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導きの章 第五部 モスキート・クイーン

《ここまでのあらすじ》


極西の地で育った少女イチが日常の繰り返しから抜け出す目的で旅を始め、近くの村で魔法使いの少年エンドラーズと出会う。そしてひょんなことから村を牛耳っていた魔物を倒してしまい、背後に渦巻く東の大国ナタリア帝国とその裏で糸を引く魔族の陰謀に巻き込まれることになる。一度はエンドラーズと別れたイチだったが旅先でアラカイト国の姫であるリリアと出会い、ナタリア帝国に立ち向かうように誘われるがその矢先にエンドラーズと共に帝国の軍人ヴォルガノンによって砦に捕らえられてしまう。間一髪、謎の女性ロゼリアーヌの計らいで何とか砦を脱出しリリアの母国アラカイトに逃げ込むイチ達。しかし、ヴォルガノンによる帝国軍の侵攻でアラカイトは占領されイチ達は国を追われてしまう。ここでも謎の女性ロゼリアーヌの助けで何とか逃げ延び、同時に城に捕らえられていた獣人オニキスが仲間に加わる。帝国の追っ手から逃げる日々の中、神の助言もあってイチ達は願いを叶える伝説の武器の存在を知る。それぞれの願いを叶えるため、イチ達は4つの聖なる武器を集めることを決心するのであった。

「…なるほどな、お主達の気持ちは分かった。この先、車で通れそうな道も教えるし必要な物はできるだけ提供しよう。…じゃが、この村に留まるのは一日だけにしておくれ。昔ほど隔たりがないとは言え、我々エルフとて未だに人間と分かり合えるような状況ではないのだ」

そう白髭を蓄えたエルフの長老が言う。

「ありがとうございます長老。…分かりました、用事が済んだらすぐにでも村を出ます」

リリアがそう言いながら頭を深々と下げる。

「隔たりか…まぁ、人間のエゴが酷いのは俺らも承知ってか」

リリアが愛想良くしているその隣でエンドラーズは小声で皮肉を呟くのであった。

先日出会ったエルフの少女、ノエルの好意でイチ達は森の奥深くにあるエルフの村にいた。村について小一時間、リリアとエンドラーズは村長に挨拶と協力のお願いをしていたところである。

「あー、ところでリリア?イチとオニキスは?」

「たぶんノエルと一緒に村の探索でもしていると思うわ。あの二人はこうゆう大人の話し合いは苦手だって。あ、でもあなたはダメよエンドラーズ。あなたにはこれから私と一緒に物資の調達やら今後の予定を立てたりやらしてもらうんだから。…めんどくさいからって勝手にどっか行ったらブン殴るわよ?」

「へいへい、分かりましたよお姫様。…は〜、人使いの荒いやつ」

エンドラーズはため息混じりに肩を落とした。でも、イチやオニキスに任せられないのだから仕方ない。せめてもの救いはきつい性格はともかくリリアの容姿が綺麗なことくらいだろう。



《さらわれたイチ》


「ねぇねぇ、どうしてこの村の人達は変な目でぼく達を見るのかな?…ぼくってそんなに変な顔してる??」

イチが自分のほっぺたを触りながらそう言った。

ここは村はずれの草原、難しい話が嫌いなイチはオニキスとノエルと共に村の中を歩き回っていたのだがエルフの村人達のただならぬ視線が気になったので人気の無いこの場所に落ち着くことにしたのである。三人は爽やかな風を浴び穏やかな空を眺めながら色々話す。

「なんでそうなるかな〜?あのね、異種族間の眼差しなんてこんなもんだよ。人間が獣人を見たときのようにね。あんたのように何に対しても対応が変わらないのは珍しいよイチ」

オニキスが半分呆れて言う。無理もない、今のこの世界では人種差別はともかく異種族間の対立は根深いからだ。そしてその歴史的背景も現状も基本的にはこの世界の住人ならば誰もが知っているような常識であった。もっとも、それ以前にイチが神がかり的な世間知らずであるのも事実だが…。

