出会いの章 第五部 闇の発端
執筆一周年にしてようやく10話目です。更新が遅くて数少ない読者の皆様には大変申し訳なく思っておりますが、ノスタルジアが完結するまではもう少しこのペースにお付き合いくださいませ。…お願いだから見捨てるなんていわないで(苦笑)
「いたぞっ!あそこだ!とまれそこの…」
「やかましい!喰らえっサンダーボール!!」
バチバチバチー!!
「うぎゃあ!」
エンドラーズの放った電気の球が、走っていた3人の目の前に現れた4人の兵士を吹き飛ばした!
「さすがエンドラーズ!派手にやるね」
イチが走りながらそう手を叩いて言った。
「学校では人間相手に使うなって言われてたからな。一度やってみたかったんだよな〜」
エンドラーズは上機嫌にそう笑う。
「何呑気な会話してんの!早く出口を見つけて脱出しないといけないってのにもう!」
リリアが能天気な二人にそう激を飛ばした。
三人が地下牢を脱出してから十分が経過しようとしていた。石造りの薄暗い廊下の中、三人はエンドラーズの魔法攻撃で敵側の兵士達を蹴散らしながら砦の出口を探す。幸い、深夜であったため警備は手薄のようである。正直、この時は三人ともこのまま順調に砦から脱出できると考えていたのかも知れない。しかし、そんなに甘いものではなかったことを三人の少年少女は後々知ることになるのである…!
《ヴォルガノンの部屋》
「ええい、たかだかガキ3人に何を手間取っている!さっさと捕らえんか!」
イチ達の脱獄の知らせを受けてヴォルガノンは兵士達に彼女らを捕らえるように命令していたが、うまく捕らえられない現状にイライラしていた。
「そ、それが…魔法使いらしき人物がおりまして我々はことごとく…」
報告に来た兵士がそうヴォルガノンに言った。
「この役立たず共め!もうよい、この俺様が直接出向く!」
ヴォルガノンはそう乱暴に吐き捨てると部屋を早足で後にする。
「…おのれ、下等生物共め。我々との力の差を思い知るがよい…!!」
《ロゼリアーヌの部屋》
「…起きていますかロゼリアーヌ様?」
「…当たり前だ。うるさくて眠れやしない」
サジの問いかけにロゼリアーヌはそう答えた。
…ここは砦の客室。ロゼリアーヌは下着姿に薄い掛布団を身にまといベッドの上に横たわっていた。そして、サジは近くの机の上にいつもの持ち運び式の可愛らしいベッドを置いてその上に寝ている。部屋の照明は全て消されていたが、窓から差し込む星と月の光で部屋の中はお互いの姿が目視できる程度に薄明るくなっていた。砦の中が妙に騒がしくて寝られない2人ではあったがその理由を知っていたので特別驚きはしなかったし、別段起き上がるつもりもないようである。
「…なあ、サジ」
「はい?」
「運命って信じるか?」
「そうですね…半分半分と言ったところでしょうか?運命はあると思いますが、それを形作るのは本人だとそう思います。何故そんなことをお聞きに?」
「…いや、なんでもないんだ。もう寝よう」
「そうですか…おやすみなさいロゼリアーヌ様」
「おやすみ」
そう言ってサジは首まで布団を被ると蚊の鳴くような小さな可愛らしい寝息を立てて眠りについた。…しかし、ロゼリアーヌは相変わらず眠れなかった。そして、別にそれは砦が騒がしいからではなかった。彼女には考えることが多過ぎた。元々考え事の好きな彼女ではあったが、夜寝る前に考え事をして眠れないこともしょっちゅうあった。昨日のこと、今日のこと、明日のこと…考えることは山ほどあったが、今彼女が一番気にしているのはイチのことであった。彼女は出会った当初からその白金色の髪をした少女に違和感を感じていた。別にそれは彼女の容姿や性格が変わっていたからではない。彼女自身にもよくわからない、何かもっと深いところで曖昧で複雑なものを感じたのである。それがどんな感情なのかはよくわからない。しかし、彼女がイチにかまけているのは確かであった。何故か彼女はイチを失いたくなかった。だから、今回も従者を通してではあるが脱獄の手引をしたのである。それはもしかしたら、人間誰しもが心に持つ『興味感心』に近い感情がイチに対して芽生えたのかも知れない。どうしてそんな感情が芽生えたのかはわからない。でも、イチがそれだけ普通の人間とは『何処か』違うことだけは確かなようであった。彼女はイチが何者なのか…それを見定めたいと思っているのだ。
「…わたしはどうかしている。たかが人間の小娘に振り回されるなんてな…」
…そう呟くと、彼女は静かにその深紅の瞳を閉じるのであった…。
《強敵現る》
「ねえねえエンドラーズ」
「ん?なんだ?」
「ぼく達さっきからここに連れられて来た道とは違う道を走っているけど…なんで?」
「あのな、正面の出口から出るバカが何処にいるんだよ?こうゆう場合は裏口を探して出るのが常識なんだよ」
エンドラーズがそう呆れて言った。
「あっ、なるほど」
「でも…肝心の裏口が何処にあるか分かるのエンドラーズ」
リリアがそう聞くと、
「…知らん」
エンドラーズはそうキッパリと答えた。
「はー…絶望的ね」
リリアはそうため息をつく。
