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旅立ちの章 第二部 魔物の正体

今回はいよいよ戦闘シーンが入ってきます。

まだまだ話の本筋はわからないと思いますが、段々と理解できるようになると思います。


…そして、今回はこの物語の中でも大変重要な人物が登場します。

名前はまだ伏せておりますが…皆様もそれが誰なのか予想してみてくださいね。

容姿と話言葉を見れば、きっと誰だかすぐにわかると思いますよ。



…それでは、最後までどうぞ楽しんでお読みください。

「ねぇ、魔法学校ではどんなことやってるのエンドラーズ?」

白金の髪をした少女が一緒にいた少年にそう聞いた。

「どんなことって…そりゃあ、魔法を勉強してるに決まってんだろ?もちろん、他の学問もちゃんとやるぜ?要は名前だけで基本はただの学校だよ」

銀髪の少年はイチにそう答えた。

「ふぅん、普通の学校と変わらないんだぁ。もっと面白そうだと思ったのに…ちょっとだけがっかりかも」

「あのさ…お前が思ってるほど学校なんて面白い場所じゃないぜ?先生には怒られるし宿題だってあるしな」

「アハハ、よくわからないけど…学校って大変なんだ。ま、ぼくには関係ないけどね!」

「あっ、こいつ他人事だと思いやがって!」

「はは、冗談だよ!それよりも…村の貢ぎ物を納める場所にはあとどれくらいでつくのエンドラーズ?」

「あとどれくらいって…まだ村を出てから10分位しか経ってないだろうがよ。まだまだ先は長いよ」

「ええー!まだまだ!?…はぁ、先が思いやられるよ」

「その言葉そのままお前に返すよイチ…」

エンドラーズはため息混じりにそう言った。


二人がバイーアの村を出てから間もなく10分が経とうとしていた。

辺りに人影はない。星の光が照らす薄暗い林道を、イチとエンドラーズは目的であるグルスへの貢ぎ物を置く場所へと向かっていた。


「グルスってどんな奴だと思うエンドラーズ?」

イチがそうエンドラーズに聞いた。

「さぁ…見たことないからわからないよ」

「えー、なんだか頼りないなぁ」

「…あのなぁ、姿がわからないから今こうやってグルスの正体を暴きに行ってるんだろうが!」

「あっ、そっか!」

「お前なぁー…それで?イチはどんな奴だと思うんだ?」

エンドラーズがイチにそう尋ねた。

「ぼく?ぼくはね……やっぱりぼくにも想像できないや!」

「あ、そう…」

今更ながら、エンドラーズはなんでイチなんかと一緒にいるのかと自分で自分を疑いたくなったのであった。

「どしたの?なんか元気ないよエンドラーズ?」

「別に…ハァ…」

エンドラーズはため息をついた。

…その時だった、辺りにまるで地響きのような凄まじい轟音が響き渡ってきた。その轟音にイチとエンドラーズは驚いた。

「なな、なんだ!?」

「見てよエンドラーズ!上だよ上っ!!」

イチが上空を指差した。

二人が上空を見上げると、そこには巨大な影が轟音をたてながら浮かんでいた。その影はまるで巨大な船か何かのようで、星空のように所々がチカチカと光輝いていた。

「こりゃあ、たまげた…帝国軍の戦闘飛行艇(バトルシップ)じゃねぇかよ…!」

エンドラーズは天を仰ぎながらそう言った。

「バトルシップ?」

イチが不思議そうにエンドラーズに聞いた。

「なんだイチ、知らないのか?…と言っても、俺も学校の教科書でしか見たことないんだが…。あの飛行艇は帝国空軍所有のものさ。偵察任務によく使われる小型のタイプだな」

「へぇ、そうなんだ!なんだかカッコイイね!」

「へへ、そうか?」

「違うよ。エンドラーズじゃなくて飛行艇がカッコイイって言ったんだよ」

「あ、そうですか…」

エンドラーズは正直ちょっとがっかりした。


「妙だな…?」

エンドラーズが、上空を過ぎ去っていく飛行艇の後ろ姿を眺めながら首を傾げた。

「何が?」

イチが聞いた。

「いくら小型艇とはいえ、こんな辺境の大地に果たしてわざわざ軍が来るのだろうか…?」

「そんなこと…なんか目的があるんでしょう?」

「それが問題なんだよ。こんな田舎になんの用事があるんだよ?」

「それは…確かに言われてみると」

「だろ?現在帝国が侵略中の西方諸国ならまだしも…既に支配下に置かれたこんな田舎に軍が来るのは…」

「エンドラーズ!船が…!!」

エンドラーズの話の途中でイチが突然前方を指差した。

エンドラーズがイチの指差さす方向を見ると、なんと飛行艇が高度を落として地面に近づいているではいか!

「…着陸する気か!?だが、あの場所は…!」

「え?」

「あそこは俺達が目指している貢ぎ物を納める広場の辺りだ…!」

「え!?どうゆうこと??」

「わからん…とにかく行ってみよう!」

「う、うん!わかったよエンドラーズ!」

イチとエンドラーズは急いで飛行艇が着陸した方向へと走り出した!




《グルスの正体―帝国の魔影―》



ここはバイーアの村から少し離れた森の中にある貢ぎ物の受け渡し地点…その広場には村からの貢ぎ物が山のように積まれていた。そして、広場の中央には帝国軍の飛行艇が凄まじいエンジン音を轟かせながら停泊していた。…やがて、船から何人かの近衛兵を引き連れた一人の男が降りてきた。


