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欲
甘い。
それを教えてくれたのは、貴女。
『甘い』という感覚。
我にあるはずの無かったそれ。
感覚。
味覚。
「……だめ、だ」
この冷たい頬に重なった貴女の頬はあたたかく、やわらかだった。
泣けてくるほど愛しいそれを。
この口で喰いちぎり。
「だめ……だ」
血液を啜り、飲み干し。
黒曜の目玉を、この舌で嘗め回したい。
「だめだっ」
香りだけで我を酔わせて。
香りだけで我を震わせ。
甘い。
香り。
それだけで。
貴女は我の理性を引き摺り回して。
見たことの無い、深みに堕とす。
甘いアナタの身体は。
その血肉は。
人間共の好む砂糖菓子のように、甘く。
人間共の好む砂糖菓子のように、脆い。
脆く、儚い。
愛しい、貴女。
「……っ」
下賎な獣のように。
アナタを貪り、咀嚼し飲み込み。
喰い尽くして。
ひとつになりたいと望み、願う。
「だめ……なの、だ……」
初めて感じたこの『欲』が。
貴女への想いを噛み砕く。