旅立ちの章 第一部 運命の出会い
こんにちは。塚原宏樹です。一ヶ月ぶりの更新となってしまいましたが、いよいよイチの冒険が本格的に始まります。どうぞ最後まで楽しんで読んでくださいね。ノスタルジアと平行して読んで頂けると、一層楽しめると思いますよ!
…それでは、ジャスティスの二話目をどうぞお楽しみください。
…燦々と降り注ぐ太陽の光、流れる雲…そして、森の木々の葉の間からは木漏れ日が差し込んでいた。そんな穏やかな森の中の小道を、一人の少女が歩いていた。髪は白っぽい金色で短く、黒くつぶらな瞳をしており、年は十代後半ぐらいだろうか。背はあまり高くはなく、手に大きな風呂敷をぶら下げ、腰には鞘に収められた銅の剣を携えていた。
「んん〜〜っ!いい天気だなぁ〜」
少女は小鳥のさえずりと、そよ風で木の葉が揺れる音を聞き、呑気に鼻歌を歌いながら森の中の小道をのんびりと北東に向かいながら歩いていた。
少女がこの旅に出たのは二日前のことになる。昔から夢見ていた外の世界への憧れを実行するために、彼女は自分の生まれ故郷と幼なじみに別れを告げて旅に出た。
特に行くあてなどない。ただ風のゆくまま気のむくままに行くだけだ。それは旅と言うよりも、むしろ大掛かりな散歩と言った方がよかったのかも知れない。
「さて…ぼくの歩いてきた道が間違ってなければそろそろバイーアの村に着くはずなんだけど」
当然、適当に歩いてきたとは言え村からここまで一本しか道がないので進行方向が違わない限り迷うはずもなかったが。今、彼女が向かっているバイーアの村は、小規模ながらも魔法使いを養成する魔法学校がある村である。
…この世界には、大きく分けて二つの力の存在がある。一つが「科学」もう一つが「魔術」と呼ばれるものである。科学は主に人間が作り出したものと言われており、ナタリア帝国の中心的な機能が集中している大陸の東側で顕著に発達している。一方、魔術はその昔、異次元からもたらされたものと言われており、大陸の西側で発達している。両者は、互いに相慣れない存在として長年対立してきた。それは現在でも変わらず、科学で世界を支配するナタリア帝国は魔術の使用を極端に制限している。しかし、この辺りは大陸の最西端とゆうこともあり、ナタリア帝国の規制が行き届かなかったために、未だに魔術が人々の生活の一部として存在しているのである。
無論、イチも若干だが魔法を使うことができる。
…さて、イチが小道をさらに進んで行くと、段々と開けた所に出てきた。やがて、目の前に小さな集落が見えてきた。
「ふぅ…どうやら無事にバイーアの村についたみたいだね。これで久々にふかふかのベッドで眠れるぞぉー」
流石に、イチにとっても石の枕で寝るのは心地よいことではなかったようだ。
集落の家のほとんどは、石やレンガ造りかしっくいの壁でできた平屋であった。…しかし、集落の中心付近に一つだけ、妙に大きな建物が建っていた。
「あれが魔法学校か…ちょっと興味あるけど、まずは村長さんにご挨拶に行かなくちゃ」
イチは興味のあることにはすぐに飛び付くタイプの人間ではあったが、よそ者故に他の村の中で失礼があってはいけないので、まずは村の長に顔を出しに行くことにした。
幸いにも村人は皆親切で、イチが村長の居場所を尋ねるとすぐに教えてくれた。
イチは、村人に教えてもらったように村長の家へと向かった。…その途中、彼女はあることに気が付いた。
「…おかしいなぁ?畑とかはちゃんとしてて特別貧しい村ではなさそうなのに、なんか家の壁とかボロボロでまるで修理されてないみたいだよ」
畑にはたくさんの作物が実のっているのに、村の雰囲気がどことなく貧しいように彼女は感じ取とれた。
「まぁ、世の中いろんな村があるもんだなー…」
しかし、この時には彼女はそれ以上そのことを気にすることはなかった。
