表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/38

ハクの料理たまご編

このお話はHP拍手に載せていたものです。

「我は料理ができるようになった。男として“よし”なのだ」


 ダルフェに読めと指示された本には。

 今の時代は料理のできる男がよし、と書かれていた。


「はぁ? っつーか、じじいが料理ぃいいいい!?」


 丸くなった青い瞳が、我を見上げる。

 そこにあるのは驚愕ではなく疑い……か?


「嘘だ。有り得ねぇ! ヴェルには無理だっ!!」

「愚か者め。見ろ、証拠の品なのだ」


 我は城の食堂の椅子に座り、焼かれた鳥……肉を食い終わり骨のみとなったそれを、がりがりと齧って いるランズゲルグの前に置かれた皿に、持参したそれを置いた。

 その皿には茹でた野菜のみが残されていた。

 ふむ、後でカイユに教えてやろう。

 カイユを手助けしてやると、りこが喜ぶからな。


「……はあ? これってただの卵だよな?」

「違う。ただの卵ではないのだ」


 りこが美しいと褒め称えるその顔が。

 皿に置かれた卵を見下ろし、眉を寄せた。


「まっ……まさか、絶滅危惧種に認定された鳥の卵とかなのかっ!? こらぁああヴェル! とっとと親鳥に返して来ッ……いでぇえええええ!! なにしやがるドS鬼畜クソじじいぃいいいい~!!」


 額を指で“やさしく”弾いて黙らせた我を、潤んだ青い目玉が睨む。

 なぜ睨む?

 意識して“やさしく”してやったというのに。

 這い蹲り額を床に押し付けて、我のこの“やさしさ”に感謝すべきなのではないか?


「ったく、いってぇ~なぁ! いつかぜってぇ、てめぇを殴る!!」

「……」


 まだ睨んでおるな……。

 では、“やさしく”ではなく通常通りにやり直すか?

 いや……衆目ある食堂にてランズゲルグの額を割ったら、りこに知れる恐れがある。

 そうなるとたぶん怒られてしまうので、やめるとしよう。


「<青>」


 まぁ、よい。

 今、優先すべきは。

 こやつの間違いを訂正することだ。


「ただの卵ではない。それはゆで卵なのだ」

「は? ゆ、ゆで卵?」

「我が“お料理”した、ゆで卵なのだ」

「へ?」


 ランズゲルグの口が。

 ぱかっと、開いた。


「……」


 阿呆面、だな。


「…………」


 丁度良く口が開いておるので。

 我は皿に置いたゆで卵を掴み。


「ぶごぼぉおおっ!?」 


 その阿呆面な口に、親切にも我自ら卵を投入してやった。

 もちろん、殻付きだ。

 なぜなら。

 我はゆで卵の殻をむくことができぬのでな。


「がばずきがぼっ!?(殻つきかよっ!?)」


 青はしかめっ面で数回咀嚼後嚥下し、言った。


「……殻が“ばりがき”っと斬新な食感をかもしだし……っつーか、殻ごと突っ込みやがってぇええええ! 殻ぐらい剝け! それがマナーだ! 常識だ!!」


 両手でテーブルをばんと叩き、勢いをつけて立ち上がろうとした<青>の頭を横から伸びてきた手が上から押さえけ、座らせた。


「げぶうううっ!?」

「こら。お食事中に立つなんてお行儀が悪いよ? 座りなさい、陛下」


 カイユの父親の白い手袋をした手が、<青>の頭部を容赦無く鷲掴みにしていた。

 りこはこやつが『絵本に出てくる王子様』のようだと言うが……どこがどう『絵本に出てくる王子様』 なのか我には理解不能だな。


「手、どけろセレスティス! 俺様、もう全部食ったんだ!」

「はい? 何寝ぼけたこと言ってるの? お野菜、残ってるでしょ?」


 野菜を残したことを叱っておる……なるほど。

 カイユ同様、こやつも<青>の野菜嫌いを矯正しようとしておるのか。


「そ、それはっ……そのっ、ニ、ニンジンがっ、ピーマンがっ……」

「言い訳は結構。さっさと食べなさい」

「セレスティッ……ううう~、わ、、、、わかった! 食う。食うって!」

「うん、よろしい」


 優しげな微笑を浮かべておるが。

 カイユと同じ色の目玉を見れば、我にだって分かる。

 笑ってないことくらい……ん? 

 目が合ったな。

 我に用か?


「ねぇ、監視者殿。陛下の口に突っ込んだゆで卵、殻つきだったんでしょう? 食べさせてあげるなら、殻くらいむいてあげてくれないかな……こんなんでも僕にとっては大事で可愛い主様なんだから、粗末に扱わないでくれます?」

「粗末に扱った? 否。我は殻をむくのが下手なのだ。黄身しか残らぬ。りこの衣類は“お上手に”むけるのだが」


 そう言うと。


「「…………は?」」


 <青>とカイユの父親の口が、同時に開いた。

 ……そのように物欲しげに口を開けても、もうお前等の口へ入れてやるゆで卵は無いぞ?











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