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番外編 付き人の一日

こんにちは、ロゼリアーヌ様の付き人をさせて頂いているサジです。今回はどうゆう経緯かは知りませんが、主人であるロゼリアーヌ様のとある一日の暮らしぶりを私が紹介させて頂く事になっております。え〜…上手くは言えないんですが、とにかく最後まで飽きずに聞いてくださると嬉しいなぁ…なんて。そ、それではどうぞ本編をお楽しみくださいっ。

《午前7時・起床》


「…う〜んっ。良く寝た…のかな?」

まだ眠い瞳を擦りながら起き上がる。どうやら今日は良い天気なようで、閉まったカーテンの隙間から陽光が微かに差し込んでいた。しかし、すぐ近くでは私の主人(ロゼリアーヌ)がまだぐっすりと眠っている。

「やれやれ、相変わらず無節操な…仕方ない、今日もバリバリシャキシャキ働きますか」

そう私は自分に言い聞かせると、小さなバスケットを改造したベッドから洗面所へと飛び立つ。そこで手早く着替えや洗顔などの身支度を済ませる。…もたもたしていると不機嫌なロゼリアーヌ様がお目覚めになって大変なことになっちゃう。

「さてさて、お次は…掃除と洗濯と朝食の準備…あー忙しい」

忙しいとは言ってもそこは流石に私とて妖精の端くれ、全て魔法任せである。と言うか、この30cmほどの体ではいくら羽があって飛べるからと言って人間サイズの道具を扱うことはできない。台所に行って魔法を掛ければ道具達が勝手に料理を作ってくれるし、ほうきやぞうきんは自分達で家中を綺麗にしてくれる(広いから時間は掛かるけど…)。とりあえず、一通り道具達に魔法を掛けたらあとは自動的にやってくれるから心配はいらない。お茶やコーヒーを飲みながら朝のニュースや新聞を見てちょっとだけ休憩。…私にだって休む権利くらいはあっても良いと思う。

「むむ、また人間と獣人属の間で戦闘か…物騒な世の中で困るよ。あっ、もうこんな時間!そろそろロゼリアーヌ様を起こしに行かないと…今日は機嫌が良いと助かるんだけどなぁ…」

そう、一日の中である意味もっとも気の思い仕事に私はこれから行かないといけないのである。



《午前9時・苦労の始まり》


「…ロゼリアーヌさまぁ〜、起きてくださいよー。いくら休みの日だからって寝坊はダメですよ」

なるべく刺激しないように、私は優しく声を掛けながらベッドに無防備にも下着一枚で寝転がる彼女をそっと揺さぶる。…と言っても、何せ体が小さいから力いっぱい押さないと彼女の体はビクともしないわけだが。

「う〜ん…何だよサジ、もうちょっとくらい寝かせてくれたって良いじゃない」

そう言って彼女は背中を向ける。こんな風に駄々を捏ねるのはいつものことだ。

「ほぉら、もう朝食だって出来てますよ。昨日の注文通りレモネードもちゃんと作っておきましたから」

そう言いながら私は耳元を飛び回る。そう、聴覚の鋭い彼女にとってはこれが一番効果的な起こし方なのである。

「んん〜…分かったよ。分かったから耳元で飛び回るのは止めてくれ、羽音がうるさくてたまらん」

案の定、彼女は眠たそうに渋々起き上がるとシャワーを浴びに風呂場へと覚束無い足取りで向かっていった。…二十歳過ぎにもなって、下着一枚で。まぁ、スタイル抜群な彼女だからまだ許されるかも知れないが…一応既婚者であることを忘れてしまっては困る。今日は夫のカエサル様は出張とか何とかでいらっしゃらないけど、きっと彼女と結婚できたのはカエサル様だからこそなのだろうと私はつくづく思うのである。

「はぁ…カエサル様、早くお帰りにならないかなぁ…私じゃあロゼリアーヌ様を制御できそうにないです」

そうついつい愚痴が出る。何はともあれ、朝食の準備が整ったダイニングキッチンで彼女がシャワーから出てくるのを待つことにしよう。朝食が済んでしまえば、あとはゆっくりできる…はず。



《午後1時・書斎にて》


さてさて、私の主人(ロゼリアーヌ)は大変な勉強家である。…とてもその乱雑な言動からは想像できないくらいにね。朝食を食べ終わると彼女はすぐに自分の書斎に向かう。片付けは疎かでお世辞にも整理された場所とは言えないが、それでも大切な本が保管されている本棚だけは綺麗に生理整頓されているから不思議だ。そもそも、彼女は自分の執筆した著書から得る印税で生計の大部分を賄っている。歴史・神学・宗教・人間学・心理学・自然科学…その分野は多彩で、何度か受賞もするほどの文豪である。これも彼女が勉強好きだからこそ成せる業なのである。

