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出会いの章 第七部 檻の中の獣

前回からだいぶ空いてしまいましたがやっと更新できました…すいませんorz

それでは早速どうぞ!

「うーむ…国政が切羽詰っているこんな時にリリアはいったい何処をほっつき歩いておるのだ!?城を勝手に抜け出しておいて一週間も帰らないとは!」

…ここはアラカイト国の中心、城下町ポーリーを見渡す丘に建つファルト城の謁見の間である。そこにある玉座の前を、金の王冠(クラウン)をかぶった中肉中背の男が怒ったような心配したような、何とも複雑な表情を浮べながらウロウロ歩き回っていた。

「まぁまぁ、カタル様。姫様のことですじゃ。そのうちひょっこり帰って来ますよきっと」

脇に居た小太りの大臣らしき人物がそう宥める。

「それと昨日捕らえられた獣人の件ですが…」

大臣が続けて言うと、

「あぁ、昨日のか。それは相手の言い訳を聞いてから適切な処分を下すことにする」

別にどうでもいいような素っ気無い返事を大臣に返す。カタルはどうやら今は愛娘(リリア)のことで頭がいっぱいで、地下牢に閉じ込められている獣人のことなど考えている暇はないようである。

「はぁ…リリアは死んだ妻とは違って、えらいおてんば娘に育ってしまったものだ。もう少し一国の姫としての自覚を持ってもらわなければ困るのだがな…」

カタル王がついついそんな愚痴を漏らしている時であった。突然謁見の間に一人の若い兵士が息を切らせて飛び込んできた。

「で、伝令!ポーリーで姫様を発見したとの情報が!現在こちらに向かっているそうです!」

「何!?そうか、ようやく帰ってきたかあのバカ娘が!わかった、わしもすぐに下に降りる」

兵士の知らせを聞いたカタルは顔色を変えて駆け足で二階にある謁見の間を抜け出し、城の正面玄関へと向かって行った。



《ファルト城の地下牢》


「…コラー!昨日から水も飯も抜きとはどーゆーことだー!おーい、あたいの言う事が聞こえないのかー!?」

…返事は無い。その高くて澄んだ叫び声がただ単に虚しく暗い空間に木霊するだけだ。

「う〜…くっそー、二足歩行の猿共め〜!出せっ、今すぐここからあたいを出せ〜!!」

狐のようなその人物は飛び跳ねて喚いてみるが、当然その言葉に答えるのは相変わらずぼやけた木霊だけである。

ここは城の地下牢、石で作られた壁がむき出しの暗くて冷たい牢屋には一匹の小さな獣人が捕らえられていた。身長は100cmあるかないかで半ば金色に近い薄い茶色のショートヘアー、同じく薄い茶色をした大きな三角形の耳は顔よりも大きくフサフサとした尻尾はまるで狐のそれを思わせる。鉄格子のはめられた小さな窓から差し込む光を受けた瞳は金色に輝き瞳孔は比較的細長い。八重歯は鋭く尖って少し大きく爪も短いが鋭い、まるで肉食獣のようである。何処かの民族衣装のような変わった服を着ているが、少し砂や泥でついた汚れが目だっていた。

「ハー、ハー…だ、ダメだ。呼べど叫べど誰も相手にしてくれない。これじゃあ、腹が減る一方だよ」

さすがに疲れ果てたのだろう、彼女はその場に座り込んでしまった。

「白馬の王子様でもロバに乗ったジジイでも誰でも良いからここから出してくれないかな…そうでなきゃ野蛮な人間共に毛皮にされちゃうよきっと」

そう言って彼女は天上を見上げる。…虚しい暗闇だけが彼女を見下ろしていた。




《姫の帰還》


「ほえ〜、あれがリリアの家?大きいというか何と言うかお城だね」

大きな馬車の荷台に揺られながらイチが目の前に見えてきた城を見て言う。

「そう?私には普通の実家にしか見えないんだけど」

「よく言うぜ。これだから姫様ってのは…」

リリアの発言に貧乏性のエンドラーズがそう愚痴をもらす。

アラカイト国内に入った三人はいくつかの小さな村や町を経由してこのポーリーの町にやってきた。そして、町で非番をしていた兵士にリリアが城までの送迎を頼んで今に至っているわけである。