「…久しぶりだな…調子はどうだグルスよ?」

船から降りた男は、広場にいた一人の男にそう話かけた。

「はい…順調でございますヴォルガノン様。今回も人間共から物資を大量に…!」

白髪混じりの少しやつれた男は、貢ぎ物に視線をやりながらそう言った。

「ふふふ…そうか。これで俺とお前の私腹は満たされるわけだ…!近衛兵、この荷物を船に搬入しろ」

「はっ!」

ヴォルガノンが命令すると、四人の近衛兵が貢ぎ物を船に次々と積み込み始めた。


…その様子を、密かに近くの草陰から覗き見る二人の人間がいた。

「ちょっとちょっと!?どうゆうこと?グルスって誰かと思えば…バイーアの村の村長さんじゃない!」

イチが声を潜めながら、しかしかなり驚いたように言った。

「まさか…そんな…グルスの正体が村長だったなんて…!?」

どうやらエンドラーズは驚きを隠せない様子だ。

「村長がグルスなのはわかったよ…だけど…一体奴らは何者なの?」

イチがそう言った…その時だった、

「…イチ…イチ…聞こえますか…?」

イチの頭の中に誰かが問いかけてきた。


「!?…誰?」

イチが驚いて辺りを見回した。…しかし、辺りにはエンドラーズを除いて誰もいない。すると、再びその優しい女性の声がイチの頭の中に問いかけてきた。

「…イチ…よかった…私の声がちゃんと聞こえるのですね…」

「…あなたは誰なの?」

イチがそう聞くと、頭の中の声はこう答えた。

「私はこの近くにある泉の精霊です…早く逃げるのですイチ…あの男達は人間ではありません…決して見つかってはなりません…!」

「えっ!?それって…」


「おい?何さっきから一人で喋ってんだよ?」

一人で勝手に喋るイチに、エンドラーズが声をかけた。

「わっ!…なんだ…びっくりさせないでよ」

イチは急に話かけられて少し驚いたようだった。

「それはこっちのセリフだって!…一体誰と話してたんだよイチ?」

エンドラーズが聞いた。

「わからないよ…急に頭の中に声が話かけてきて…近くの泉の精霊だって言ってたよ」

「お前…熱でもあるんじゃないのか?」

「失礼な!ぼくは正気だよ。…それよりどう思うエンドラーズ?」

「…は?」

「グルスの…村長さんのことだよ。頭の中の声があれは人間じゃないって言ってんだ」

「おいおい…そんないい加減な話、信用できるわけないだろうが」

「そ、それはそうかも知れないけれど…」

イチがそう話していると

「しっ!…どうやら荷物の詰め込みが終わったみたいだ」

エンドラーズがそう言った。


二人が広場の方に目を向けて見ると、村長と船の出入口に立った男が何やら話していた。

「…それではな、半年後もよろしく頼むぞ。わかっているだろうが、この事はくれぐれも内密にな。個人的にやってること故に、コロッサル様に見つかると厄介なんでな」

「承知しておりますヴォルガノン様。…それでは」

村長は男に一礼した。