やがて村長の家の前に着いたイチは、一度深呼吸して身なりを整えると、その家の扉を数回ノックした。村長宅はそれほど大きくはなかったが、他の家よりかは綺麗に手入れされているように見えた。…しばらく待っていると、初老の男性が中から出てきた。年は60後半ぐらいだろうか、白髪混じりの髪と髭をした、少しやつれた感じの男性だった。
「はて…見慣れないお方ですが、どちら様でしょうか?」
男性がそう言ったので、イチはなるべく丁寧にこう答えた。
「はい。ぼくは隣の村から来たものでイチといいます。この村へは初めて来たのでご挨拶に参りました」
すると男性は優しくニコッと笑ってこう言った。
「おお…それはそれは。ここまで来るのは大変だったでしょうイチさん。何もありませんが、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます村長さん。では、お言葉に甘えてゆっくりさせて頂きます」
イチは深々と村長に頭を下げて挨拶をした後、その家を後にした。そして、彼女は村の中心にある大きな建物の方へと歩みを進めることにしたのであった。
《出会い》
「…あれれ?昼間の学校ってこんなに静かなもんだっけ?てゆーか…誰もいないみたいだけれど…??」
イチは魔法学校の前に来ていた。…しかし、そこには生徒や先生はおろか人の気配すらなかった。
イチは学校には行っていなかったが、物知りなバルから話で学校のことは聞いていたので、そこがどんな雰囲気の場所かよく知っていた。
「…お前、いったいそこで何をしてるんだ?」
その時突然、イチの後ろから何者かが彼女に声をかけてきた。
「わっ!?びっくりしたぁ!…君は??」
イチが驚いて振り向いてみると、そこには一人の少年の姿があった。
「はぁ…俺はエンドラーズだが…お前は?あまり見かけない顔だな?よそ者か?」
「うん。僕はイチって言うんだ。隣の村から来たんだ。…よろしくねエンドラーズ!」
イチはエンドラーズに笑顔でそう言った。
「お、おう…よろしくなイチ。ところで…イチはここに一体何の用件で来たんだ?」
その銀髪の少年は、イチの無邪気な態度に少し戸惑いながらも彼女にここに来た動機を尋ねた。
「ぼく?別に用事はないよ。旅の途中で、ただなんとなく面白そうだから来てみただけだよ」
イチはそう答えた。
「なんじゃそりゃ」
エンドラーズは半ば呆れた様子のようだ。
「でも…学校には誰もいないね?なんで?」
イチがそう聞くのでエンドラーズはこう答えた。
「そりゃそうさ。今日は学校は休みだからな。俺はちょっと忘れ物して取りに来たんだが…普通、休みの日に学校に来るやつなんて誰もいないさ」
「へぇ〜、そうなんだ!何かの祝日とかなの?」
イチがそう尋ねると、エンドラーズは顔を少し曇らせてこう言った。
「…いや、むしろその逆かな?」
「え?」
「イチはよそ者だから知らんだろうけど…理由を知りたければ村の広場に行ってみな。…俺は家に帰って宿題をやらなきゃいけないから、また後で会えたら会おうな」
エンドラーズはそう言い残すと、イチに背を向けて村の方へと行ってしまった。…校庭に一人残されたイチはエンドラーズの言葉が気になっていた。
「広場か…ちょっと行ってみようかな」
少女は、好奇心に後押しされるようにして駆け足で村の広場へと向かって行った。
《リサーチ》
魔法学校のある所から村の広場まではそう遠くはなかった。
イチが村の広場に着いてみると、数人の男達が何やら運んでいた。ふと広場に停められたトラックの荷台を見てみると、たくさんの食料やら何やらが山積みにされていた。
「なんだろう…?」
イチは不思議に思い、トラックの脇で煙草をふかしていた男性に声をかけた。
「あの〜、すいません。今何をしているんですか?」
すると男はこう言った。
「あ?なんだい嬢ちゃん、知らないのか?…あぁ、この村の娘じゃないんだな。だったら関係無ぇな。気にすんなよ」
男があまりにもぶっきらぼうに答えるので、イチは少しムッとした。