…しかし、これは表向きの話。彼女の本職は政府お抱えの暗殺者(アサシン)である。政府、と言うか生みの親であるコロッサル様の命令で都合の悪い人間や団体を抹殺するのが彼女の専門。無論、このことを知る者は少ない。私もその数少ない人物の一人だ。これは最高機密であり、夫のカエサル様でさえ彼女が人間ではないことは知っていても彼女の本職が人殺しなんてことは未だに知らない。…まぁ、流石に10年以上の付き合いで培った信用は大きいようでおそらく私以上に彼女の事を知る人物はいないでしょう。

え〜…暗い話はさておき、少し彼女の勉強風景でもお話させて頂きましょうか。

基本的にあのお方は誰の講義も受けませんしノートも書きません、ただ単に自分の好きそうな書籍を読み漁るだけなんです。…御幣がありましたね、先程「勉強家」と言いましたがむしろ「趣味」と言った方が正しかったのかも知れません。本物の勉強家なら自分の苦手な教科も積極的にこなしますが、彼女は嫌いな数学や物理などに関しては一切触れることはありません。そして本を読むときには必ず立ち読みです、椅子がないわけでもないのに座って読むところを私は見たことがありません。いや、もしかしたら私の見ていないところで座っているのかも…でもそれはないでしょう。何故ならばいつ彼女にコーヒーや紅茶のお代わりを催促されても良いよう、今もこうしているように常に私は同じ書斎で待機しているからです。その間、私は編み物をしたり書斎を見て回ったりしたりしています。主人に本の内容を聞いたりと話しかけることもありますが、今は何やら難しそうな地理と歴史に関する本を真剣に読んでらっしゃるようなのでやめておきましょう。

…要は特に買い物などの用事がなければ私は四六時中彼女と一緒にいるわけです。



《午後4時・ティータイム》


「全く、最近の若者はなっとらんよ。ファッションだとか恋愛にばかり夢現を抜かしやがって。もっと面白いことに精を出せないのかね?」

主人はそう言って紅茶を啜りながら理不尽と言うかよく分からない愚痴を私に言う。まぁ、普段から家着がTシャツとジーパンの人にファッション性云々を語れる資格があるのかどうかは分からないが…何を着ても似合う彼女の抜群のスタイルを持ってすれば一理あるのかも知れない。

基本的に彼女は昼食を取らない(私はお腹が空くから食べるが…)。その代わり、テラスなどで午後三時くらいからお菓子やお茶を嗜むのが習慣となっている。当然私も同席するわけだが、とにかくこの時の彼女はよく喋る。もちろん良い話も沢山あるわけだが、大抵は私のような常人には理解しがたい理念を延々と語る。…今日は今の若者と社会の在り方に対しての不満に関する講義だ。

「大体だな、社会の教育が悪いよ。みんな自分勝手な理論ばかり展開して協調性がないからいつまでたっても世界が平和にならないんだ」

「まぁそりゃそうかも知れませんが…考え方なんて人それぞれでは?」

「そうゆう甘えがダメなんだよサジ。それが分かっているなら少しでも相手と考えを同調させられるように努力しなきゃ」

確かにその通り。でも、それは彼女にも同じことが言えるのでは…?あぁ、それでもまだ死にたくないから黙っておこう。主人に向かって『お前こそ頑固で強情でワガママで自己中心的性格極まりない野朗だ』なんて口が裂けても言えない。

「あぁ、嘆かわしい世界だよホント。いっそ核戦争で滅びちゃえばいいんだ」

いやいや、そんな結論はダメでしょ。

結局、私はこんな内容の話を一時間以上聞かされ最後には無理矢理納得させなれる。いや、例え反論しても素晴らしいマシンガントークでねじ伏せられるのは分かっているから逆らわない方が利口だ。

…最近では、特にストレスも感じることなく彼女と会話できる自分が怖いと感じるのは果たして気のせいだろうか?



《午後6時・秘密の外出》


「じゃ、悪いけど後のことは頼んだよ。一時間くらいで戻るから」

そう言って主人は愛車の赤いスポーツカーに颯爽と乗り込むと夜の帳が下りたばかりのインベリスの町へと繰り出していった。

「ロゼリアーヌ様、今日は何をお買いになるのだろうか…」

通常、休日であれば彼女は夕食までの時間を書斎かお庭で過ごされる。しかし、何か欲しいものがあるときは大抵夕刻くらいにインベリスへ車で行かれるのだ。それと言うのも、彼女がよく行くインベリスの旧市街にある闇市場は夕方以降にしか営業していない店舗が多いからである。そこでは違法な商品やら何やらが世界中から集まっている。麻薬から機密文章のコピーから人間の死体まで、表世界から見たら有り得ない物が当たり前のように売買されている。何度か彼女と一緒に訪れたこともあるが、あそこだけはいつまでたっても慣れる気がしない。…だってさ、妖精のホルマリン漬けとか見ちゃった日にはまさに悪夢以外の何物でもないよ。