「…で、きっとカンカンに怒っているだろう王様になんて良いわけすんだよリリア?まさか俺達が土下座しろなんて言うんじゃねぇよな?」

「何よ、そんなことさせるわけないでしょエンドラーズ。城を抜け出した理由はゲリラの活動に参加することだったけど、そんなことを言う訳にもいかないし適当に私が誤魔化すわよ」

「ぼく達のことはどう説明するの?」

「心配いらないわ、とにかくあなた達は黙ってて。余計なこと喋ると話が拗れるから」

「なんだよその言い方…お姫様は俺達に喋るなって言ってるぜイチ?」

「え、いいんじゃないの?楽だし」

「…あ、そ…」

「ふふ、どうやらイチは貴方(エンドラーズ)と違って素直なみたいね」

「ちぇっ、面白くないの!」

そう舌打ちをすると、不機嫌になったエンドラーズは荷台の積荷にもたれ掛かって不貞寝を始めた。

「あらら…エンドラーズって意外と子供っぽいんだね」

「はははっ、それを聞いたらさぞかし怒ると思うよイチ」

イチの一言にリリアが思わずそう笑ってしまったのは言うまでもない。

やがて三人を乗せた馬車は城の門までたどり着いた。既に連絡を受けていたのだろうか、普段は固く閉ざされているはずの防護門が口を空けて待っていた。そこを潜って花壇と噴水で飾られた前庭をしばらく進んでいくと、そこには数人の兵士と共に王冠をかぶった人物が立っていた。

「リリア!このバカ娘が、今まで何処に行っておったのだ!?」

「お父様…。ど、何処に行ってただろうが私の勝手でしょ!?私だってもう子供じゃないんだから!」

憤慨した様子のカタルに対して、リリアが馬車の荷台から飛び降りてそう反撃する。

「なんじゃと、それが父親に対して言う台詞か!?」

「何よ、今まで国のことばかり考えてろくに家族のことなんか考えたこと無いくせに!今までに私に父親らしいことしてくれたの?…イエスとは言わせないわよ」

「ぐ…」

さすがのカタルも、リリアの物凄い剣幕にタジタジのようである。どうやら彼女の言う事が正しくて、自分でもこれ以上釈明の余地がないと思ったのだろうか。

「ま、まぁまぁ二人共。よかったではないですか王様、姫様が無事に帰ってきてくださって。それだけで何よりではないですか」

険悪な雰囲気をなんとか和ませようと、そばにいた護衛長らしき兵士が仲介に入る。

「そ、そうだよ二人共!こうゆうのって後の祭りっていうじゃん?…、…あれ、ぼく何か変なこと言った…のかな??」

…同じく場を和ませようとして荷台から降りてきたイチの会心の珍回答に一瞬周囲がしらけた後、

「えーと…リリア?こちらの方はどなたかな?」

カタルがそうリリアに聞いた。

「え、あぁ、この人はイチ…で、そっちの荷台で寝ているのがエンドラーズよ。二人共私がここまで来るのをサポートしてくれたんだから歓迎してあげて」

「おお、そうかそうかあなた方がリリアを…ようこそファルト城へ、私は国王でリリアの父親のカタルと言います。歓迎しますぞ。ささ、この方達も一緒に城の中へご案内するのじゃ」

カタルがそう言った。

「…というわけだから、イチはエンドラーズを起こして先に行っててよ。お父様のお説教受け手から夕食までにはまた会えると思うから」

「リリア…お姫様ってのはみんなこんな嘘つきで臨機応変なの?」


…イチがリリアの立ち振る舞いに苦笑いしたのは言うまでもない。




《純水無垢と天邪鬼》


「あーぁ…退屈だな。こんな広い部屋にフカフカのベッドじゃ落ち着いて眠れないよ」

時計が午前二時を指す頃、イチは半袖短パンとゆう軽装でベッドの上に仰向けになって天上を何を考えるわけでもなく眺めていた。

ファルト城でのイチ達に対する持成しは凄かった。イチとエンドラーズには豪華な部屋を一人一部屋ずつ用意され、お付のメイドさんまでいた。だから夕食までの時間、何一つ不自由なく二人は快適に過ごすことが出来た。ちなみにイチは部屋に置かれた珍しい時計やら置物やらを不思議そうにひたすら眺め、エンドラーズは可愛いメイドさんと話して満足した後に昼寝を楽しんでいたようだ。夕食は別室の大きなテーブルを王様やリリアと囲んで一緒に食べた。その席で王様は上機嫌でこのアラカイトの歴史について語ってくれた。意外と博識なエンドラーズはその話を熱心に聴いているようだったが、歴史に興味の無いイチには何を言っているのかさっぱり解からなかった。それよりも、カタルに説教されたであろうリリアが不機嫌な様子で一言も喋らなかったのがイチにはとても印象に残ったようである。食後のイチは再び部屋に戻って置物をいじってみたり窓から望む城下町(ポーリー)の夜景を楽しんでいたが、やがてそれにも飽きてしまって今に至っているわけである。