男が船に乗り込むと、飛行艇は轟音と共に空高く舞い上がり、東の空へと消えて行った…。


「貢ぎ物…持って行かれちゃったね」

草影のイチが言った。

「あぁ…だがこれでグルスが何者かがハッキリした…!」

エンドラーズが拳を堅く握り締めながら言った。

「エンドラーズ…?」

「…お前は先に逃げろイチ…。畜生…俺はずっと親の敵の支配する村で暮らしてたのかよ!グルス!親の仇だ!覚悟しやがれっ!!」

「あっ!待ってエンドラーズ!」

イチの静止を振りきり、エンドラーズは草影から広場に飛び出した!


「!!…お前は…!」

村長はエンドラーズの突然の登場に驚いた。

「村長…いや、グルス!よくもこの俺達村人を騙したな!」

エンドラーズが物凄い剣幕でグルスにそう言い放った。…が、グルスは至って冷静であった。

「おやおや…どうやら一部始終を見られてしまっていたようだな」

「グルス…お前さえいなければ…俺の両親は…!うわぁぁっ!両親の仇だっ!」

エンドラーズがグルスに突進した!


「ふん…人間めが」

バシィ!

「うわぁ!」

エンドラーズはいとも簡単にグルスに払い除けられてしまった。

「エンドラーズ!」

草影に隠れていたイチが地面に倒れ込んだエンドラーズに駆け寄った。

「イテテ…畜生、思ったよりもやるな」

エンドラーズが起き上がりながらそう言った。

「武器も無いのに敵に突っ込むなんて…エンドラーズはバカなの?」

「お、お前に言われとうないわっ!…素手でも勝てると思ったんだよ」

「…でも勝てなかったよね?」

「う、うるさいって!」


「…どうやらもう一人仲間がいたようだな」

二人が言いあっていると、グルスがこちらに歩みよってきた。


「村長さん…あなたがグルスだったんですね」

イチがそう言った。

「ふふふ…いかにも。私がグルスだ。…まさか人間にこの場を見られるとは思わなかった」

グルスはそう答えた。

「どうして…なんでこんなことを」

「ほほう…部外者のお前がする質問とは思えんが…まぁよい。…単純に言えば上官への賄賂だな。品物と引換に私の地位や生活は上官に…ヴォルガノン様によって保証されるわけだ。くくく…楽なもんだったなぁ…幸いなことにこの村の村長には家族もいなかったし、本物を殺してなりすますのは簡単だった。村人共に恐ろしい噂を流したのも私だが…まさかあんなに簡単に騙されてくれるとは…!」

「グルス…貴様ぁ…!」

「ふはは、何をそう怒るエンドラーズ?…気づかなかったお前が悪いのではないのか?」

グルスが怒りに震えるエンドラーズに冷たく笑いながらそう言った。

「そんなことない!エンドラーズも村人達も何も悪くなんかないよ!」

イチがそうグルスにくってかかった。

「ふん、好きに言えばよいわ…どうせお前らはここで死ぬんだからな!秘密を知られたからには生かしては帰さんぞ人間共!!死ねい!!!」

グルスはそう捨て台詞を吐き捨てると、みるみるうちに恐ろしい獣の姿へと変わっていった…!


