セレスティスとカイユ
「……ねぇ、父様。私、変なの」
僕のカイユはとんでもなく愛らしい幼竜だ。
背まであるサラサラの銀の髪には、ピンク色のリボン。
先週買ったミルミラと揃いのワンピースが、とても似合っていた。
「カイユ?」
視線をあわせるためにしゃがんだ僕から、カイユが目をそらした。
それはとても珍しいことだ。
カイユは腕力だけでなく気も強い女の子で、いつだってまっすぐに目を見て話す子なのに……。
「変って、なにが変なの? 父様に言ってごらん?」
髪を撫でてやると、カイユは両目をぎゅっとつぶって言った。
「私、ランズゲ……陛下のこと大好きなのに」
「うん、知ってるよ。カイユは陛下が大好きだよね」
歳の近い2人は、とても仲が良かった。
本当はいけないことだけど、陛下はカイユに2人っきりの時は名前で読んで欲しいと言っているくらい仲が良い。
将来的にはつがい名を呼び合うようになるのかもしれないと、口には出さなくても城では誰もが考えているだろう。
「でも、でもっ! なのに……私」
開いた目は、空の青。
僕と同じ色の瞳には、困惑と哀しみ。
「陛下を“怖い”って、心のここら辺で思っちゃうの」
カイユは自分の両手を胸の下……心臓の上に押し付けた。
「大好きなのに、怖いなんて変でしょう!? それに、私に怖いなんて思われてるって陛下が知ったら、きっと、きっと……だから、知られたくない!」
愛しい娘の水色の瞳から、涙が零れ落ちていく。
「カイユ……大丈夫、大丈夫だよ」
僕は制服のポケットからハンカチをだして、拭いてやる。
制服のポケットには、ミルミラがいつも出勤前にハンカチを入れる。
今日は苺柄のハンカチだった。
「父様っ、父様! 私、私っ……ぐすっ」
「カイユ」
僕はカイユを抱きしめた。
僕の言葉が、気持ちが。
愛しい娘に伝わるように、小さな身体だけじゃなく。
その心まで抱きしめたいと、願いながら。
「あのね、カイユ。僕もそうだよ? 僕だって<青の竜帝>が怖い。僕達は同じなんだ」
「父様?」
僕は、カイユを『普通の娘』として育ててきた。
できることなら、竜騎士にはしたくなかった。
「カイユは……僕達は、竜騎士なんだ。だから自分より遥かに強い存在である竜帝陛下が“怖い”んだ。大丈夫、陛下はちゃんと知ってるし、それを理解している。だからなんの心配もいらない」
「陛下は……知ってたのね」
ミルミラ。
ごめん。
ごめんね。
「……私、父様と同じ<青の竜騎士>になれるの? 私も父様みたいに、陛下の役に立ちたい。陛下を助けてあげたい」
微笑みながら君と花を摘む、この小さな可愛い手に。
僕は。
僕が、与えるのは。
「カイユ。君にふさわしい最高の刀を、父様がプレゼントするよ」
「私に刀!? ありがとう、父様!」
愛しい娘。
いつの日か。
僕達の持つ、この刀の重さに気づく日が来ても。
君のその笑顔が、瞳が。
最後まで、輝いていますように。
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