何とか眠ろうと彼女も目を閉じてはみるがやはり頭が冴える。…こうなるとイチの悪い癖が出る。

「エンドラーズは人の家だからあんまり出歩くなって言ってたけど…ちょっとくらいなら問題ないよね、誰かに見つかってもトイレの一言で解決だもんね」

イチは興味で動く人間だから、初めての場所を探検せずにはいられないタイプ。こうなるのは当然と言えば当然かも知れない。彼女はベッドから飛び起き、おやつ代わりにテーブルの上にあった美味しそうなリンゴを一つ手に持つと足取り軽く部屋の外へと繰り出していった。

「ほえ〜、何と言っても広いね。…ちゃんと部屋に戻れるか不安になってきたよ」

当然、多くの人は就寝している時間だから人影も無く廊下も消灯され薄暗かった。所々部屋から明かりが漏れていて、イチはそのわずかな明かりを頼りに進んで行った。部屋の立ち並ぶ二階から階段を下り、一階もウロウロしてみたが特に彼女の興味を引くものは見つからなかった様子。

「うーん…別に変わった所はないなぁ…そうだ、あそこは?昼間から気になっていたんだよね」

彼女の言うあそこ、それは地下へと続く階段のことであった。実は昼間、城の中を案内されている時に一階の裏口近くに怪しい階段があるのをイチはしっかり見つけていたのである。彼女の観察力には何処か人間離れした才能があることは彼女自身も含めて誰も知らないようだが…。とにかくそこの存在が無性に気になった。

「さすがにあそこは入っちゃいけないような気がするんだけど…まぁ、誰も見張りがいなかったら入っても良いってことにしようか、うん」

そう都合の良い解釈をして、彼女は目的の場所に向かった。幸いと言うかなんと言うか、そこには誰もおらず地下へと続く石の階段がポッカリと暗い口を空けていた。

「…暗い…けど全く見えないってわけでもなさそう」

そう、今宵は満月の日。だから妙に月が明るくそれが彼女の視覚を助けてくれた。そんな窓から差し込む月光を頼りに、彼女はその階段を一歩一歩慎重に下りていく。そして、階段を下った先では不思議な光景が彼女を待っていた。

「なんだろうここは…牢屋…?」

半分地下に埋まった感じで設置されている牢獄の高い所にある窓からは月の光が差し込み、牢獄内にいくつもの光の帯を形成していた。一見すると、それはまるで神々しい光が差し込む神聖な神殿のようにも見えるほどイチの瞳にはそれが美しく移った。

