につくのでした…。




 《マートレーの砦》



バイーアの東方には、ナタリア帝国最西方を監視するマートレーの砦が存在している。さほど大きな要塞ではないが、それでも三隻の小型飛行艇と百人以上の兵士を有していた。そして、ヴォルガノンとゆう男がマートレーの最高指揮官であった…。


「…それは真か?」

「はい、ヴォルガノン様…先日、グルス様がバイーアにて何者かによって殺害されたと…」

砦の一室で、ヴォルガノンが部下と何やら会話をしていた…。

「ぐっ…まさかあのグルスが殺られるとは…犯人は特定できたのか?」

「いえ、それが…どうやら村の住民でないのは確かなようですが…」

「よいか、一刻も早く犯人を見つけだし…そして始末するのだ。…このことが公になるとマズイからな」

「承知しております。それからもう一つ報告がありますヴォルガノン様」

「なんだ?」

「アラカイトの件なんですが…どうやらこの近辺にアラカイトのスパイらしき人物が潜伏しているとゆう報告を受けております」

「…アラカイトめ…このナタリア帝国に歯向かうとはな。わかった、スパイの捜索チームを編成しろ。何も捕えられておく必要もあるまい…秘密を吐かせたらその場で殺せ」

「…承知しました」


まさかこの時、軍に指名手配されていることなどイチは知るはずもなかった…。




  《…別れ…》



イチがバイーアの村に来てから4日目の朝…旅支度を整えたイチとエンドラーズの二人は村の東側の出入口に来ていた…。


「…本当に行っちまうんだよなイチ」

エンドラーズがそうイチに言った。

「うん。今までありがとねエンドラーズ!」

イチは元気よくエンドラーズに礼を言った。

「何も村長になれとは言わないよ。お前がこの村に住んでくれればきっとみんな喜ぶぜ?もうこの村は安全だし…わざわざ理由もないのに危険な旅に出る必要はないよイチ。…それでもお前は旅に出ちまうのかよ?」

「もちろんだよ。自分自身で決めたことだからね、そう簡単にはやめられないし…何よりこれが長年のぼくの夢であり望みだからね」

エンドラーズの問いかけに、イチは無邪気な笑顔でそう答えた。

「…そうか…じゃあな、気をつけて行けよイチ。またいつでも村に来てくれよな。歓迎するよ」

「うん、じゃぁねエンドラーズ。ちゃんと立派な魔法使いになってね!」

イチはそう言うとゆっくりと歩き始め、朝日が差し込む森の小道の奥へと消えて行きました。

…彼女が振り向くことはありませんでした…。


「今思えば不思議なやつだったなぁ…。きっと俺が彼女(イチ)に教えてもらったことは数えきれないのだろう。だけれども…もう少し一緒に居たかった…そんな気がする…」

エンドラーズは彼女が去って行った方向を見つめながら、独り静かにそう呟いた。



…バイーアの村に、再びいつもと変わらない日常が訪れるのでした…。

今回は広く浅い視点で書いたので、様々なキャラクターの名前や国の名称などが出てきましたが…各々の詳細が書かれるのはもう少し先になりそうです。

この小説は同作者執筆の『ノスタルジア』とリンクしてますので、地名や世界観、キャラクターが重複することもありますので、ぜひ比べながら読んでみてくださいね。


それでは、また次回もよろしくお願い致します。

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