ダルフェ・赤の竜騎士時代編~2~
「ねぇ、ダッ君」
「……なんだよ?」
非番の日、俺は父親の店を手伝うことが多い。
ひよこ亭の調理場で、俺は芋の皮を剥いていた。
この芋は皮が赤紫で中は黄身色。
煮ても揚げても美味いが、俺は丸ごと蒸してバターをのせて熱々を食べるのが好きだ。
「あのね、今日はあの人がお城に来るんだって陛下……ママが言ってたんだ。ママはあの人が来るとパパのこと、あんまり見てくれないんだ……」
「そんなの毎度の事だろう? 気にすんの、やめろよ」
「はは、頭じゃ分かってるんだけどね」
竜族の独占欲は、強く深い。
つがいのいない俺には、まだ分からない……分かる日が来るのだろうか?
「前に俺が本人に直接確認したんだから、大丈夫だって。あの人、男と魔女と四竜帝とは絶対に寝ないってさ」
俺は、つがいに出会いたくない。
親父のように、誰かを愛したくない。
愛したく、ないんだ。
「……でも」
鋳物のフライパンを胸に抱きながら、親父は言った。
「ママは……ブランジェーヌは僕を愛してくれたけど、あの人も愛してるから……」
「……ったく」
籠いっぱいの芋の皮剥きを終えた俺は、ナイフを作業台へ置いた。
フライパンを抱いて立っている親父の前に移動し、その頭を裏拳で軽く叩く。
「ダッ君……」
「今夜は飲んで帰ろうぜ? 酔いつぶれるまで付き合ってやるよ、父さん」
*HP拍手小話から移しました。