「そんなこと言わないで教えてくれたっていいじゃないですか!…学校が休みなのと何か関係あるんでしょ?」
イチがそう言うと、男は少々不機嫌そうな顔をしたが、彼女の質問に答えてくれた。
「あんまり聞いても面白い話じゃないんだが…まぁいいや。この荷物はな、グルス様への貢ぎ物なのさ」
「…グルス様?」
「そ。まぁ、この村の近くに住むモンスターなんだが…俺達村人がこうやって半年に一度、村の作物なんかを貢いでいる限りは危害を加えない契約になってるんだとよ」
男があまりにも他人事のように言うので、イチは正直ちょっと驚いた。
「契約って…そんな一方的な!悔しくないんですか?村の財産を勝手に持ってかれたりして!?」
すると男は鼻で笑うようにこう言った。
「ふんっ、よそ者が知った口聞くなよ。これはな、昔からのしきたりみたいなもんだ。逆らって村をめちゃくちゃにされるよりかは少しの貧乏を我慢した方がまだマシだね!」
「それじゃあ、あなた達は協力してその魔物をやっつけようとか考えないんですか?」
イチがそう聞くと、男は今度は大笑いしながら答えた。
「ハハハ!いいかい嬢ちゃん、グルス様はとっても強いらしいんだ。俺達が勝てるわけがないだろーが!」
その言葉に、イチは気になる点を見い出した。
「強いらしいって…会ったことないんですか?」
「あたりまえだ。恐くて会えたもんじゃない。この貢ぎ物だって夕方に指定された場所に置いてくるだけで、グルス様の姿を見たものはほとんどいないよ」
「それじゃあ…グルスが強いってのは誰から聞いたんですか?」
「そんなの村長様に決まってんだろ。…もういいだろうお嬢ちゃん。俺達は忙しいんだ。夕方までにこの荷物を森の中の広場に運んで置かないと村の明日はないんだ。頼むからよそ者は引っ込んでてくれよ」
…広場を後にしたイチは何やら考え込んでいた。
「違う…絶対に間違ってるよこんなこと。強い者が弱い者を虐げる世の中なんて…ホントはこんなの誰も望んでいないはずなのに」
イチは、この時ある決心をしていた。
「とりあえず、グルスのことをもっとよく調べなくちゃ。もう一回村長のところに行って聞いてみよう。きっと何か知ってるはずだよね」
イチは再び村長の家へと向かった。
イチが再び村長宅を訪れると、彼はまた感じよく出迎えてくれた。
しかし、彼女がグルスのことを尋ねると…
「さ、さぁ…彼のことはよく知らんなぁ…わ、私は忙しいのでこれで…」
と言って、そそくさと家の中に逃げるようにして戻ってしまった。イチはどちらかと言えばあまり洞察力の鋭い人間ではなかったが、村長が何かを隠しているのは彼女にもわかった。結局、イチは村長から何も聞くことはできなかった。
…その上、彼女はある重大なことに気が付いた。
「そう言えば…ぼくは今晩どこで寝泊まりすればいいんだ?確か宿屋なんてなかったし…参ったなぁ…」
そう、すでに辺りは暗くなり始めていたのだ。しかしこの村には宿屋など無く、しかも来たばかりで知り合いもいないので、彼女には泊まるあてなどなかった。
「はぁ…まさかここまで来てまた野宿するなんて…悲しすぎるよ」
イチがため息をついてがっくり肩を落としていると…
「あれ…お前まだこんなところにいたのか?」
…聞き覚えのある声が彼女を呼んだ。
「あ、エンドラーズ!」
「なんだよお前、ため息なんかついてさ。…わかった、さては泊まる場所がなくて困ってたんだろう?」
「うっ…」
図星だった。
「やっぱりな。お前、なんかそうゆう無鉄砲な顔してんもんな。…いいよ、俺ん家でよければ泊めてやるよ」
エンドラーズがそう言ったので、イチはびっくりして聞き返した。
「えっ!?いいの?」
「いいのって…ダメって言ったら可哀想だろ?」
「ホント?ありがとうエンドラーズ!エンドラーズって優しいんだね」
「よ、よせやい。優しいだなんて恥ずかしい」
