おふろ
いつものように2人でお湯に浸かり、まったりしていると。
「りこ、我もりこのように身体が洗えるようになりたい」
突然、ハクちゃんが言った。
「自分で洗えるようになりたいってこと?」
聞き返すと、ハクちゃんは首を左右にふった。
「否。りこが我にしてくれるように、我もりこを洗えるようになりたいのだ」
「えっ!?」
「人間の男女は風呂場で“洗いっこ”をし、愛を深めるのだと、ダルフェの本に書いてあったのだ。そのための小道具も市販されておるほどだと、本に書いてあったのだ」
「ええっ~!?」
“洗いっこ”?
またダルフェ本情報ですか!?
もう、勘弁してぇええ~!!
「互いを綺麗にしあうことで親密さを増す……猿達も毛繕いをしあうように、人間もそういった事をするのだな。知らなかった愚かな我を許してくれっ、りこ!」
さ、猿!?
毛繕いと“洗いっこ”が、ハクちゃん的にはイコールが成り立っちゃうわけ!?
「どれ、さっそく挑戦してみよう」
「え、あああああのっ、ちょっと待っ……」
ハクちゃんはお湯から上がると、濡れた床をぺたぺた歩いて石鹸へと手を伸ばした。
小さな両手で石鹸を掴み、四本指を拝むような形にして上下に動かした。
「こうして泡を作るんだったな……むっ!?」
その手から。
石鹸がしゅっぽ~んと飛んだ。
「むむっ!? 待たんか! 石鹸の分際で勝手な行動をとるなっ!」
追いかけて拾い上げ、そしてまた……しゅっぽ~んっ☆
何度やってもしゅっぽ~んっと、ハクちゃんの手から勢いよく飛び出して……ぶぶっ、笑っちゃ駄目よ!
「ま、まずは石鹸が一人でも掴める様ににならないとだね……」
「……うむ、そうだな」
これなら『洗いっこ』には当分辿り着けないよね……ほっ。
ハクちゃんが不器用で、本当に良かった。
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