「…おい!そこに誰かいるのか!?」

イチが差し込む月光の美しさに見惚れていると、誰かがそう呼びかける。

「へっ!?見つかったかな…」

彼女が驚いてキョロキョロしてみると、一番奥の牢屋から小さな肉球のついた猫のような犬のような手が手招きしているではないか。

「あ、あれ?何だろう…??」

イチが恐る恐るその檻の前まで行ってみると…そこには小柄な獣人がいた。

「わ!犬だ!」

「だっ、誰が犬だよこのマヌケな猿めっ!ちゃんと見ろちゃんと!フェネックって知らないのかよ…って、お前誰だ?城の人間じゃなさそうだけど?」

イチを見て獣人はそう問いかけた。

「ぼくはイチだけど…えっと、今日はいちおうリリアのお友達として城に…」

「はいはい、長い説明はいらないよ。要は客人ってわけか、気楽で良いねぇ人間は」

「え、まぁそうゆうことだけど…君は?」

「あたいかい?あたいはオニキス、見たまんまの獣人さ」

「獣人?獣人ってあの…」

「そうさ、この世界の真の住人。人間や魔物がこの世界にやってくる前からこの世界に君臨する誇り高き民族さ」

「いや、まだぼく何も言って…」

「それが今じゃこのザマだよ!ちょっと店先の鶏に手を出したらこんな所に放り込みやがって、畜生め。人間のくせに生意気なんだよ、キ〜ッ!」

オニキスはそう地団駄踏んで悔しがる。

「とにかく落ち着いてよオニキス。歴史的に見て獣人が人間嫌いなのはわかるけど、人の物を勝手に取ったりしたらダメでしょ?」

「だー、気安く名前を呼ぶな人間!そもそもだ、あたい達の家である森や草原を開拓するからいけないのであってあたいは何も悪く…」

そこまで熱弁したところで、オニキスの視線があるものに釘付けになった。…視線の先にはイチの手に握られた一個のリンゴが。

「…え、リンゴがどうかしたの?」

「そ、それを…いや、相手は人間だしいくらなんでもそれはあたいのプライドが許さな…」

「食べたいならあげるよ。はい、どーぞ!」

「はい食べますっ!ぜひいただきますっ!」

もはやオニキスのプライドは何処へやら。鉄格子越しにイチからリンゴを奪うように受け取ると貪るようにそのリンゴを食べる。

「バリバリムシャムシャシャクシャク…ゴックン…ぷはー!ありがとうな人間、おかげで生き返ったよ〜」

「いえいえ、どういたしまして」

「…って、勘違いすんなよ。あたいは決して人間にお礼など言わないからな!」

「え、今ありがとうって言ってなかった?」

「う、うるさい…気のせいだ、うんきっとそうに違いない」

オニキスが恥ずかしそうに勝手に自問自答して頷く。

「ねぇねぇ、尻尾触らせてよ〜!なんかフサフサで気持ち良さそう」

突然、イチがそう言いだしたのでオニキスは驚いて尻尾を自ら抱えてこう言い放った。

「はぁ!?急になんてこと言うんだこの毛皮らしい…じゃなくて、汚らわしい人間め!お前らに触らせる尻尾なんてあるかっ」

それでも、どうしてもそのフサフサとした尻尾が触りたいイチは…

「え〜、ケチだなも〜…せっかくリンゴあげたのに恩知らずな人だなぁ」

と、意外と良心的だと見たオニキスにカマを掛けてみる。

「け、ケチ…恩知らず…!?そんな風に言われるとあたいの良心が揺らぐじゃあないか」

案の定イチの言葉がよっぽど気に触ったのか、オニキスはこんな事を提案した。

「よ、よしじゃあこうしようよ。あたいをここから出してくれたら尻尾触らせてあげるよ」

「出すって…どうやって?罪人として捕まっているのに?」

「それは何とか考えてよ…とにかく、出してくれないことにはあたいは人間じゃないしどんな仕打ちを受けることか…」

先程とはうって変わって深刻な表情を浮べるオニキスを見て、

「う〜ん…わかった。何とかリリアに相談してみるよ」

イチも彼女の解放に協力することにしたようだ。

「さっすがイチ!やっぱり普通の人間とは違って見所がある奴だと思っていたよ!」

オニキスはイチを煽てるつもりでそう言ったのだが、イチの口からは思いもよらない言葉が返ってきた。

「…あぁ、やっぱりそうなんだね。みんなぼくのことを『普通』とは言わないんだ…」

「え?」

「あ、ごめん。何でもないんだ、独り言だよ独り言!じゃね、また明日できたら会おうねオニキス。…おやすみ!」

そう言ってイチは笑顔で元来た道をやや駆け足で戻って行った。

「なんだろう…あたい何か傷つくこと言ったのかなイチに…」


…その夜、オニキスはさっきイチが一瞬だけ見せた悲しげな表情と『誰もぼくのことを普通とは言わない』とゆう言葉が気になって眠ることができなかった。



彼女(イチ)が言ったその言葉に、一体どんな意味が込められているのだろうか…?

いかがでしたか?

今回も意味深な感じで終わってしまいましたが…次回は波乱に満ちた展開を予定しておりますのでお楽しみに。最後にリリアの簡単なプロフィールを添えて終わりにさせていただきたいと思います。今回も本作品を読んでくださってありがとうございました。



リリア


性別:♀

身長:160cm

職業:アラカイト国の王妃

髪色:ブロンド


少々気の強いところはあるが基本的には優しく気も利く良い娘である。多少の魔力を持ち初級レベルの簡単な魔法なら使える。武器の扱いにも長け、意外と戦闘能力は高いようだ。常識や歴史などに精通する文化人でもある。

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