イチに笑顔で喜ばれてエンドラーズは少々照れくさかったが、正直まんざらでもなかったようだ。こうしてイチとエンドラーズの二人は、村の外れにあるエンドラーズの自宅に行くことにしたのである。
《エンドラーズの家―姿無き魔物・グルス―》
…日が完全に暮れた頃、イチは村の外れにあるエンドラーズの家の前にいた。質素なたたずまいで、正直ボロボロだった。
「見た通りのボロ屋敷だが…まぁとりあえず中に入ってくれよ」
エンドラーズに言われて中に入ってみると、意外と綺麗で整理の行き届いた室内だった。部屋の真ん中にはきちんとされたテーブルとイスが置かれていた。
「ヘぇ〜、綺麗な部屋だね!ぼくの家より百倍は綺麗だよ」
イチは部屋を見渡し、感心したように言った。
「百倍ってな…お前どんな汚い家に住んでたんだよ?」
エンドラーズが呆れ顔でイチに言った。
「えへへ…ぼく、こう見えてちょっと掃除は苦手なんだよね」
イチはちょっと照れくさそうに言った。
「…ま、とにかくイスに座って大人しく待っててくれよ。今ご飯にするからさ。あ、手伝わなくていいよ。お前はとにかく大人しく待っててくれればそれでいいからな。いい?大人しく、だぞ?」
エンドラーズはそうイチに言うと、奥の台所に歩いて行った。
「…なんだよ、人を子供扱いして!ぼくだって大人しく待つことぐらいできるよーだ!」
イチは少しムッとしたが大人しくイスに座って待つことにした。
エンドラーズからすれば、イチの子供っぽさがちょっと怖かったのかも知れない。事実、彼女の精神年齢は一般論から言っても決して高いとはいい難いものだった。旺盛な好奇心からも解るように、彼女の精神年齢はもしかしたら数年前からほとんど変わっていないのかも知れない。しかし改めて言っておこう。彼女は立派な17才の女であると。
…しばらくして、エンドラーズが出来上がった料理をテーブルに運んで来た。野菜を油で炒めただけの簡単な料理であったが、イチはおおいに喜んでくれた。
「わぁー!美味しそうだね!エンドラーズって料理上手いんだね」
「そんなおおげさな…てゆーか、野菜炒めでこんなに喜んだやつ見るの始めてだよホント」
エンドラーズは彼女の素晴らしくのうてんきな性格に呆れる他なかった。何はともあれ、二人は食事を開始した。質素だが、量はかなりあった。にも関わらず、イチはあっという間にエンドラーズよりも先に野菜炒めをたいらげてしまったのであった。
「ふぅ、お腹いっぱい。幸せ幸せ!」
イチは上機嫌で言った。
「お前さぁ、華奢なくせによく食うなぁ」
エンドラーズが言った。
「えへへ、何せ育ち盛りだからね!たくさん食べないと!」
「その割には子供っぽいよなぁ、性格とか。…ついでに体付きも」
エンドラーズが、イチの胸の辺りを見ながら言った。
「もう!結構気にしてるんだからそんなこと言わないでよ!…バルにも言われたよソレ、お前は胸がないって」
「バル?誰だそりゃ?」
「幼なじみだよ。男の子ってやっぱりペッタンよりもボインがいいわけなの??」
「い、いや…別にそうゆうわけでは…。そ、それよりどうだ?昼間広場に行ったんだろ?ちょっとはこの村の事情はわかったか?」
あまりこの手の話をしていると話がとんでもない方向に飛んで行きそうなので、エンドラーズは話を変えることにした。…が、結果的にこれがいけなかった。
「うん、行ったよ。グルスだっけ?」
「あぁ…今日学校が休みだったのは奴に貢ぎ物をする日だったからさ。奴には誰も逆らえないよ」
すると、イチはエンドラーズの予想外の言葉を口にした。
「なんで?どうして逆らえないのさ?」
その言葉に、エンドラーズは驚いた。
「はっ!?お前何を聞いてきたんだよ!?グルスに逆らったら殺されちまうよっ!」
「…じゃあエンドラーズはグルスに会ったことあるの?」
「なっ…あるわけないだろうが!」
「じゃあどうして彼が強くて恐い奴ってわかるの?」
「えっ…そ、それは…」
「ねぇ?なんで?」
