最後まで、幸せ ~ランズゲルグとクロムウェル~
HP拍手から移動しました。もしかしてこの話は微BLになるのかな?
「……あぁ、貴方は本当に美しい」
生まれ育った国を捨て。
青の竜帝陛下の契約術士として生きた。
「あのなぁ、クロムウェル……お前につけた看護師が、危篤だって言って俺様を呼びにきたんだけどなぁ、元気そうじゃねーか」
人間である私は、周囲の竜族達の倍以上の速さで老いた。
そして、今。
こうして、死を迎える。
「陛下、青の陛下……あの時と変わらず、なんと、お美しいことか……」
将軍として兵を率い、戦場を馬で駆けていた時は。
ベッドの上で自分が死ぬのことなど、有り得ないと考えていた。
それを、望んだことも無かった。
「俺様は竜族だ。あっという間にじーさんになっちまう人間とは違う。数十年くらいじゃ、変わりたくても変われねぇよ。ったく、こんなしわしわな手になりやがってっ……しわしわでぺちゃんこで、骨と皮だけじゃねか……」
陛下の美しい青い瞳に映る老人が、今の私の姿。
老い、病み、床に横たわることしかできない私を見、陛下がその美麗な顔を歪ませた。
「訂正致します」
このような身体で、この様な状態であろうとも。
私の目は、眼球は。
この御方を美しい姿を、見せてくれる。
本当に良い目をもらったと、もういない両親に私はあらためて感謝した。
「貴方は、お会いした時以上に美しい……」
「……目、腐ってんのか? 俺様はあの時と変わらない。髪型も、身長も、なんも変わっちゃいねぇし」
言いながら。
陛下の御手が、私の頭部に触れた。
「お前は髪型がだいぶ変わったな。つるつるだぜ?」
50を過ぎると、私の頭部からは毛髪が去っていったが。
陛下の御髪は今も変わらず豊かで、長く、青く、美しい。
「青の竜帝陛下」
私はアンデヴァリッドの王家の末子として生まれ。
父王の望みのまま、戦い、殺した。
戦で敵を殺すということは。
味方を失い、部下を殺すということだと。
ある日、私は気づいた。
しかし、戦わねば守れない。
そして、守ると失う。
それは、矛盾なのか?
単純な、真理なのか?
「…へ、い……陛下」
だが。
私は、見つけた。
この御方を、青の竜帝を。
「なんだよ?」
青く輝くこの御方を一目見て。
他はどうでも良くなった。
「……最後に接吻、してくれませんか?」
「はぁ? 絶対に嫌だ!」
矛盾も真理も、なにもかも。
この御方以上の価値あるものなど、何もないと……。
「そう、仰る、と、思い……ま、したっ……」
「もう喋るな。無理するな、クロムウェル」
竜帝であるこの御方は、美麗な容姿から想像し難いほど強い。
失う不安も無く。
置いていかれる恐怖も、無い。
人である私は、老いて死ぬ。
この美しい竜より、先に死ねるのだ。
「……へい、か……の」
卑怯な男だと、自分でも分かっていた。
「御名をっ……」
「クロムウェル……」
竜帝は、名乗らない。
だが、彼の名を知り、口に出来る者もいる……。
だから、私はこの御方の名を知っている。
「どうか、お……き、かせ、くだ、さ……い」
他人の口が発した『音』として知ったそれを。
私は、私は……。
「……俺はカッコンツェルとインテシャリヌの子」
竜帝としてのあなた、だけではなく。
「ランズゲルグ、だ」
ああ。
これで。
貴方は、私を忘れない。
貴方は、私を忘れられない。
「……あり、がと……うございま……」
ああ。
なんて幸せなこの瞬間。
「……ラ」
愛しい人の名が。
「ラ、ンズゲ……」
この口の中で溶け、融け、熔けていく。
「………ル………グ…」
ああ。
それは、これは。
なんて、なんて。
なんて甘いのだろう……。
「陛下。クロムウェルの遺体が無いんだけど?」
「ああ、薬草園に埋めたんだ。セレスティス、代わりの契約術士候補を数人リストアップしておいたから、後は頼む」
「分かった。今月中にパス達に全員襲わせて、生き残った奴をスカウトするよ。最終面接は僕でいいよね? ……あれ?手、土がついてるね。自分で埋めたんだ」
「あ、ああ。うん」
「……ふ~ん、そっか。術士と武人の才能を持って生まれ、軍人になって将軍になって、青の竜帝に惚れて契約術士になって、それで最後は愛しい人の趣味の畑の肥料としても役に立つ、か。まぁ、あいつ的にも満足なんじゃない?」
「……なんか、植えようと思う。なにがいいと思う?」
「食用植物は不可。観賞用にしなさいね?」
そして。
男は、至上の人に愛でられる術を得る。