ジリとトラ
「ごめん、怒らないでくれ。ジリギッ……痛っ!」
僕はトラヴィクの右足を踏んだ。
踵に力をこめ、えぐるように。
これ、母様直伝!
「……トラ。君、青の陛下に伝鏡で連絡入れたでしょう?トラのせいで、陛下はおっさんにお腹に穴開けられちゃったんだよ!? 陛下は姉様の“女神様”なのにぃいいい~!!」
「だって、ジリギエが心配だったからっ!」
トラは当代<黒の竜帝>。
僕よりちょこっと年下のクセに、背がちょこっと以上に高いという生意気な奴なんだ。
「心配?」
あ、そっか。
おっさんが適当に転移させて、ばらばらになっちゃうかもって考えたのかな?
「大丈夫だよ。ジリ、ばらばらになったら死んじゃうもん。ジリが死んだら困るのはおっさんだから、おっさんはジリを殺すようなことは絶対にしないよ」
「それもそうだ、心配して損した。<青>には悪いことしたな……わびをかねて、見舞いの品を来週の航空便で送ろう。何が良いかな?」
トラは僕に踏まれ続けている自分の足を、黒い目でじ~っと数秒見て。
うんうんと頷きながら言った。
「フルオーダーのシークレットブーツにしよう! どう思う、ジリギエ?」
トラは僕より背が高い。
青の陛下より、高い。
「君は陛下の足のサイズも好みも知らないんだから、やめなよ」
「じゃあ、やっぱり現金かな? <青>は金が好きだろう?」
「それでいいんじゃない?」
……ねぇ、おぢい。
おぢいは僕がお祖母様に似てるってよく言ってたけど。
お祖母様って、竜族なのに姉様くらい小さかったんでしょう?
背まで似ちゃったら、どうしよう!?
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