三人は相変わらず薄暗い通路を駆け足で進んでいた。幸い、兵士達にはあまり遭遇しなくなってきていた。通路自体も狭く作りが乱雑になりつつあり、あからさまに砦の裏側であることには間違いはなさそうである。
「それよりもさリリア、ちょっと聞いていいか?」
「何よエンドラーズ、こんな時に?」
「さっき捕らえられた時に何人かの兵士がお前のこと姫だとか何とか言ってたけど…何でだ?」
「あぁ、言ってなかったっけ?私実は…」
リリアがそう言いかけた時だった、先頭を走っていたエンドラーズが急に止まった。後続を走っていたイチとリリアが慌てて急ブレーキをかける。
「え?どしたのエンドラーズ?」
イチがそう聞くと、
「…まずったな」
エンドラーズが眼光鋭くそう答える。…その視線の先には漆黒の鎧で身を固めた大男が立っていた。
「ほほう…まさかここまで無傷でたどり着くとはな。人間ながら素晴らしいことよ」
大男はそう人間のものとは思えないような不気味な声で語りかける。まるでフルフェイスの兜から覗く赤い瞳が、こちらを見下すように。
「ヴォルガノン…」
「知っているのかリリア?」
「ええ…この辺り一帯の侵略と管理を帝国政府から任されている奴よ。…そして人間じゃない」
「は!?」
その言葉にエンドラーズは驚く。
「ふはは、これはこれはアラカイトの姫君。よく知っているな」
ヴォルガノンは笑いながらそう言う。
「ねえねえ、ぼく達裏口を探してんだけど…知らない?」
イチがそうヴォルガノンに聞く。…どうやら、彼女にとっては相手が誰であろうとあんまり関係無いらしい。
「…ほう、そうかこいつが例の…裏口ならこの先だ。だがそこにお前達がたどり着くことはない。ここで死ぬのだからな」
ヴォルガノンはそう吐き捨てる。
「野朗!魔法使いをなめんなよ!サンダーボール!!」
怒ったエンドラーズが呪文を唱えると、黄色い電気を帯びた弾がヴォルガノンに向かって一直線に飛んで行く!
「…やれやれ、なんと醜い悪あがきを」
そう言ってヴォルガノンが右手をかざすと、なんと弾は軌道を180度変えてエンドラーズに向かってきた!!
バリバリバリー!!!
「うわぁ!!」
エンドラーズの体には物凄い電撃が迸り、彼は地面に叩きつけられてしまった。
「エンドラーズ!」
イチとリリアが慌てて彼の元に駆け寄る。
「だ、大丈夫?」
イチがそう心配そうに聞くと、
「へ、へえきへえき。だいしょうぶあよ」
と、しびれて呂律が回らないながらも左手の親指を立ててそう言った。
「この!よくもエンドラーズを!」
イチはそう剣を抜くとヴォルガノンに思い切り切りかかる!
「ふん、愚かな…」
ガキィィィン!!!
「うわあ!」
勢い良く切りかかったイチではあったが、ヴォルガノンの右手にいとも簡単に跳ね飛ばされてしまった。
「いてて…むー、あいつ強いなぁ」
イチが頭を撫でながらそう言う。
「バカ!あいつはそんじょそこらの連中とはわけが違うの!」
リリアがそう言った。
「ふはは!その通り。俺はお前ら下等な人間とは違うのだよ。…さて、遊びは終わりだ…死ね!!」
そう言って呪文を唱えると、ヴォルガノンの左手から三人に向かって炎の弾幕が無数に飛び散る!!
「そうはさせないわ!」
リリアがそう言って両手をかざすと、淡い光の壁が三人の目の前に現れた!炎の弾幕は全てその光の壁に当たって砕け散る!
「ちっ…」
ヴォルガノンが舌打ちする。
「あんまり一国の姫をなめない方が良いわよヴォルガノン?」
リリアがそう挑戦的な笑みを浮べながら言った。
「ほざけ!人間風情がこの俺に勝てるとでも思うてか」
ヴォルガノンがそう怒鳴る。
「…なんだか言っている事がちんぷんかんぷんだよ」
「ああ、俺にもさっぱりだ」
リリアとヴォルガノンのやり取りの後ろで、イチとエンドラーズは首を傾げる。
「悪いわねヴォルガノン、今あなたと殺り合っても勝ち目は確かにないわ。だからここは一度引かせてもらうよ」
そう言って、彼女はスカートのポケットから何か丸いものを取り出した。
「イチ!エンドラーズ!走って!!」
そう叫ぶとリリアはその丸いものを地面に投げつけた!その瞬間、薄暗かった廊下を凄まじい閃光が迸る!!
「ぐわあ!閃光弾か!!」
物凄い光のせいでヴォルガノンの視覚は一瞬奪われてしまった。…誰かが慌しく走り去る音が廊下を木霊する。
「ぐおお…おのれ、小癪な真似を…!!」
ヴォルガノンがようやく視力を取り戻す頃にはもう誰もいなかった。悔しさのあまり彼は思い切り壁を殴りつける。壁は抉られ、瓦礫が崩れるような音が砦中に響き渡った。
「おのれぇ人間共の分際で…奴ら、絶対にとっ捕まえて腸を抉り出してくれる…!」
禍々しいオーラを放ち、ヴォルガノンはそう歯を食い縛り拳を地面に叩きつけながら言うのであった…。
小説を書き始めてから一年半が経とうとしております作者ではありますが、相変わらず難しい作業ですね執筆は。特に未だに情景描写が書けない。戦闘シーンとか頭抱えちゃいます。後で自分で読み返してみても明らかに地の文章が少なくて説明不足だなぁとつくづく感じます。人気作を読んでみるとやっぱりそこんところが桁外れに上手いです。ストーリーやキャラクターがよくてもなかなか人気出ないもんですよねやっぱり(泣)日々精進です。