「…マジかよ!?」

「エンドラーズ…これはさすがにちょっとヤバいかもね…?」

「当たり前だろーが!どうするんだよイチ!?」

「…戦って勝つしかないでしょ」

「…は!?お前正気なのか!?」

「さっきから何度も言うけど、ぼくはちゃんと正気だよっ!それとも…エンドラーズはあんな危険なのを放って逃げられるの?」

イチがグルスの方に視線をやりながら言った。二人の視線の先には牙を剥き出しにした巨大な獣が唸り声を上げて身構えていた。

「とにかく…ここでグルスに勝たない限り村の未来はおろか、ぼく達の命すら危ういよ。それに…ぼくはグルスを易々と許すわけにはいかない…!」

イチは腰の鞘から銅の剣を抜きながら言った。

「無茶だイチ!勝てるわけない!…死んじまうぞ…!?」

エンドラーズがイチにそう叫んだ。…するとイチは笑顔でこう答えた。

「最初から勝敗の分かる戦いなんて…きっと存在しないんだろうね」

「イチ…」

エンドラーズを背に、イチは剣を一振りすると静かにグルスの前に立ちはだかった…!

「さあ…勝負だ!!」




《グルスvsイチ&エンドラーズ》



夜も深くなり月が夜空の真上にくる頃…獣と化したグルスが白い牙を剥き出しにしてジリジリと二人に迫ってきていた。


「さあ!こいグルス!」

イチがグルスに向かってそう叫んだ。

「グルアァァーッ!!」

次の瞬間、グルスは唸り声をあげてイチに飛びかかってきた!!

「わぁっ!」

イチはとっさにグルスの攻撃から身をかわした!それから慌ててバックステップを踏んでグルスから離れた。

「うう…危ない危ない…あんな牙に噛まれたらひとたまりもないよ」

イチは額の冷や汗を左腕で拭いながら言った。

「大丈夫かイチ!?」

エンドラーズがイチにそう聞いた。

「ぼくは大丈夫だよ!…だけど…正直なところグルスを倒せるかどうかはわからないかも…」

「…心配するなよ。俺が奴を倒す!」

エンドラーズはそう言うと、何やら呪文を唱え始めた。

「…闇を照らす炎の神よ…汝…ぶつぶつ…これでも喰らえっ!ファイアボールッ!!」

エンドラーズが手をグルスに向かってかざすと、手の平から小さな炎の球が放たれた!小さな炎の球は燃え盛りながらグルスに向かって一直線に飛んでいく!!

「グルアッ!!」

しかし、グルスは素早く身を翻して炎の球をかわした!外れた炎の球は近くにあった木の幹に命中し、木は一瞬にして赤く燃えあがった。そして、炎はあっという間に木を薙ぎ倒してしまった。