イチのその問いに、エンドラーズは答えられなかった。何故ならエンドラーズ自身、グルスに会ったこともなければ、グルスに殺された人も知らなかったからだ。…事実、村人の多くはグルスのことを話の中でしか知らなかったのだ。
「…やっぱりね、村の人達も村長さんもグルスの事になると他人事のようなんだもん。あなた達には本当の意味で自分の村を守ろうって気持ちはないの?」
その言葉にエンドラーズはカチンときた。
「うるさいっ!よそ者のお前に俺達の何がわかるっ!!」
「…」
エンドラーズが怒鳴ったにも関わらず、イチはそれを黙って聞いていた。…やがて、落ち着きを取り戻したエンドラーズはこんなことをイチに話始めた。
「…俺の両親は…二年前に流行病で死んだ。別に特別難病なわけじゃなかった。薬があれば助かったのかも知れない。…だけど…この村にはそんな薬を買うお金はなかった…そう、グルスがいなければ…俺の両親は死なずにすんだ。…俺はグルスが憎かった。殺してやりたかった。でも…俺は怖かった。怖くて何もできなかったんだ。グルスに立ち向かっても…きっと殺されるだけだろうって…ずっとそればかり考えて今まで生きてきたんだよ俺は…」
うつ向きながらエンドラーズがそう言うとイチは
「ふぅん…それで?結局あなたは何もしなかったんだね。バルが言ってたよ、そう言うのを腰抜とか臆病者って言うんだよね?」
…ただそう言った。
無論、別段イチはエンドラーズをののしるつもりはこれっぽっちもなく、ただ自分の思ったことを素直に言っただけであったが、エンドラーズにはその「腰抜」「臆病者」とゆう言葉が痛烈に心を締め付けた。…それはエンドラーズから喋る気力さえも奪い取ってしまうほどだった。
…しばらくして、流石に無邪気なイチもエンドラーズの落胆した様子を見て自分が言い過ぎたことに気が付いた。
「ご、ごめん…ちょっと言い過ぎたよ」
イチがそう謝ったが、
「いや…いいんだ。確かにお前の言う通り、村人も俺もどうしようもない臆病者さ。…もうほっといてくれよ」
そう言って、また下を向いてしまった。
イチは正直困ってしまった。どうしたらエンドラーズに元気になってもらえるか…彼女はしばらくうんうん考えていたが、やがて何かが閃いたのか、彼女の表情がパッと明るくなった。
…そして、エンドラーズにこんなとんでもないことを提案したのだ。
「…ねっ!これからグルスに会いに行かない?」
その突拍子もない提案に、うつ向いていたエンドラーズはびっくりして起き上がった。
「…はぁっ!?なんだって!?」
「だ・か・らっ!これからグルスに会いに行こうよって言ったの!」
「おっ、お前正気なのか!?」
「失礼な!…エンドラーズは知りたくないの?グルスの正体を」
「そ、そりゃあ…確かに知りたいけど…で、でもよ、大丈夫なのかよ?」
するとイチはさらりとこう言った。
「大丈夫も何も…始めて会うんだからわからないよそんなの」
イチのその緊張感の無い台詞にエンドラーズは心底呆れてしまった。…この少女には『未知への恐怖』とゆうものは果たしてないのだろうか?エンドラーズはイチを見てつくづくそう思った。…しかし、同時にそんな彼女のイメージとは対照的な彼女に対する希望の念がエンドラーズの中に芽生えていた。そう、こんなにも純粋で勇気ある人間を、エンドラーズは今までに見たことがなかったからだ。もっとも、それが勇気なのか、それともただの無鉄砲なのかはエンドラーズにもわからなかったが。
「どうして…どうしてそこまでグルスにこだわるんだよイチ?別にお前はこの村の住人でもないのに」
エンドラーズがそうイチに問うと、彼女はこう答えた。
「え?別にグルスなんかに興味はないよ?ただ、ぼくは困ってる人達を放ってはおけないし、事の真実を知りたいだけだよ」
イチがあまりにもさらりとそう言うので、エンドラーズはしばし言葉を失ってポカンと口を開けてしまった。
「…あれ?ぼく何か変なこと言ったかな?」