「イチのような人間の手前、言うべきじゃないかも知れないけど…かつて人間と異種族は激しく対立してたの。要するに戦争の類で結果的には人間側が勝ったもんで他の種族はみんな住み良い土地からは追い出されちゃった。…私たちエルフやオニキスのような獣人もね」

ノエルがちょっと寂しげに言った。

「そっか…そんなことがあるなんてぼくちっとも知らなかったよ。…なんかゴメン」

「い、いや、イチが謝ることはないさ。今はそれこそ終息化しつつあるし人間側のバックには魔族の連中が付いてたって噂もあるし…何にせよイチは良いやつだよ、あたいが保障する!」

落ち込むイチをオニキスが励まそうとそんなことを言うと、

「魔族?それってあんまり聞いたことない単語だね??」

急に目を輝かせてそうオニキスに詰め寄る。…どうやら好奇心旺盛なイチにとって知らない単語は格好の獲物だったようだ。彼女(イチ)の態度の急変に戸惑いながらもオニキスはこう説明する。

「あ、あぁ…魔族ってのは要するに人間と魔物(モンスター)の特徴を半分ずつ持った連中だよ。もともとは外の世界から来たとか何とか…詳しいことはあたいにも分からないよ」

「ただ、もっぱら良いイメージはないわね。人間以上に他種族を迫害し自分達が世界の征服者だと思い込んでる危ない連中ってことになってるし」

オニキスの説明にノエルがそう捕捉を加える。

「ふーん、そうなんだ…」

今までの話に飽きたのだろうか、イチは空をただ見つめながらそうとだけ言った。

「イチは暇さえあればいつも空を見てるなぁ。何か思い入れでもあんの?」

イチの視線が常に空にあることが気になったオニキスが話題を変えがてらそう聞く。

「ううん、別にそうじゃないよ。ただね、この空を飛べたらどんなに素晴らしいだろうって。物心ついた時からずっと空を飛び回ることを夢見てきたんだ。地上のくだらない柵を忘れて自由に好きなところに飛んで行きたい気分に時々なるから」

それまでの話を踏まえてイチがそう言ったのかは定かではない、けれどもオニキスとノエルにはそれが昨今の世の中に対する皮肉に聴こえてならなかった。

そんなちょっと切なくなるような話をしていた時であった…突然、風が強くなったと思ったら3人の後ろから物凄い騒音が響き渡った。驚いた3人が振り向くと目の前には見たこともないような巨大な影があった。

「!!?」

3人の背後で凄まじい風と騒音をもたらした犯人…それは軽自動車ほどもある大きなガガンボだった。不意をつかれ3人が驚いたり反応する間もなく、巨大なガガンボはその細長い6本の脚でイチの体をがっしりと掴むとそのまま宙に浮き上がった!

「わぁっ!!なに!?空飛んでるのぼく!??」

急な出来事にイチは半分パニック状態のようだ。彼女がジタバタもがいてもガガンボはその脚による束縛を緩めてはくれない。

「くそっ、こいつ!イチを放せ…って、うわぁー!」

イチを助け出そうとガガンボに飛びかかろうとしたオニキスであったが、体重の軽い彼女はその高速で羽ばたく羽が生み出す風圧で数メートル離れた草地まで吹き飛ばされてしまった。ノエルも吹き飛ばされはしなかったが、やはりその凄まじい風圧で身動きが取れない。2人が救出の手を拱いているうちにガガンボの化物はその脚にイチを抱えたまま大空の彼方へと飛び去ってしまった…。

「だ…大丈夫オニキス?」

ノエルが吹き飛ばされたオニキスに急いで駆け寄る。

「いてて…あたいは平気だけど、今のお化け虫は一体何なんだ!?」

「たぶん吸血鬼の手下だよ、だってあんな化物この森にいないもの。きっとイチをさらって彼女の生き血を吸う気だよ!」

オニキスの質問にノエルが顔を真っ青にして答えた。

「なんだって!?くっそ、命の恩人を吸血鬼のディナーにさせてたまるかってんだよ!行くぞノエル、一度村に帰って助けを呼ぼう」

「う、うん分かったよオニキス!」

これは大変なことになった、そう直感したオニキスとノエルは一目散に村へと引き返していった。



《蚊の妖精と森の奥の古城》


…暗い天井、冷たくて硬い床…自分が今いる所が小さな牢屋の中であることに気が付くのに目覚めてから随分と時間が掛かった。鉄格子の付いた窓から僅かな月明かりが差し込む、どうやら連れ去られてから長いこと気を失っていたようである。