「ちっ…外したか…!」

エンドラーズが悔しそうに舌打ちをしながらそう呟いた。

「ほぇ〜…あんなすごい魔法使えるんだエンドラーズ」

「そんな悠長なこと言ってる場合かよイチ!くっそ〜、動きが速すぎて攻撃が当たらねぇ!」

「そっ、それじゃあさ、もっと近づいてから魔法で攻撃すればいいんじゃないかな?」

イチがそう提案すると、

「あほか!俺を殺す気かよ!」

と、エンドラーズは真っ向から否定した。

「う…で、でもじゃあどうするの!?」

「そんなの知るかよ!くっそ〜、化物め…動きが速すぎて攻撃が当たらねぇ!あれが近所のバカ野良犬みたいに餌に釣られてくれれば…そうすりゃ動きを止められるのに!」

エンドラーズが悔しそうにそう言った。その瞬間、それを聞いていたイチが何かを閃いたように急にエンドラーズの話に食い付いた。

「い、今なんて言ったのエンドラーズ!?」

「は?いや、だからグルスが近所の野良犬みたいだったらいいなぁって」

「ち・が・うっ!その後だよその後!」

「あ?だから…餌に釣られて動きが止まればいいのにって」

エンドラーズがそう言うと、イチはにーっと笑ってこう言った。

「そうだよ!グルスの動きを止められれば…そうすればエンドラーズの魔法攻撃できっとグルスを倒せるよ!」

「た、確かにそうかも知れんが…どうやってグルスの動きを止めるつもりだよイチ?」

「だからさっきエンドラーズが自分で言ってたじゃん!…餌を使うんだよ」

「餌って…まさか肉でもやるつもりかよイチ」

エンドラーズが半ば呆れ顔でそう言うと、イチは自分を指差しながらこんなことを言い出した。

「肉はあげないよ。…ぼくがグルスの餌になる!」

そのイチのとんでもない言葉に、エンドラーズは我が耳を疑った。

「はぁっ!?お前本気なのかっ!?そんなの死にに行くようなもんだぞ!??」

「もちろん本気だよ。ぼくがグルスの気を引き付けて彼の動きを止めている間に、エンドラーズはタイミングよくグルスを攻撃してくれればそれでいいんだ」

イチの瞳は本気だった。彼女からは少しの恐怖も感じられなかった。


彼女がどうしてそこまで頑張るのか、エンドラーズには正直なところ理解できなかった。別にここでグルスを倒したところで彼女には何の利益もない。むしろだ、ここで戦えば彼女自身の命を落とすかも知れないのに…彼女はあえてグルスと対峙する道を選んだのだ。…とにかくイチが正気であり、かつ本気であることは紛れもない事実であった。


「…わかった…お前がそこまで言うなら…俺も最善を尽くすよ。だが、頼むからくれぐれも無茶だけはしないでくれよ?…目の前でお前に死なれるのだけは本当にご免だからな」

エンドラーズはイチの気持ちに根負けしたのか、彼女の作戦をしぶしぶ承諾した。

「わかってるよ。大丈夫、ぼくはそんなに弱い人間じゃあないから」

イチはそう言った。

「…そうか。魔法攻撃するには呪文を唱えなくちゃならん。だから、最低でも数秒程、(グルス)の動きを止めてもらいたい。…できるかイチ?」

「そんなの愚問だよエンドラーズ。ぼくはエンドラーズのこと信じてるから…!」

「あぁ…俺もお前のこと信用するよ」

そう言うとエンドラーズは一歩下がり、逆にイチは一歩前に出た。

「さぁ来いグルス!ぼくが相手だっ!!」

イチが剣を振り回しながらグルスを挑発した。

「グルル…ギシャァ!」

当然、イチの挑発に乗ったグルスは怒り狂ってイチに突進してきた!


‥グワアッ!

ガキィィンッ!!


グルスの鋭い爪のついた腕がイチに振り下ろされた!!…間一髪、それをイチが剣でなんとか受け止めた。爪と剣からは激しく赤い火花が散る!

「うっ…ぐぅ…」

グルスの物凄い力がイチの両腕に襲いかかった。あまりの力にイチは思わず大地に片膝をついてしまった。そしてジリジリとグルスと彼女の距離は近付いた。グルスの鋭い牙が彼女の喉元からわずか十数cmのところまで迫っていのだ。


…しかし、この僅かな間にグルスの動きが止まっていたのをエンドラーズは見逃さなかった。


「今だよっエンドラーズっ!!!」

イチが最後の力を振り絞って力一杯叫んだ!

「あぁ!!喰らえっ!ファイアフラッシュッ!!!」

次の瞬間エンドラーズの手から凄まじい光と熱を放つ炎の塊が放たれた!炎は物凄いスピードでグルスに飛んでいく!

「‥わっ!?やばい!」

それを見たイチは慌てて剣から手を離すと、うまく身を捻ってグルスから離れた地面に転がり込んだ!その次の瞬間、光と炎の塊は寸分の狂いもなくグルスに命中した!


バガァッ!!

ゴオオォォォォッ!!!


「グギャアアアッ!!」


凄まじい光と炎が辺りを包み込むと同じに、グルスの断末魔が辺りに響き渡った。

「バ…バカな…人間なんか…に……」

グルスはそう最期の言葉を呟きやがて事切れた。


「か、勝った…」

エンドラーズはその場に座り込んでしまった。するとそこにイチが駆け付けて来て突然エンドラーズに抱きついた!