「い、いや…別に。…お前ホントに不思議なやつだなぁ」
「そ、そうかな?…それで?どうするの?行くの?行かないの?」
イチの質問に対して、エンドラーズはしばらく考えていたが、やがてこう彼女に告げた。
「そんなの決まってんだろ?…俺も行くさ。どうせ止めたってお前のその性格じゃあ行くだろうしな。よそ者のお前が行くのに村人の俺が行かないのはおかしな話だろうしよ。何よりも、俺がグルスの正体を暴いてやりたいんだ。…意外と弱い奴かも知れないしなっ!」
エンドラーズは、今までの落ち込み様がまるで嘘だったようにそう威勢よく言い放った。
「決まりだねっ!そうこなくっちゃ!」
イチは立ち上がって嬉しそうに言った。
「あぁ…グルスへの貢ぎ物は今頃、森の中の広場に運ばれているはずだ。今から行けば、貢ぎ物を取りに来たグルスに会えるかも知れない」
「うん、わかった。それじゃあ、早く行った方がいいね」
「そうだな。…相手はおそらく魔物だ。万全の体制で挑まないとな」
「そうだね。…それじゃあ、ちゃんと準備してから出発しようエンドラーズ」
「了解だイチ」
…こうして二人はグルスに挑むべく、準備をすることにしたのであった。
《…to be…》
「準備は万端かイチ?」
エンドラーズがイチに聞いた。彼の手には一本の杖が握られていた。
「もちろん。ぼくはいつだって準備万端だよ」
イチは腰に下げた銅剣に手をやりながら答えた。
「そうか。…それにしても綺麗な夜空だな」
エンドラーズが夜空を仰ぎながら言った。
「ホントだ。綺麗…」
イチも天を仰ぎながらそれに答えた。
…二人の頭上には、何処までも続く星の平原が横たわっていた。月の無い夜空に星々の光が爛々と輝いていた…。
「…一体、この夜空にはどれだけの星があるのだろうか?それを考えると夜も眠れなくなる」
エンドラーズが言った。
「どうだろうね…ぼくも毎晩頑張って星の数を数えてみるんだよ。だけどね、気が付くと結局朝になってるんだ。それでね、毎日毎日これの繰り返しなんだよ。…ぼくはね、時々こう思うんだ。きっと世の中に星の数を数えることのできる人間はいないんだって。それでね、星の数は偉い偉い神様さえも知らないんじゃないかって…だから…もし願いが一つだけ叶うのなら、ぼくはこの夜空の星の数が知りたいです…って、きっとそうお願いすると思うんだ」
イチが無邪気に、そして嬉しそうにそう話したことが、エンドラーズにはとてもおかしく、そして新鮮に感じられた。
「ははっ。叶うといいな、その夢!さてと…もう夜もだいぶ更けた頃だし…そろそろ行こうかイチ」
「…うん。そうだね」
イチとエンドラーズの二人は静かに森へと向かって歩き始めた。
恐怖はなかった。…そう、彼らは独りじゃなかったから…。
星達の淡い光が二人の影を優しく照らし出していて、夜空には、雲一つない何処までも続く星々の平原が地平線の彼方まで広がっていた。
それはまるで、終わることない旅路を暗示しているかのようだった…。
…誰が、どんな気持ちで、この星の大平原を眺めていたのか…それを知るものはいない…。
いかがでしたか?
イチの性格が少しはわかりましたでしょうか?
グルスの登場は残念ながら次回に持ち越されてしまいましたが、次のお話も楽しみに待っていてくださいね。
最後にイチのプロフィールを書いて、お別れの挨拶とさせて頂きます。
感想、評価を心よりお待ちしております。
イチ
性別:♀
身長:155cm
体格:華奢
髪:ホワイトゴールドでショートヘアー
瞳:ブラック
好きなもの:美味しいものならなんでも
嫌いなもの:狭いところ、じっとしていること
特技・趣味:運動、遊ぶこと
好奇心旺盛な元気な女の子。自分のことを「ぼく」と呼ぶ。優しくてきさくな性格のため誰にでも好かれるタイプだが、精神年齢が低く子供っぽいのがたまにキズ。ボーイッシュで、運動神経抜群である。
ひょんな好奇心からふるさとの村を飛び出し、旅を始めることになる。