「うーん…ここはいったいどこなんだろう?なんでぼくはここに…?」

背伸びして格子の間から窓の外を眺めながらイチは考える。目下には薄暗い森の樹冠が月明かりを浴びて深緑色の海を作っていた。

「あら…どうやらお目覚めのようね、よく眠れたかしら?」

見知らぬ声にイチが振り返ると、牢屋越しに一人の女性が立っていた。女性の右手に持たれた蝋燭の明かりが彼女の不適な微笑と白黒だけで彩られた体躯を照らし出す。

「まぁね、気分は悪くないよ。…まさか人生初飛行があんな形になるなんて、きっと神様も分からなかっただろうね」

そうイチが苦笑いしながら返事を返す。

「あはは、面白い娘。武器も取り上げられた状態でよくもまぁそんな余裕な態度が取れるのねあなた」

そう言って女性がイチの気を失っている間に没収した剣をチラつかせると、

「それを必要とする時はぼくにとっての最終手段の時だよ、いずれにしろ今は必要ないから手元になくても問題ない。それよりもぼくはあなたが誰で何をしたいのかに興味がある」

イチは相変わらずそうニコニコしながら答えた。どうやらこの状態では武器があってもなくても現状が変わらないのと、相手が自分に対してさほど殺意を抱いていないことをイチは本能的に察知したようである。

「へぇ、なかなか肝が据わってるじゃない。私はアノフェレス、まぁいわゆる蚊の妖精よ」

そうアノフェレスが自己紹介する。イチは彼女が言った蚊の妖精とゆうその言葉に聞き覚えがあった。

「それって確かノエルが言ってたっけ?吸血鬼がどーのこーのって」

「人々は私のこと吸血鬼って言うけど、蚊が血を必要とするときは子供を産むときだけだよ。生憎、私は妊娠中じゃない。あんたを捕らえたかったのは別の理由だよイチ」

「えっ、どうしてぼくの名前を?ぼくってそんなに有名人かなぁ」

「まさか違うよ。ちょいと頼まれたんだ、あんたとその仲間達を生け捕りにして突き出せばエルフの連中からこの広大な土地を取り返してくれるってな」

アノフェレスがイチの疑問に対してそう語った。

「誰に頼まれたの?」

イチがそう尋ねると、

「それは言えないよ、いちおう機密だからね」

アノフェレスが当たり前のように答える。

「悪いこと言わないからやめた方が良いと思うよそうゆうの。ぼくがあなたの立場だったらそんな口車には乗らないと思う」

「なんだい、小娘の分際でこの私に説教するのかい?」

イチがなんだか哀れみの眼差しで自分を眺めるのでアノフェレスは少々ムッとしたようだ。

「うー…まぁ確かにぼくにそれをやめさせる権限はないよね。ぼくをどうしようと勝手だけど友達に手を出すのはちょっと勘弁して欲しいな、どうせ目的の無い先の見えない旅の途中なんだしぼくが死んでもそう世界は変わらない」

彼女(イチ)の台詞にアノフェレスは少し驚いた。この何かを悟ったような感じの発言は今まで会ってきた人物とは少し違った不思議な印象を受ける。アノフェレスの心は何か得体の知れない未知の力によって大きく揺さぶられた。

「ふーん…あんたって本当に面白い娘ね。野郎に引き渡す前に色々話してみたくなったよ」

しばらくまじまじとイチを見ていたアノフェレスであったが、何を思ったか服の袖口から鍵を取り出すとそれを使ってイチの拘束されていた牢屋の扉を開けた。

「!」

「勘違いしないでよ、変な真似したらただじゃ済まないから。夕食がてら、ただ退屈凌ぎに色々話したいだけ」

急な展開に驚いた様子のイチにアノフェレスがそう念をおして言った。自分でもなんでこんなことをしているのかアノフェレスは自分で自分を理解できなかったに違いない。それでも自分相手に全く物怖じしないこの娘に少なからず驚きと興味関心を抱いてしまったことは間違いなかった。