「わぁっ!??な、なんだよイチ!?」

「やった!やったよエンドラーズ!ぼく達グルスをやっつけたんだよ!」

「わかった!わかってるからとりあえず放してくれよっ!苦しいって!」

「あ!ごめんごめん!」

イチはエンドラーズを放すと、大きく深呼吸してから改めてこう言った。

「…勝ったね」

「あぁ…勝ったな」

「ホントにぼく達…勝っちゃったんだね」

「そうだな…本当に勝っちまったんだな」

「…クスクス…」

「…クククク…」

「…アハハ、アハハハハハ!」

「…フフ、フハハハハハハ!」

二人は喜びのあまり顔を見合わせ満面の笑みを浮かべ大声で笑いあった。


…それからしばらくして、エンドラーズがまだ僅かに燃えているグルスの亡骸を見つめながら冷静にこう言った。

「しかし…魔物(グルス)が何故、西側のこんな辺境の村に…?そこらの雑魚モンスターならまだしも…人間に化けられるような高等なモンスターが何故…?」

「そうだね…グルスのことも気になるけど、あの飛行艇に乗っていた男の人も気になるね。

なんだか偉そうな人に見えたけど」

イチがそう言った。

「あぁ、そうだな。…いずれにしても、ナタリア帝国が一枚噛んでいるのは確かなようだな」

「ナタリア帝国…世界の七割を支配する東方の強国…なんだか話が大きくなっちゃったねエンドラーズ」

イチが無邪気に言った。

「確かにな。…ま、とにかくグルスは倒したんだ。話はややこしくなりそうだが…村に帰ってみんなに報告しないとな」

「そうだね。きっとみんなびっくりするよ!あ…見てよエンドラーズ、地平線が…!」

イチが地平線を静かに指差した。見ると地平線はうっすらと明るくなり始めていた。二人が静かに見つめる中、淡い青い光が段々と赤味を帯び、やがて太陽が地平線から顔を出した。…朝日が二人を照らす。

「あー…もう朝かよ」

「そうだね…ちょっと眠たいけど」

「けど?」

「…なんだかとってもすがすがしい朝だねエンドラーズ…!」

「…ふっ…あぁ、そうだなイチ」


イチとエンドラーズの二人はしばらくの間、勝利の余韻に浸りながら朝日を眺めていました。

朝日がまるで惜し気もなく二人を祝福するかのように照らすのでした…。




  《赤い瞳の女》



ここはとある場所、とある建物のバルコニー…イチとエンドラーズが朝日を眺めている頃、時を同じくして一人の女性がバルコニーから見える朝の太陽を眺めていた…。


「もう朝か…またしばらく太陽の姿を拝まなくちゃならんのか」

女性は少し残念そうに言った。

その美しい女性は漆黒の長い髪を持ち、赤い瞳をしていた。朝日を浴びた瞳はその赤味をより鮮明に醸し出していた…。


「さて、今日もまた退屈な一日が始まるのか…憂鬱な限りだな。…しかし…昨晩、西方(バイーア)から感じた力は果たして何だったのだろうか?確かに微弱ではあったが…何か特別な力を感じたような気がする。…もしかしたら…退屈な日々に終止符(ピリオド)を打つことができるかも知れんなぁ…これから果たして何が起こるのか…実に楽しみだ…!」

女性は薄笑いを浮かべながらそう言った。


そして彼女はバルコニーを去る際に静かにこう呟いた。

「人間はまだ知らない…明日も今日と同じ太陽を拝める保証はないとゆうことをな…」

最後に意味深な人物が登場しましたが…誰だかわかりましたでしょうか?

…小説「ノスタルジア」を熟読されている方にはちょっと簡単過ぎたかも知れませんね。


この後、段々と物語の大筋が明らかになってきますので、楽しみにしていてくれると大変嬉しいです。


ここで、エンドラーズのプロフィールを紹介して、お別れの挨拶とさせて頂きます。

感想、評価、お待ちしております。




エンドラーズ


性別:♂

身長:167cm

職業:魔法使い(未熟…)

髪色:シルバー


見習い魔法使いの少年。

歳はイチと同じくらいだが、彼女と比べるとかなり精神年齢は高い。魔法攻撃が得意だが、まだまだ未熟であるようだ。

暴走しがちなイチにブレーキをかける冷静な一面を持つが、時には感情的になったりもする。

イチとは意外にも気が合うようだ。

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