そんな違法な闇市場が政府に黙認されているのも同然なのは、実は主人が裏で色々と根回しをしているからである。コロッサル様繋がりで色々と政治に介入しているのだ。彼女としては、こんな面白くて素晴らしい場所を無くすなんてとんでもないと言ったところだろうか。事実、彼女は闇市場でよく非合法の書物を大量に購入してくるし、今日もおそらくそんな感じの目的で向かったはずである。…権力とはつくづく恐ろしい。

さて、おそらく上機嫌で帰ってくるであろう主人のためにも急いで夕食の支度をしなければ。今日の夕食の席では闇市場の珍しくて面白い話がいっぱい聞けるので私も楽しみだ。…ただ、先日のように食事中にも関わらず人間の胎児のミイラについて熱く語るのはやめて欲しいが。



《午後8時以降・夕食後〜就寝まで》


主人の夕食後の行動は日によってまちまちである。昼間のように書斎にこもって読書にふけることもあれば、今日のようにお酒を飲みながらリビングで私と一緒にテレビを見ることもある。

「ははは、バカだねぇ。こんなに上手く段取りがいくわけないじゃんかバァーロォ」

…ワイングラスに満杯の赤ワインを一気に飲み干しながら、恋愛ドラマの1シーンについて貶すのは彼女の特技だ。

まぁ要は普通の人が夜寛ぐのと同じようなことを主人は夜中までやるわけで、それが一段落すると入浴タイムだ。彼女は大変な風呂好きだから二時間は浴室から出てこない。時々私も一緒に入る(そのくらい仲の良い間柄なんだよ)のだが、その度に逆上せて酷い目に会う。さすがは炎属性と言うか、暑さに関しては滅法強いみたい。大抵、私が風呂から出てバルコニーで夜風にあたって体が冷めるころには日付が変わっている。

「ささ、もう寝る時間ですよロゼリアーヌ様」

「え〜、まだ眠くないよ」

「ダメですよ、夜更かしは美容と健康の大敵なんですから!さっさと着替えて寝てください」

…夜型の彼女をベッドに寝かせるまでには相当な苦労が伴うのは言うまでもないだろう。それでも強制的に寝かせないと、ただでさえ大変なのに明日の朝起こすのが余計に大変になるから仕方ない。

「はぁ、分かった分かった。もう寝るよ、寝ればいいんでしょ」

そう言って渋々ベッドにもぐりこむのはいつもの事。私も寝巻きに着替えてバスケットを改造したベッドに入る。

「…なぁサジ、お前は今の自分の人生を幸せだと思うか?」

ベッドに入って早々、彼女はそんなことを言った。眠れない主人のために、就寝前にちょっとだけ雑談をするのが私達の約束事みたいになっている。

「ええ、もちろん幸せですよ。あなたのもとで何不自由ない楽しい生活を送ってます」

…今までの経緯から想像される感情とは真逆に思われるかも知れないが、その言葉に偽りはない。私はこの人と一緒にいることを心底嬉しく思っているし、それ以上に誇りに思っている。

「そっか、わたしもだよ。お前と出会えたし、結婚も出来た。何も困ることなんてない、今の生活が最高に幸せさ。…だから、もしこの生活が脅かされるようなことがあればわたしは全力でそれを阻止するだろう。今となっては何一つ失いたくないんだ」

たまに、彼女は不安気そうな言動をすることがある。誰にでも怖いものはあるもの、力を持った彼女だからこそ別の恐ろしいものが見えてくるのかも知れない。

「大丈夫ですよ、誰も私達を邪魔することはできませんから。如何なる時でも私達には安泰が保障されてますよきっと。だから心配しないで、もう寝ましょう…おやすみなさいませロゼリアーヌ様…」

「あぁ…おやすみサジ…」

その後は特に会話もなく、そのままゆっくりと眠りへと落ちていく。

…こうして私達の一日は幕を閉じるのである。


今思えば、彼女無しの生活なんて私には最初から有り得なかったのかも知れない。もしあの時、まだ幼くて髪が赤かった頃の可愛らしい彼女に命を救われなかったら…そう考えると夜も眠れない。私の人生は彼女によって引き伸ばされたようなもの、その伸びた分の時間は彼女のために使おうと心に決めている。だから例え如何なる天変地異が起ころうとも、私は彼女のために存在し続ける。そう、これからもずっと…。

いかがでしたか?とりあえずロゼリアーヌ様がかなり特殊なお方であることだけは分かって頂けたかと思います。…え?私が付き人になった経緯はって?うーん、あんまり明るい内容じゃないんですよねぇ…話すと私自身の辛い思い出話になっちゃいますし、このエピソードはまた別に機会にお話することにしましょう。

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