「一緒に夕食を食べれるの!?わーい、楽しみだなぁ」

そう言って牢屋から出て無邪気にはしゃぐ彼女(イチ)を見て、アノフェレスも満更ではないようだ。どうゆう理由(わけ)か、アノフェレスにはどうしてもこの娘が放っておけなかったのかも知れない。



《感じるもの》


「いやぁ、良い湯でしたねロゼリアーヌ様!」

「ただのホテルの部屋付属の風呂で大袈裟だよサジ。…ま、退屈な長旅に入浴は欠かせんがな」

深夜、港町ポートリスのちょっと高級なホテルの一室でロゼリアーヌとサジが何気なく会話していた。無論、2人がこの町に来たのにはちゃんと理由(わけ)があってのこと。

「それにしてもどうして軍用機を使わなかったんですか?いくら西方とは言え仮にも帝国の領地だと言うのに」

「もちろんわたしだって使いたかったさ。…ただ、この件は色んな意味で極秘だ。軍の名義で動くわけにはいかないんだよ。じゃなきゃこんな列車と車を乗り継いで数日間の小旅行もどきなんてしていない」

サジの質問にそうロゼリアーヌが口を尖らせる。簡単に言えば単なる人探しなわけだが、何せ事が複雑になり過ぎた。

「全く…まさかグルス殺しの犯人と逃亡した亡国(アラカイト)の王妃が一緒にいるなんて。酷い運命の悪戯だなこりゃ」

ロゼリアーヌがため息混じりに言った。グルスの件についてはヴォルガノンと極秘に絡んでやったことなので本国に密輸のことを知られたくはない。王妃(リリア)については軍が正式に動いているが、それとは別働隊として自分と他にも数人が極秘に動いていることをコロッサルからは聞かされていた。要するに自分が一番先にイチ達一味を捕捉するなり消すなりしなければならないことになる。

「とりあえずアンダルシアに入った情報は得たが、どうやって探し出すかな」

「アンダルシアって一口に言っても広大ですからねぇ」

「全くだ、広大な内陸の未開拓の土地の何処を探せば良いのか検討もつかん」

ロゼリアーヌが大きなため息をつく。

「まぁ…こんなこと言ったら変かも知れませんが、私としてはこのままイチが見つからないで何処か静かな場所でひっそりと幸せに暮らしてくれればそれで良いのですが…」

サジがそう本音を漏らす。一度ならず二度も助けた少女を自ら捕らえに行くのにはやはり抵抗があるようだ。

「…お前の気持ちは良く分かる。ただ、三度目はもう無しにしないか?このまま彼女(イチ)を生かしておいてもお前の重荷が増えるだけだ。もちろん、私も無理に彼女を殺す気は無い。…ただ…」

「ただ?ただ何です?」

「いや、気のせいかも知れんが…あの娘は普通じゃない気がするんだ」

ロゼリアーヌがそう声のトーンを落として言う。

「私も始めてあの娘に会った時、何か特別なものを感じた覚えがあります。今となってはそれが何だったのか…いやいや、きっとそれでも気のせいですよ。あの娘はちょっと変わっているだけなんです」

サジは台詞の後半笑ってそう言った。

「あぁ、そうだな。きっと考えすぎに違いない。…もう寝よう、明日からはまた長い一日が始まる」

ロゼリアーヌのその言葉を最後に2人は眠りについた。


2人がイチに感じた不思議な感覚…この時はまだそれが単なる気のせいだと信じていた。しかし、この『違和感』が気のせいではなかったことを2人が知るのはもっとずっと後になってからのことなのです…。

《様々な人種》


今まで登場したワードだけでも「人間」「エルフ」「獣人」「魔族」など様々な種族がこの世界には暮らしています。基本的にはそれぞれの種族は仲が悪く、特に人間は過去の勢力争いに関係して他種族から嫌われています。物語では他にも様々な種族が登場しますが、特に人間と魔族の関係に注目して話が進んで行く事が多いようです。

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